自転車と、町の人
先日、買ってから一、二ヶ月ほど乗ったクロスバイクの初回メンテナンスをしてもらいにお店に行ってきました。
左側のグリップがぐらぐらしていたので調整してくれました。ほかにも何か緩んでいたところがあったらしく直してくれたそうです。メンテナンスが無料というのは気が引けますね。そのぶん何か買おうと思いましたが、基本的にあまり小物は置いていないお店なので特に見当たらず。私が2kgほどもある鍵を背負って走っていることを気の毒がってくれましたが、エクササイズのためなので大丈夫ですと答えました。鍵をリュックサックに入れずにそのまま背負えばどうかと提案してくれたのですが、そうすると楽になるのかどうか。今は通勤用のおしゃれなビジネスリュックに鍵を入れて背負っているので、できれば自転車専用のリュックを買いたいと言ったら、「みんなで探しておきます」と言ってくれて、リップサービスなのか親切すぎるのか分かりかねました。一つ一つ真剣に考えてくれるので、もうあまり気になることや悩みがあっても言わないほうがいいのかもしれません。とにかく親切です。待望の自転車メンテナンス教室と初心者ライディング教室とが近々開催されるらしいのですが、参加費はどちらも無料とのことで、なぜだか分からず怖いくらいです。
たぶん、せっかく買ったのに乗らなくなった客のことを心から残念がってくれるので、ただただスポーツバイクを愛しているのだと想像していますが。
帰りがけ、フロントフォークの左側に傷が付いていることに気づき、ショックを受けました。契約している近所の駐輪場に停めてすぐに原因が分かりました。アースロックをするために自転車を柵の隣に停めた際、自転車を柵に近づけすぎていて擦れたようでした。かわいそう。フロントフォークも私も。咄嗟に、「そうだ、キルティングでカバーを縫って、巻いたらどうか」と思ってしまい、その直後、自分のそのアイデアに笑ってしまいました。
せっかくの紺色のかっこいいボディに、おうちとか木とかの絵が描かれた臙脂色とか緑色とか生成り色とかのキルティングの生地を巻くとは、合わなさすぎ。もう少しで裁縫箱からシルクの縫い糸を出してくるところでした。(生地は想像上の物で、持ってません。)
傷が更に付いては嫌なので、とりあえずリュックサックに入っていたビニール袋をフロントフォークに巻きました。もちろん、乗る時は、キルト生地であろうとビニール袋であろうと外します。
駐輪場をあとにして歩き始めると、空の星がきれいでした。長い間、星を見上げてゆっくりながめていないような気がしました。
なんだか、ノスタルジックな気分になりました。昭和的な。昔、近所のおばちゃんたち(と言っても今の私より年下)が、自転車のハンドルのところに付けていたあのキルティングのカバーを思い出して。あれは何のために付けていたのですか。私は、そういった自転車を借りかけた時、不安で乗るのをやめました。手を一旦どうしてもハンドルから離さないといけなくてそうしたあと、すぐにキルティングのカバーの中に一瞬で手を突っ込むのが無理そう。あのカバーは危なくて仕方がないように感じました。でも、ノスタルジックな意味では、自転車のカゴやらサドルやらにもお手製のカバーを付けたりしていたあの頃のおばちゃんたちの感覚には、かなり記憶の彼方に行ってしまってはっきり思い出せないとはいえ、ぼんやりと良い印象が残っています。やっぱり愛車をカスタマイズしたくなるのでしょうね。
小学生だった頃、私も大人になっておばちゃんになって近所の子どもたちに優しく声をかけようと楽しみにしていたのに、最近の子どもたちは「おばちゃん」とは呼んでくれず、心底残念です。それに、私は物分かりのいい大人にも、包容力のある大人にもなれなかったような気がして、途中から自分をわきまえて路線を変更し、「あんな大人でもなんとかやっていけてるのだから」と子どもたちが安心してくれたら、と思っていましたが、結局はどういう印象だったのか存在だったのか分かりません。数年前に今の町に引っ越して来てから、近所の子どもたちと接する機会は皆無です。
以前の町にいた時は、近所の子が話し掛けてくれて、可愛かったです。知らない子とかも話し掛けてきて。公園でわざと近寄ってきて「邪魔」と言って笑っていたり、「鉄棒できるよ、見て」と言ってきたり。私だけ大人なのになぜか初対面の子どもたちと色鬼ごっこをしていたり。
「サッカーの試合が明後日あるんだけどまだ二人足りない」と近所の小学生の子が泣き言を言ってきたこともありました。どういう状況なのだろう、試合の日まで決まっているのにまだメンバーも足りていないというのは、隣町の子どもたちからのお誘いなのか、クラブチームで何人かが急に休むことになったのか、人数が足りないのではフォーメーションの計画や練習どころではないなあ、なんとか二人見つけ出せないものか、私も役に立てるだろうかと思いながら、どういういきさつか詳しく知ろうと思い、「何の試合?」と聞いたら、「だからサッカー!」と怒られました。サッカーなのは分かっていたのだけど。
それに、ぼんやりと、「隣町の子どもたちと空き地で真剣勝負」とかいう返事を想定してしまっていました。児童文学の読みすぎでした。
こちらでも、子どもたちとの会話はなくなりましたが、大人は、知らない人でも話し掛けてきます。
券売機で全然知らない人に私とまったく関係のないことで愚痴られたり、急に雨が降ってきた時に駅で全然知らない人に傘を買うべきか相談されたり、バッティングセンターに行った時に全然知らない人に何球がバットに当たったかを聞かれたり、自動販売機で飲み物を買おうとしている人から「暑くて喉が渇いたからジュースを買おうと思ってる」と嬉しそうな顔で話し掛けられたりしています。
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