見出し画像

2024北海道西部旅行記その1

 現在、この文章は太平洋上で書いている。
 無職の期間を利用して決めた北海道への旅は、思いもよらぬほど長いものとなった。
 まず茨城県の大洗からフェリーに乗って北海道の苫小牧へ。そこから登別で2日、函館で2日、札幌・定山渓で3日。船の移動を含めると、8泊9日という長旅となる。
 思い立ったきっかけは、自分の誕生日をどう迎えるかということだった。もう40を超えた独身男の誕生日など誰も祝ってはくれない。ならば自分だけで突拍子もないことをして迎えてやろうという思いがあった。それで思いついたのがフェリーだ。大洗から北海道に向けてフェリーが出ていることは昔から知っていた。どうせ暇なのだ、これに乗って船旅を楽しもう。そして船上で誕生日を迎えるという、これまでしたことのない経験をしよう。
 もちろん飛行機を使えばもっと短時間で、しかも時期によっては格安で移動できることは知っている。しかし今無職の自分は時間だけは有り余っている。じゃあこの時間を使って、社会人時代にはできなかったゆったりした旅を楽しんでやろうと思った。
 では帰るのはいつにしよう。今は費用さえ許せば何日でも延長できる。最初は1週間ほどを予定していたが、帰りの飛行機が一番安い日が9日後だった。それならと9日の旅程を立てたのだ。仕事が待っている状態ならこんな予定は立てられない。サラリーマンを辞めたらこんなに自由な時間が待っているのか。今の自分は笑ってしまうぐらい身軽だ。
 よってこれから9日間、私は北海道で自由な旅をする。この旅行記が何回にわたって書かれるかまだ分からないが、3泊4日の北陸旅行のときは4回分の分量になったので、きっと今回は9回程度の長丁場になるだろう。読んでくれる方がいたら、気長にお付き合いいただきたい。

1日目:大洗〜太平洋上(さんふらわあ ふらの船上)

 まず自宅から大洗に移動。乗るのは19時45分出発のフェリー、さんふらわあ ふらのだ。
 17時半までに乗船手続きを済ませてくださいとあったので、17時ごろにフェリーターミナルへ到着した。事前にネット予約でチケットの購入を済ませていたので手続きは簡単だ。自動受付機に予約番号とアクセスキーという2つの数字を入力するだけ。機械からは、まず紙で乗船案内と領収書、そしてバーコード付きのカードが出てきた。乗船の際はこのカードを見せるだけでいいようだ。
 しばしロビーで待ち、18時から乗船開始。カードは3回ほどチェックされた気がする。バーコード読み取りで1回、エスカレーターを上がったのち1回、部屋案内で1回という感じだ。
 部屋はコンフォートを予約した。いわゆるカプセルホテルのような形のものだ。シングルサイズの寝床、足元にテレビ、横にハンガー、照明、飲料ホルダー、小物置き。コンセントのプラグも1つあった。寝ている間に充電しておくには便利だ。それに廊下には鍵付きロッカーも多く備え付けられている。100円かかるが、鍵を開ければ戻ってくる便利なタイプだ。寝床はカーテンで仕切られているだけなので中を探ろうと思えば誰でもできてしまう。貴重品はロッカーに預けておくのが無難だろう。

コンフォートの客室。シンプルかつ清潔

 船に乗ることだけが目的だったのであまり気にしていなかったが、設備は驚くほど整っていた。レストランはもちろん自動販売機も豊富。あと売店、喫煙所、ゲームコーナー、ドッグランなんてものもある。寝て食って海を眺めるだけみたいな旅を想像していた自分が馬鹿みたいだ。海の上にあるホテルという言い方が最もふさわしい。やるな三井商船。

コンフォート室内。みんな気を使っているのか静かなものだった

 19時45分、大洗を出港。
 ちょうどレストラン前の椅子に座っていたときだった。めまいのように最初は感じたが、ほどなくして船が動いているのだと気付いた。揺れ方はガタガタといった小刻みではなく、ゆったりと、大きく左右に振られている感じだ。ああ動いているなと全身ではっきり分かるが、不快になるほどではない。人によってはこれでもダメかもしれないが、私は全く許容できるレベルだ。
 しかし歩いていると、さすがにふらつくときがある。なるほど、やけに手すりが多いのはこのためか。  
 20時からレストランへ入った。食事は基本的にバイキング形式。うな丼やカツカレーなどの単品もあるが数量限定。
 私は夕食と朝食のセット券を購入した。併せて購入すれば別に買うより200円ほど安くなる。実は昔からこういうのに弱い。15時ごろ遅い昼食をとったからそんなに腹も減ってないのに、5時間後にバイキングはちょっと重くないか。まあいいや、お得だし。そんな感じで安易に買ってしまった。
 バイキングは、品数はそれなりだった。ちょっと期待外れか……と思ったが、ここは船の上だということを思い出して納得した。そもそもこの状況でこれだけの食事ができることが異常だ。
 料理は肉、魚、グラタン、サラダ、ご飯、味噌汁、ちらし寿司、デザートのフルーツとケーキ。ドリンクバーもある。空きっ腹でもないのに詰め込んでしまった。まあ深夜に腹をすかせるよりはマシか。

夕食。気持ち軽め

 22時ごろから風呂に入った。ちょっと小さなスーパー銭湯といった趣で、洗い場も多く、浴槽は2つ。それにサウナもあるのに驚いた。大きくはないがちゃんとサウナだ。夜も遅いので窓の外は真っ暗だが、大きく揺れる船の中でサウナに入っているというのはなんとも妙な心持ちだった。「あれ、今船の中だよな?」と自問自答してしまったぐらいだ。移動しながら、しかも海の上なのに、こんなに普通に生活ができてしまうものか。さすがに浴場の写真は撮れないが、貴重な経験をした。
 それと面白いと思ったものが1つ。トイレのドアだ。マグネットがドアの内側と壁に仕掛けられており、開けた状態で固定できる仕組みになっていた。確かに揺れる船内だと、中途半端な状態のものは左右に振られて音を立てる。だからどこかに固定しておかないといけないわけだ。プロムナードにある椅子も全部固定されていた。なんというか、船ならではの設えだ。
 さて、やることもなくなったので寝ながらスマホでも見るかとなって初めて気付いた。Wi-Fiが切れている。当たり前だ、陸から遠く離れた洋上に電波は届かない。今ちょうどAmazonプライムで見ていたドラマがあったので事前に落としておけばよかったと後悔した。仕方なくアプリから消し忘れていた電子書籍を読み返してその日は眠りについた。

 1日目の反省点。
 船に乗ることばかり考えていて、船の中で何ができて何ができないかを予測できていなかった。それから、Wi-Fiが切れた状態の現代人はこれほど無力なのかと思い知らされた。いや人にもよるだろうけど。
 まあ強制的にデジタルデトックスができたと考えればいいか。結局スマホを使って本を読んではいたが、思いのほか集中できた。いつもならSNSやスポーツ速報を見るとかで読書を中断してしまっていたが、それができない分1つのことに没頭できたのだろう。これはこれで良いことだ。

 北海道旅行と言いながらまだ到着してもいないが、次回へ続く。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?