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魔女は三日月のように笑う 第四話

#少女 #魔法 #プロフェシー #学園

私は、道のない林の中で足を取られながら必死で後を追った。
「きれい」手つかずの林の中を抜けると急に視界が開ける。頭上には太陽が眩しいくらいに輝いている。
山の中腹のこの場所からでも、街とその先に広がる海が一望できる。夏前の青い空と碧い海に太陽の光が反射して目に飛び込んでくる。
「凛!少しはやる気を出してよ」
急斜面の大きめな石の上で、体を半分丸めながらプロフェシーは言った。

「うーん」言い訳も出ない。
あれから何の進展もないのが事実だった。
「後二週間だよ!二週間でバーン」プロフェシーは三日月のような笑顔を見せる。
「そこで、今日は特別授業をしまーす」
「凛見て!あの山の上にある太陽光パネルの残骸」左前方、山の上をプロフェシーは頭を向ける。
「活用するならそれなりに意味のあるものだと思うけど」
「地盤の整備をきちんとやってないのと、台風などの危険性を計算しないで建ててしまったから、あんなグズグズになってしまっているのさ」建てる前に、住民の反対運動が起きていたのを思い出した。私もクラスメイトの男子に反対の署名を頼まれていた。
「あーっ、お父さんのワイロ疑惑を週刊誌が記事にしていたやつだ」
「ピンポーン」楽しそうにプロフェシーは石の上でバク転をした。
「そもそも建てた外国の会社も太陽光発電なんてどうでもよくてー太陽光パネルの設置をエサにお金を集めるのが目的なんだ」
「そして、あの現状か」私は崩れたパネルの山と、そこだけ山肌が抜き出しのまま茶色くなった景色を見てタメ息がもれた。
「人間って、目の前の自分の利益しか考えていないからね」プロフェシーはイジワルそうに笑う。
「そもそもだよ!」
「何故、長い間こんな種族に舵取りを任せているのか?はなはだ僕は疑問なんだよ」
「こんな未成熟で欠陥だらけの人種なのに!」
「僕たちが陰でどんなに軌道修正をしているか」プロフェシーは少し困ったような表情を浮かべた。
「話がそれたけど、本題に入るよ」
「凛あそこを見て!」プロフェシーは左の山の上を見上げる。青い空に緑が映える景色の中で、そこだけが不自然に木々が切り取られている。
「あそこ?」
「そう、あそこがポイントだよ!」
「あそこから下をなぞるんだよ」
「あっ!あの港がある」
「では、あの山には何があるのかな?」
「そうか!あの導線が問題なんだ」
「今回かなりのヒントをあげたからね!少しはやる気を出して」
「あーっ、それと言い忘れていたことがある!」
「ゲームオーバーになった時は、映像のように街が破壊されるだけではなくて、君の大事なモノがこの世界から一つ消えて無くなるから」そう言ってプロフェシーはウインクをした。
「これで凛もやる気が出るよね?」
「マジで?」悪徳商法のようなやり口に言葉が出ない。
「僕は、しばらくここで日向ぼっこをしていくよ」プロフェシーは直ぐに石の上で丸くなった。
「私は行くわ」元来た道を、私はダッシュで引き返した。

「やっぱりこんな山の上までは画像はアップされてない」スマホのアプリで山頂の位置を確認する。
「でも、何故か道だけはあるみたい」人家は数十メートル下の位置に数件ある。
「何を検索してんのョ」私が作ってきたお弁当をほおばりながら、香月早紀は切り出した。
口の中にはそしゃく途中のお弁当が入ったままだ。
「何かの大きい動物みたい」心の中で連想する。すでにペットみたいな感覚になっている。
「うーん、現場に行ってみないとダメかな」
「あーっ、契約か?契約の話しよネ」香月早紀は、強引に話しかけてくる。
「何か、その契約にペナルティーが発生したんだけど」
「ペナルティー?」
「クリアできなければ、大事なモノを失うって」
「あーっ、それね!人魚姫も言葉を喋れなかったりしたジャン」
「あいつらマジで性格悪いからナ。最初に言わないと規約違反だョ」
「アタシがシスターに掛け合ってやろうか?」
「でも、まだその段階なんだ。アンタ能力低くネ」食べ物が入ったままで大きな口を開けて笑う。
ペットにそんな風に言われて、おもわず私はムッとしてしまう。
「アンタさー頭働いてんの?」
「アンタんちの親父、市長さんじゃなかった」
「アタシなら、そこから攻めるけどネ」
「そうか!」お父さんが家に帰って来る前に、お父さんのパソコンから情報を探ってみよう。
「ありがとう」素直に香月先輩にお礼を言う。
香月は驚いた表情を見せて、持っていたハシを落としそうになっていた。

「フフッ、パスワードは知ってる」自分のパソコンを買ってもらう前に使ったことがあるから。
「まずは市のサーバーに入ればいいんだ」問題の土地には何があるのか。
「先ず、土地の所有者は西山興業。でも一年前に変わったばかりだ」
「その前は板垣産業。ここの住所は小田原」
「あれっ?西山興業と板垣産業の住所が一緒だ。それに売ってすぐに板垣産業は会社が倒産している」
「どういうこと、作為的な倒産なの?」西山興業の住所をコピーしておく。
「えっ、マジで」土地の持ち主は簡単に閲覧できた。問題はその先だ。
プロフェシーが教えてくれた場所は、市の開発プロジェクトの一つになっていた。
極秘案件で、やはりパスワードがないと先に進めない。市長特権で、パスワードさえわかればそのサーバーにもアクセスできる。
その前に西山興業の住所を入力して、アプリで会社を確認する。
「これって、会社として機能していないよね?」そこには、プレハブの平屋が朽ち果ては画像が映し出されていた。
「この会社ってダミー?少なくとも、ここは会社の体をなしていない」探れば探るほど、怪しさが増していく感じだ。
「それに十中八九、市長であるお父さんも関係している」
とりあえずパスワードを入力する。
「くそー、後一回だ」もちろん、私の誕生日では無かった。
「まさか、これではないよね」お母さんの蒸発した日を入力する。
「ビンゴ!」マジでこの番号なんだ。
「あーっ、これって」
「ホテル計画?でも明らかにそんな気配は無いぞ」
「土地を所有する会社がダミーなら、このホテル計画も偽装かもしれない」そして、市長であるお父さんは知っていて許可を出した。
明日、私は学校を休むことにした。
「山の上までピクニックに行くぞ!」そんな気分だ。

「もう、暑いよ」すでに夏が来ている感じだ。額から汗が噴き出てくる。
目的地に行くために坂を五分歩いただけなのに、持ってきた水筒も半分の量になってしまった。
見上げれば空にはほとんど雲がなくて、青く澄んで広がりを見せる。吸い込まれそうなほど雄大な奥行きを感じる。
「ピクニックにはバッチリかも」今日は朝からおにぎりを作って、気分を上げてきた。
学校には委員長の中村さんから言ってもらった。中村さんは私に何も聞かない。
「わかったわ!気をつけて」それだけをつぶやいた。
「それにしても何だろう?」さっきから私の横を大型のトラックが追い越していく。一台や二台ではない、狭い公道にスピードをつけて登って行く。
「積んでいるものが変だ、中古の家電や軽自動車まで積んでいるトラックがある」ホテルの建設にはおそらく関係ないシロモノだ。
「これは、産業廃棄物の違法投棄だ!」
周りの住民にはホテル建設と説明しておいて、処分に困った廃棄物を捨てる場所にしているんだ。
こぼれ落ちる汗を拭きながら、私はやっと現場にたどり着いた。
目の前に広がる光景に、一瞬めまいを起こしそうになる。
「ああ、やっぱり」山頂を埋め尽くすガラクタを目の当たりにして、私は確信した。
「この瓦礫の山が崩れて海まで流れ落ちるんだ」瞼の裏に、視聴覚室で見た映像が浮かんでくる。
私は、スマホのカメラで辺りを撮り始めた。
「この現状をSNSで拡散させよう」頭の中では、マスコミにリークすることも考えていた。
「ようお嬢ちゃん、学校に行かないで何をしているのかな?」
「勝手なことしちゃダメだよ。スマホこっちに渡して貰おうかな?」
二人の運転手が、トラックを降りて私の目の前をさえぎる。
私は、持っていたスマホをジャージの後ろのポケットに突っ込んだ。
すぐに踵を返すと、ダッシュで元来た道を目指す。
「おっと、若いからすばしっこいね」トラックから降りた三人目の男が道を塞ぐ。
とっさに私は、大柄な男の右に行くようにフェイントをかけてすばやく左を抜ける。
「しまった!」外見に似合わず男のフットワークは軽かった。抜けようとした私の右の手首を掴むと強引に引き寄せる。
そしてジャージのポケットに手を入れると、私のスマホを奪い取ってしまう。
「放せ!」叫んでも、男の力は緩まない。
前方に新しいトラックが止まると、異変を感じた運転手が降りてくる。
「これ以上増えると厄介だな」
私は自分の体を男のふところに滑り込ませる。そして目の前の男の顔面を目掛けて、勢いをつけて自分の頭をぶつけた。
「イテテテッ」男の鼻から真っ赤な血が噴き出る。私のオデコ周辺も、火花が散ったような痛みが走った。
力の緩んだ男の手から、私は急いでスマホを取り返すと一目散に坂道を目指す。
「うっ」一瞬息が止まった。背中に激しい痛みが走る。何が起きたのかわからなくて、頭の中が真っ白になる。
私は地面に前のめりに倒れこんでしまった。
倒れながら振り向くと、後ろにいた若い男が肩で息をしている。
「あーっ、飛び蹴りを喰らってしまったんだ」体勢を立て直して起きようと瞬間、右脇腹に強い痛みを感じる。鼻を押さえながら男がキックを繰り返す。
「くそー、諦めるしかないのか」私は意識が薄れていくのを感じていた。
その時、坂の下の方から周りが迷惑なほどの爆音が聞こえて来た。
「このバイク音聞いたことがあるぞ」遠のいていく意識の中で「うるせー」と叫びそうになる。
爆音が恐ろしい速さで近づいてくる。
霞んだ目の先には、マフラーを違法改造した原付バイクにまたがった如月蘭がいる、
その肩には、目を尖らせたプロフェシーも一緒だ。
「やっと出番がきたわ!張り切って行くわよ」
「おせーんだよ」ノリノリの如月蘭たちに向かって、私は毒づいていた。

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