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2024北海道西部旅行記その5

5日目:湯の川温泉~五稜郭~函館競馬場~函館山~湯の川温泉

 湯の浜ホテルで目が覚めたのは8時過ぎだった。
 前日に夜更かしをしたせいだ。思った以上に作業に集中してしまって寝たのは午前2時ごろだった。ただ今日はそんなに予定が詰まっていない。大した焦りもなく淡々と準備を済ませると、また路面電車に乗った。
 函館の路面電車は非常に使い勝手がいい。湯の川から函館市街の端まで通っていて、費用もそれほどかからず、頻繁に来てくれて、なおかつ電子マネーが使える。それに車両の種類がいろいろあって良い。車両ごとにスポンサーがついていて、そのスポンサーにちなんだカラーやデザインが施され、次に自分が乗る車両はどんな姿をしているんだろうと楽しみにもなる。

乗ったのはコーヒー店がスポンサーの車両。色合いがレトロで好きだ

 そんな車両に15分ほど乗って五稜郭公園前駅に到着した。
 ここから少し北に行けば五稜郭だ。グーグルマップで見える、きれいな五芒星の区画を目指し歩いていく。
 10分ほど歩くと白く大きな建物が見えてきた。天に向かってそびえる塔、五稜郭タワーだ。ここの展望台から五稜郭の全景が見渡せる。早速建物に入り、展望台へのチケットを買った。
 エレベーター内にはエレベーターガール、いわゆるエレガさんがいて、説明や紹介をしてくれた。壁にはうっすらと土方歳三や榎本武揚の姿もある。説明を聞いているとすぐに上階の展望台へ着いた。自分はあとから出たが、先に出た人たちが目前の光景を見て次々と歓声を上げるのを聞き、胸が高まるのを覚えた。
 そして目にした光景に、自分も目を奪われた。
 予想どおりといえば予想どおりだ。テレビやネットで何度か見た五稜郭の姿。しかし今回は自分の目でそれを受け止めている。感動ってやつを久々にしたかもしれない。

タワーから見下ろした五稜郭。やっとこの目で見られた

 こうした形式のものは世界中にあって、稜堡式城郭りょうほしきじょうかくというようだ。
 稜堡とは、五稜郭で言うなら五つの出っ張りの部分のことをいう。ここに砲台や銃兵を配置すれば、攻めてくる相手に効果的な反撃を加えられるというものだ。つまりはこの形、ただ威容を示したり美しさを誇示したいわけではなく、戦いのための理にかなった形をしているということなのだ。
 そして上の写真手前の部分、城郭本体からは少し離れた矢尻のような場所を半月堡はんげつほという。出入り口の防御のために築かれたものだと説明にはあった。そしてこの半月堡、本来なら五芒星のくぼみの部分全体に造る予定だったという。そうしたらもっと壮麗になっていたのかもしれないと思うが、この、言ってしまえば不完全な状態がリアルだなという感じもする。江戸から遠く離れた場所で、しかも幕府が崩壊する直前の建設だったということもあり、うまくいかなかったことも多いのだろう。それでもこれだけ立派なものが令和の今でも残り続けているのはすごいことだと思う。

半月堡についての説明。中央下の図が初期の構想図で、半月堡が5か所に張られている

 タワー内にはそのほかにも土方歳三の像や、アメリカ船の函館来航から戊辰戦争終盤の戦い、いわゆる箱館戦争の終結までを説明する展示もあった。ここの展示を見れば五稜郭の建設背景や歴史が分かる。目でも頭でも楽しめるので、五稜郭に来た際はぜひ寄るべきだ。
 そして休憩のあと、実際に五稜郭へ足を踏み入れることにした。橋を渡って半月堡を越え、中央にある箱館奉行所へまず向かう。
 ……ちなみに「函館」と「箱館」が混在してしまっているので気になるかもしれないがご了承いただきたい。地名としては現在使用されている「函館」表記が基本だが、事件や建物などの固有名詞としては当時のままの「箱館」表記を使用しているものもある。
 こちらの箱館奉行所、平成18年から22年に復元工事が行われた。本来はもっと広いものだったようだが、その中枢部分だけを再現している。工事は宮大工などの職人を用いた、従来の姿を忠実に復元する本格的なものだったようだ。その努力の歴史も奉行所の中に資料として展示されていた。

箱館奉行所。正面から見るとこじんまりしているが中は結構広い

 奉行所内はいくつかのゾーンに分かれていた。
 まず、当時の姿を忠実に再現した「再現ゾーン」。こちらは72畳もある大広間がメインの展示で、そのほかにも武器の保管場所や厠なども再現されていた。
 そして「歴史発見ゾーン」。五稜郭タワーの展望台と同じように、箱館戦争の歴史がメインの展示だ。ただエンフィールド銃や砲弾などの物理的な資料が展示されているほか、戦争に関わった人物たち個人個人の紹介などもあってボリューム満点だった。
 そして復元工事の映像を収めた「映像シアター」と、その模様を資料とともに紹介する「建築復元ゾーン」があった。こんなにあって入館料が大人500円とは安い。それに復元工事がされてまだ十数年なので建物自体が新しく歩きやすい。五稜郭に来たらここにもぜひ入っておきたいところだ。

大広間。広さは全体で72畳もある

 しかし立派な建物から外を見渡していると、榎本武揚率いる脱走軍はどんな心境でここにいたのか、当時を偲んでしまう。
 この五稜郭で何を考えて彼らは時を過ごしていたのか。私は水戸の出身なのでどちらかというと戊辰戦争のことを旧幕府軍寄りで考えてしまうところがある。もっと平和的な解決方法があったんじゃないか。そもそも江戸城無血開城の時点で終わりにしておけばよかったんじゃないかなど、いろいろ考えてしまうのだ。しかしそうしたら蝦夷共和国が誕生していたかもしれず、それはそれで困ったことも増えたのかもしれないが。
 奉行所を出たあとも稜堡の先まで行ってみたりしながら五稜郭を堪能した。観光というより歴史の勉強をしたような感じがする。やっぱり本読みより実地調査のほうが頭に入ってきやすいようだ。

 そしてここでお勉強は終わりだ。この先は観光に頭を切り替えよう。
 函館に来たら行ってみたい店があった。というか前日、函館に着いた時点から気になっていたが寄らなかった店だ。その名をラッキーピエロという。 通称ラッピ。ご当地ハンバーガーチェーンだ。
 ……という説明を書いてはみたものの、実際に行ってみて自信がなくなってきた。というのもメニューがハンバーガーだけではなく、カレー、オムライス、焼きそばなどもある。ウェンディーズ・ファーストキッチンよりもメニューの幅が広い。これをハンバーガーチェーンと言い切ってしまっていいのかどうか不安が残る。
 そして店の外観や、店内に入ってからの情報量もやたらと多い。まるでインターネット黎明期の手作りホームページを彷彿とさせる。世間がミニマル化に傾き始め、各大手企業がフラットデザインを採用し始めた現代に全力で逆行するようなその姿勢、割と好きだ。

ラッキーピエロ五稜郭公園前店。もはや何屋なんだという外観

 寄った時間が昼ごろということもあり、行列ができていた。ただファストフード店ということもあり回転は速いようだ。自分の前には10人ほどが列を作っていたが、そこまで待つこともなく自分の番が回ってきた。
 注文は人気ナンバーワンだというチャイニーズチキンバーガーのセット。前に並んでいた人たちも大体これを注文している。そしてこれ見よがしにディスプレーされていたラッキーガラナという缶入りのドリンクも注文した。
 客が多いためか提供には時間がかかるようで、番号札を受け取ってから席に座って待つことになった。少し時間ができたので今日これからのことを考える。
 今日の予定は五稜郭と函館山がメインだ。五稜郭はもう見終わったし、函館山は夜景を見たいので行くにはまだ時間がある。午後をどう過ごそうか。そう考えた辺りでバーガーが出てきたので食べることにした。まずは食レポだ。

チャイニーズチキンバーガーセット&ラッキーガラナ

 セットはバーガーのほかにウーロン茶と、ラキポテというポテトにチーズとミートソースをかけたもの。
 バーガーはいわゆる唐揚げにレタス、マヨネーズをバンズで挟んだシンプルなものだが、これがやたらとうまい。特にゴマがまぶされたバンズがおいしいと感じた。確かに人気が出るのもうなずける。
 ラキポテは意外と量が多い。マグカップの底までびっしりと太いポテトが入っている。そしてウェンディーズのチリみたいな辛さはない。ただのミートソースなので当然だが。
 ラッキーガラナはまあ……ガラナだ。ジャケ買いだったのであまり気にならないが。いやそもそもガラナの味に慣れていないので、こんなもんかという感じだ。味はうまいことはうまい。
 最後までおいしくいただき、店を出るとしばらく降っていた雨がやんでいた。また路面電車の駅まで歩きながら次にやることを考える。

 そして出した結論が、函館競馬場に行こうというものだった。
 というのも昨日、路面電車で函館駅前から湯の川温泉に移動する際、車内の広告にも競馬場の宣伝があったし、何より途中で実際に函館競馬場の駅を通り過ぎていた。しかも行った日がちょうど第1回函館競馬の開催直後だったようで、何人もの客が電車を乗り降りするのを目にしていたのだ。
 これはきっと神の思し召しだ。行かねばなるまい。競馬場自体の設備も充実しているだろうし、儲かるかどうかはともかく夜までの時間潰しにはなるだろう。
 ということで函館方面には向かわず、湯の川方面の路面電車に乗って競馬場に向かった。私は何度か友人に誘われて有馬記念に行ったことがある。G1開催日の中山競馬場は殺伐としていて、至るところで競馬新聞を広げて予想に熱中する人を目にし、寄りかかって休むスペースもないほど人でごった返している魔境だった。まあブエナビスタやオルフェーヴルのラストランを間近で見られたのは自慢だが。
 しかしそれに比べると函館競馬場は平和そのもので、雰囲気も明るい。……いや中山も本来は明るい雰囲気なんだろうが有馬のときだけは別だ。
 馬券はいつも使っているネット上のもので買った。なんとなく雰囲気が出るので物理的な馬券を買ってもいいのだが、もはや買い方を忘れてしまっている。あのマークシート、どうやるんだっけ?見た時点で諦めてしまったが。
 ちなみに買い方はワイドが基本。ド素人なので大きく張ることはしない。ちまちま買って何千円かプラスになればいいやぐらいの感じだ。そして選ぶ馬も本命ガチガチ。儲けが少ないうえに外したら落胆も大きいが、小心者なので冒険ができない。
 昼過ぎから参加したのでレースはもう終盤に入っていた。そして出馬表を見て驚いたのが、意外と有名な騎手が参加しているということだった。武豊や池添謙一など、自分でも知っている名前がある。騎手以外の情報はさっぱり分からんので騎手優先で賭けることにした。頼むぜ武、池添。

 2レースほどをゴール手前の最前列で見たあと、雨が強くなってきたので退散することにした。レースの結果は言いたくもないが、それでは日記にならないので言う。惨敗だ。
 実はホテルに退散したあと、近くのランドリーで洗濯をしながらも、よせばいいのに賭けを続けていた。そして「よせばいいのに」という言葉どおりの結果になったことを記録しておく。やっぱ名前で買っちゃだめだわ。
 そして金銭としての収穫は得られなかったが、競馬場で自分が立っていた真横に謎のオッサンがいて、いきなり最前列の柵を乗り越えたと思ったら植木を抜けてターフのところまで入り込み、警備員にきっちり詰められたあとどこかに連れていかれたことを書いておく。
 入ってしまった理由も警備員に説明していたので記しておくと、「芝生の状態を確かめたかったから」らしい。いや触って分かるもんなのか、そもそも情報が出てるんじゃないかとかいろいろ思ったが、なかなか貴重な経験をさせてもらった。

函館競馬場。第1回は7月中旬まで開催中

 衣服の洗濯と乾燥を終えてホテルに戻り、早めの夕食を食べた。
 このあとはまたホテルを出て路面電車に乗り、函館駅のほうへ向かう。そしてロープウェーに乗って夜景を見る予定だ。なので夕食は少なめにしようと思ったが、この湯の浜ホテルの夕食ビュッフェが豪華すぎて手を抜くことができない。リニューアル直後なのか食堂全体もシンプルかつ清潔に整っていて、品数も多い。前日はスマホを部屋に忘れて写真を撮れなかったが今日は載せておく。

湯の浜ホテル2日目の夕食。左上の刺し身は連泊客のためのサービス。ありがたい
追加で注文した大沼ビール

 新鮮な刺し身だけでなくライブキッチンでのジンギスカン、塩ラーメン、締めのカレーなんてものもある。もうここで満腹になって函館山に行くのをやめようかと思うぐらいの充実ぶりだったが、キリのいいところで食堂を抜け出し、そのままフロントに鍵を預けて路面電車に向かった。1日にもう何回乗るんだよというぐらい路面電車に乗っている。これがあるのとないのとでは函館観光の難易度が変わってしまうレベルだ。
 十字街という駅まで直通。そこで降り、歩きでロープウェー入口へ向かう。有名な函館の夜景だ、さぞかしこの時間の路面電車は混むだろうと思っていたが、意外にすいていた。自分のほかに十字街駅で降りたのはカップル1組だけだ。どうしてだろうと首をかしげながら歩いていると、だんだんその理由が分かってきた。
 ロープウェーの駅に着くまでの坂が険しい。だから大体の人は車やバスで近くの駐車場まで上ってきている。自分のようにひたすら歩きで路面電車の駅から向かう人のほうが少ないのだ。とはいっても山登りで鍛えているのもあり、私はそこまで坂を苦にはしない。何組かの家族連れを抜き去り山麓駅に到着した。しかし寒くなると思って上着を着てきたのが裏目に出た。息も切れているし汗も出ている。なんとか荒い呼吸を抑えつつチケットを買い、乗る順番を待った。
 ほどなくしてゴンドラに乗り、山頂に向かう。乗っている途中もそこかしこで歓声が漏れてきた。ゴンドラ後方に乗っている人たちからはきれいな夜景が見下ろせているようだ。自分は前のほうに乗ってしまったので真っ暗な森しか見えないが。
 ロープウェーの終着である函館山展望台に着き、大勢の客とともに階段を上へと向かった。100万ドルの夜景なんてのは使い古されたような言葉だが、さて実際はどんなもんか。
 最上階に着き、五稜郭タワーと同じように先人たちの歓声を聞きながら自分も柵の近くで見渡してみた。途端に飛び込んでくる華美な夜景。おお……と心の中で感嘆しつつベストポジションを探す。予想どおり人が多い。実は昨日の時点で行こうかどうか迷っていたのだが、土曜の夜ということもあって混むだろうと思い避けたのだった。しかし土曜よりは人が少ないだろうと予想した日曜の夜でもかなりの混みようだ。それから室蘭辺りでは全然目にしなかった外国人観光客も大勢いた。やっぱり人気スポットは平日攻めが基本だな。

函館山からの夜景。少し煙っているが、それでもきれいだ

 やっとベスポジを見つけて何度も撮影した。しかし夜景ってのはきれいに撮ろうとすると難しいものだ。ここ何年か冬にきれいなイルミネーションを見る機会があり、そのたびにきれいな撮り方を勉強しなきゃと思っていたが、やっぱり本格的にどこかで学んだほうがいいようだ。
 30分ほどいただろうか。写真に撮り、動画も撮り、最後に自分の目にしっかり焼き付けてからまたロープウェーに乗った。
 帰りの路面電車に揺られながら、本日の成果を考える。
 五稜郭、ラッキーピエロ、函館競馬、函館山の夜景。昨日の公会堂などと合わせて、2日間でやれることは大体やったような気がする。あとは有名だというラーメンのあじさいだったり、カレーの五島軒に寄れなかったことは心残りだが、また次の機会に。
 ……この「次の機会に」という言葉、今までもこれからもいろんなところで使うだろうなという気がしている。旅をしていると満足も得られるが、物足りなさや寂しさも感じてしまうものだ。旅先の解像度が上がってしまうと、それだけ魅力的な場所が増えてくる。全てを楽しむことはできないのだ。
 さまざまな場所を再訪できる「次」がいつ来るのだろうか。よぼよぼの爺さんになってしまうまでになんとかしたいものだ。

 5日目の反省点。
 競馬。

 ……ひと言で終わってしまうのもなんなので付け足しておく。
 函館、いいところだった。リアルな話、ここで暮らすのもいいんじゃないかと思えるぐらいには気に入った。
 泊まったホテルも良いところだったので、今後もワーケーションなどしたいときは選択肢に入れようと思う。今回は新千歳から帰るわけだが、函館空港という選択肢もある。ここで降りれば湯の川温泉まではすぐそこだ。できればLCC便が欲しいところだが。
 湯の川を含め、函館市街もきれいな街並みで、朝市や赤レンガ倉庫など見どころ・食べどころも豊富だ。夜景や五稜郭ばかりが先走って紹介される箱館だが、観光客を受け止めるキャパが非常に広い場所だというのを感じた。
 そして、いよいよ明日からは札幌に移動する。考えてみると室蘭~函館~札幌とだんだん都会に行くような旅程だ。楽しみにしつつ、次回へ続く。


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