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2024北海道西部旅行記その2

2日目:太平洋上〜苫小牧〜白老〜室蘭

 夜中、何度か目が覚めてしまった。
 船が揺れているせいなのか、それとも床が硬いせいなのかよく分からないが、1時、3時、5時といった間隔で2時間おきに起きては寝返りを打ち、また寝るを繰り返していた気がする。ちょっとあれだな、熟睡するには個室のほうが自分には向いているのかもしれない。
 朝7時半ごろになって船内放送が流れた。朝食の時間だ。のろのろと起きてレストランへ向かう。昨日夜の残り物でも出るのかと思っていたらメニューは全然違った。そして「朝カレー復活しました」との張り紙。朝からカレーが食べられる幸せを噛み締めながら朝食をおいしくいただいた。

朝食バイキング。船上でもこれだけのものが食べられる
朝カレー。皿の縁にこぼしてしまう癖、なんとかならんか

 食後は少し二度寝してから、また風呂に入った。
 今度は空が明るいので外の様子がよく見える。かなりのスピードで進んでいるのがはっきり分かった。船の旅、贅沢というかなんというか、自分には不相応なくらいリッチな気分になれる。金と時間に余裕があればぜひ皆さんにもオススメしたい。
 10時を過ぎた辺りから船内放送が頻繁になってきた。船は定刻どおり13時半に苫小牧へ到着するとのこと。天気や波が荒れ模様だったら1時間くらいは遅れることを覚悟していたから助かった。おかげで今日の午後もじっくり時間を使えそうだ。
 陸地が近づくにつれ、早くこの揺れから解放されたいという思いと、もう少しこの船旅を楽しんでいたいという思いが交錯するようになってきた。まだ旅の始まりだというのにもう名残惜しい。また今度ほかの航路でフェリーに乗ってみようかな、そう思わせられるくらいに良い船旅だった。
 ラスト1時間くらいで船内にあった『るるぶ北海道』を読み漁り、今後の計画を立てる。実は細かい旅程を今回は立てていない。泊まる場所と滞在する地域を大雑把に決めたぐらいで、あとは柔軟にというやり方にした。これは前回の北陸旅の反省を踏まえてのものだ。明らかにあのときは詰め込みすぎた。立てた予定を消化することばかり考え、移動に次ぐ移動で疲れてしまったのだ。今回は二の轍は踏まないようにしたい。しかし柔軟という名の無計画では本末転倒だ。午後2時からスタートする今日の時間をどう使うか。
 ちなみに泊まる場所は東室蘭のアパホテル。2泊だ。その翌日は朝から函館に移動。つまりこの周辺で使える時間はあと1日半。
 ここで2択が発生した。今日の残り時間を登別観光に充て、明日1日を洞爺湖のために使うか。もしくは白老のウポポイに今日の時間を使って、明日1日を登別に使うか。
 白老のウポポイは『るるぶ』を見て急浮上してきた選択肢だ。そういえばCMをやっていたなあと思いながら読んでいたら俄然興味が湧いてきた。漫画の『ゴールデンカムイ』も好きだし、全巻持っている。洞爺湖の自然も魅力的だが、定山渓にも行くしなあ……。それに登別観光を午後3時から始めたとして、どこまで行けるのか。その所要時間すら分かっていないのだ。
 迷いをまだ持ったままフェリーを降りた。ちなみに下船の際も誘導はスムーズで分かりやすかった。初めての船旅だったが、さしたる問題もなく終えられたことを感謝したい。ありがとう、さんふらわあ。
 フェリーターミナルを出てバスに乗り、苫小牧駅に到着した。さて、そこからどうするか。とりあえず室蘭方面に向かうか……と思っていたら、いきなり出鼻をくじかれることになった。
 電車がない。あっても特急ばかり。鈍行は1時間後だった。これは正直、予想外だ。急いで特急の予約をスマホで始めるも、直近の出発は5分後ぐらいだったので間に合わず。というか券売機でやればよかったのだが、焦ってしまってその考えが浮かばなかった。
 これで東室蘭行きの列車は30分後の特急か、1時間後の鈍行になった。ここでのタイムロスは痛い。ひとまず乗るだけ乗ろうと登別までの特急券を買い、考えがまとまらないまま特急「すずらん」に乗った。
 車内でもスマホをのぞき込み、登別について考える。目当ての地獄谷には、駅からバスに乗らないといけないようだ。だとしたらその時間も計算に入れる必要がある。ホテルのチェックイン時間は20時と遅めにしてあったが、それであっても登別で自由に使える時間は限りなく少なくなる。
 考えに考えた結果、やはり今日は白老に行くことにした。ウポポイは駅から歩いて行けるので時間も計算しやすい。それに登別は今回の旅の主役クラスだ。こんな遅い時間から行ってもろくに楽しめないだろう。
 よって登別までの特急券だったが、途中の白老で降りることにした。ちょっと損にはなるが仕方がない。決断の遅い自分が悪い。
 白老駅は新しく作り直されたようで、きれいに整っていた。しかし急に発展した場所あるあるというか、そういえば石川の加賀温泉駅辺りでも思ったことなのだが、駅の周りは立派だが、その外側はまだ追いついていない印象だ。そんな発展途上の空間を歩き、5〜6分でウポポイにたどり着いた。
 正式名称は「ウポポイ 民族共生象徴空間」という。アイヌ文化の振興や、復興・創造の拠点らしい。入り口を入ると売店やカフェがあり、その奥にあるチケット売り場で購入を済ませると、ちょうど伝統芸能の上演が始まるというので体験交流ホールという場所へ向かった。
 ホールは映画館のような形で椅子が並び、広いステージがその奥にある。ほどなくしてアイヌの衣装を着た女性が2人現れ、内容を説明してくれた。どうやらウポポイのスタッフは実際にアイヌ民族の方のようだ。お互いにアイヌ語の名前で呼び合っているという。
 ショーの構成は舞踊が中心。鳥が羽ばたく姿を模した踊りや楽器の演奏などをしてくれた。上演の題目は「シノッ」という。『ゴールデンカムイ』を読んでいたときも思ったことだが発音が難しい。カタカナの「ロ」や「プ」が小さくなったものなんてどう発音しているのだろう。普通に撥音便みたいな言い方なのだろうか。
 20分ほどで上演は終わった。面白く興味を持って見られたし、楽しかった。お辞儀のときにする、水を飲むような手の動きが印象的に映った。
 その後は伝統的コタンを見たり、毒矢や仕掛け矢の説明を聞いたりして時間を過ごした。マキリという小刀もいろいろ見ることができた。それに魚の皮で作った靴なども実際に触れられた。スタッフの方も親切で、いろいろなところで挨拶や紹介をしてくれた。最も印象深かったのは最後に見た国立アイヌ民族博物館だろうか。アイヌの歴史から衣装、身の回りの品、舟、アイヌ出身の著名人など、アイヌに関する大量の情報が集約されていた。2〜3時間あればなんとか全体を回れるだろうと思っていたが間違いだったようだ。それに時間ごとに決められたプログラムもあるので本気で見ようと思えば1日あっても足りない。今回はその一部だけ見たに過ぎないが、やはりアイヌ文化は面白いと思った。

PRキャラクターのトゥレッポん。オオウバユリの女の子。のんびり屋さん
伝統的コタン。中に入れるものもある
衣服や持ち物など。やはりこの模様のセンスが独特で格好いい
マキリ。こういう代々受け継がれるものに美学を感じる

 時間に余裕を持って白老駅へと戻る。
 ここからはJR室蘭本線、鈍行だ。しかしこの辺の路線、やたらと特急が多い。1時間に3本の電車があったらそのうち2本は特急といった具合だ。もしかして特急で移動するのがスタンダードなのだろうか。というより車社会だから電車を使うのは長距離移動の観光客ばかりなのか。なんにせよ時刻表を前もって調べておかないと無駄に出費がかさみそうだ。
 それにローカルルールというか、特殊なケースが多い。電車内にバスのような感じで精算機と整理券機があるのに面食らった。恐らく駅員がいない駅がところどころにあり、そこで降りる際はこれを使うのだろう。なので降りる際はいちいち誰かの後ろにつき、前の人の行動に倣って降りるようにした。でないと間違ったことをして周りに迷惑をかけかねない。
 40分ほどで東室蘭駅に着いた。この駅は主要ターミナルのようで、改札機もちゃんとあるし駅員もいる。ひと安心して改札を出て、アパホテルへ向かった。
 どうして安い民宿を使わずにビジホにしたのかというと、駅近だし諸々の計算を立てやすいからだ。移動距離の長い北海道旅は、一度ミスをすると立て直しが困難となる。安さより安全を取ったわけだ。
 しかしアパホテル、初めて使ったがチェックインもアウトもシンプルそのものだった。ほぼ機械と1対1。スタッフと話すのも最小限。部屋の設備も広さもザ・ビジホという感じで安心感すら覚える。とりあえず荷物を下ろし、夕食をとろうと店に向かった。
 行ったのは「さっぽろっこラーメン」というラーメン屋だ。居酒屋にしようかと思ったが人気店は混んでいた。行ったラーメン屋自体も人気があるようで、閉店1時間前にもかかわらず人がたくさんいた。
 注文したのは醤油ラーメンとチャーハンのセット。醤油は醤油でも「北の国醤油」という特別製で、食べてみると強い塩気を感じた。しかしそれが疲れた体に心地よい。チャーハンもしっかり量があって、これで1,100円ならかなり安いと感じる。

北の国醤油&チャーハン。染みるうまさ。疲れた日の締めくくりに最適

 満腹になったあとはまたアパに帰り、ベッドに倒れ込みながらスマホをいじっていたらいつの間にか寝ていた。
 明日は登別だ。丸一日使えるので有意義なものにしよう。

 2日目の反省点。
 JR北海道に負けた感じがする。駅によってsuicaが使えたり使えなかったり、特急ばかりだったり、ホームで待っていたら思いのほか短い車両が来て小走りする羽目になったり、全部のドアが開くものかと思ったら先頭付近のドアしか開かなかったりとなかなか強敵だった。まあ費用とか乗客減の影響とかで仕方ないんだろうけど。
 ウポポイに行けたのは思わぬ収穫だった。ほぼ思いつきのようなものだったが楽しめた。ただ時間はもっと欲しかったな。
 もっと工夫すれば効率的に回れた気がするが、初めての場所なのだから仕方がない。電車の時間はよく調べておかないと長い足止めを食らう。それだけは覚えておかないといけないだろうな。
 とりあえず切符は実物を買うのが無難だなと思いながら次回へ続く。  

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