イタコ

ある古びた商店街の出入り口付近に商店街組合に無許可で置かれた机と椅子その上には『イタコ』とだけ書かれた木札といかにもといった虚な目をした老婆が座っていた。

「あの…会いたい人がいるんだけど」

老婆は虚な目を薄く開いて目の前に立っている少年に目を向けた。

「イタコ?っていうんだよね本当に亡くなった人と話す事ができるの?」

「できますとも、出来なければ私たちに仕事なんてありませんから」

「じゃあ僕のお母さんに合わせて、お金ならちゃんと持ってるから」

少年はポケットから千円札を取り出した

「僕、小さい頃にお母さんと離れ離れになっちゃって」

「これじゃちょっと足りないけど、坊やは特別だから」

そう言うと老婆は何やら小声で呟きながら目を瞑った、次第に身体の力は抜けていきぐったりとなると穏やかな口調で話し出した。

「やすひと…1人にしちゃってごめんねお母さんずっと会いたかったのよ」

女の目には涙が浮かんでいた、すると少年は顔に不敵な笑みを浮かべ次第に声を出して笑い出し話を遮るようにこういった

「やっぱりイタコなんて嘘じゃないか僕のお母さんは死んでなんかいないんだもの、こんなのただのいんちきだいんちき」

そう言うと少年は笑いながらその場を後にした。

「……」

「あれで本当によかったんですか?」

「あの子は交通事故ではやく亡くなって自分が死んでいる事にも気付いてない、それに早くに子供を亡くしたお母さんにも少しくらい話しをさせてあげたいじゃない」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?