『怨霊JKの異世界革命』3話
■古城・中庭
ドラゴンゾンビに向かい合うキズコ、心配そうなアベルとメアリー。
キズコ「どうした……? ただの人間の怨霊が怖い?」
怒りに燃えるドラゴンゾンビ、巨大な彷徨をあげる。
震える空気――だが、キズコは動じない。
キズコ「本気で来い……私に脅しは通用しない……」
唸りながら息を吸い込むドラゴンゾンビ。
口を大きく開けると、一気に氷雪のブレスを吐き出す。
モロに浴びるキズコ達。
アベル「こ、氷のブレスだ……!」
メアリー「はわわわ……!
アベルは凍りつき、メアリーは雪だるまのように。
キズコの体にも霜が張りつくが、キズコは笑みを浮かべている。
キズコ「それでいい……私も、本気を出す……!」
刹那、キズコが全身から放電。
霜やブレスが弾かれ、吹き飛ぶ。
慄いているドラゴンゾンビ。
逆巻くキズコの髪――キズコ、『御霊』モードになっている。
キズコ「では……行く」
片腕を突き出すキズコ、その掌から稲妻がドラゴンゾンビへと発される。
ドラゴンゾンビも本能的な反射で口を開き、より強い氷雪ブレスを吐き出す。
中空で拮抗し合う稲妻とブレス。
しばらくつばぜり合うも、互いに息が切れる。
にらみ合うキズコとドラゴンゾンビ。
アベル「すげぇ……ドラゴンゾンビと互角なのかよ……!」
メアリー「素敵……」
キズコ「なかなか、やる……ならば」
キズコ、少しずつ浮かび上がり。
キズコ「ついておいで……私に追いつけるなら」
どこかへ飛んでいくキズコ。
ドラゴンゾンビ、咆哮をあげて翼をはばたかせ、追いかける。
アベル「な……何をするつもりだ、キズコ?」
■同・回廊
高速飛行で飛び続けるキズコ。
ドラゴンゾンビも飛行しながら追ってくるが、器用に柱などを避けている。
キズコM「やっぱり……偶然居ついたとしても、ここは自分の家。壊さないように気を付けている……」
追いついてきたドラゴンゾンビ、大きな口を開けてキズコを飲み込もうとする。
だが、キズコは牙の間をすり抜ける。
■同・外壁
窓のひとつから、キズコが飛び出てくる。
上昇するキズコ、続けて窓からドラゴンゾンビが飛び出す。
キョロキョロと見回すドラゴンゾンビ。
すると、キヅコが手をパンパンと叩く。
キズコ「ドラゴンさんこちら……手のなるほうへ」
ハッと気づくドラゴンゾンビ。
ニヤリと笑うキズコ、再び窓から内部に入っていく。
ドラゴンゾンビ、苛立たし気に唸る。
■同・大広間
天井の高い、広い空間を飛び回るキズコ。
まるで空中の鬼ごっこをしているかのように、ドラゴンゾンビを翻弄している。
キズコらを追ってきたアベルとメアリー、怪訝な表情。
メアリー「どうしたのでしょう、キズコさん……あの『力』を駆使するわけでもなく、城の中を逃げ回って……」
アベル「勝ち目がないなら、俺ら置いて逃げてもいいのにな」
メアリー「キズコさんはそんなことしませんし、アンデッドはアンデッドを見捨てちゃいけないんですよ!」
アベル「それはお前の哲学だろーが……」
キズコ「ふむ……こんなものね」
空中で静止するキズコ。
ドラゴン「(怪訝そう)…………」
キズコ「この城の内部は、ほぼ踏破した……これなら、私の力も通じる」
ドラゴンゾンビ「…………」
アベル「何を言ってやがるんだ……?」
キズコ「……私の呪いが、今……発現する」
キズコの言葉と共に、城内が突然暗くなりはじめる。
メアリー「これは……まさか……」
闇という闇、影という影が、まるで意思を持ったかのようにキズコの周りへ集まっていく。
アベル「か……影がまるで、生きてるみたいに……!」
さらに影は、ドラゴンゾンビの体にまとわりついていく。
ドラゴンゾンビ「…………!」
キズコ「さあ、呪われろ」
緊縛する縄が如く、影がドラゴンゾンビの体を縛り上げる。
ドラゴンゾンビ「!!」
驚愕して暴れまわるドラゴンゾンビだが、影の束縛は強く身動きが取れない。
キズコ「怨霊は……主に自分の『家』を拠点にする。場所を呪い、家を呪い、我が物として――そこに現れる者を呪う」
さらに菌糸が伸びるように、影がそから中から伸びてきてドラゴンゾンビを縛る。
キズコ「つまり家こそ、怨霊が最も自由に操れる『呪物』。私はただ、あんたから逃げていたわけではない……」
アベル「キズコの奴……飛び回りながら、この城を少しずつ呪ってやがったのか!」
キズコ「ここはすでに、私の呪いの城」
地面から、山のように盛り上がる影。
影は、真っ黒な玉座のような形状に。
そこに座るキズコ、尊大そうに。
キズコ「この城の闇は、影は、私の手足同然」
ドラゴンゾンビ、悔しそうに慟哭する。
アベル「ま、魔王かな……?」
メアリー「に、似合うからいいのでは」
苦しんでいるドラゴンゾンビ。
キズコを乗せる影が蠕動するかのように移動。
ドラゴンゾンビの顔の前に、キズコの体が迫る。
ドラゴンゾンビは、泣き叫ぶかのように吠えるが。
キズコ「あんたの家は貰った……けど、あんたを追い出すつもりはない」
ドラゴンゾンビ「……?」
怪訝そうなアベルとメアリー。
手を伸ばすキズコの指が、そっとドラゴンゾンビの頬に触れる。
キズコ「あんたは……私の子になる」
ドラゴンゾンビ・アベル・メアリー「!?」
キズコ「ドラゴンというのは……私のイメージでしかないけど、長く、孤独に生きる魔物なんでしょ……?」
ドラゴンゾンビ「……」
キズコ「そんなドラゴンがゾンビになっても生きている……それは本当に苦しい日々だったはず。一人、人間を怨む怨霊のように」
メアリー「キズコさん……」
キズコ「人間も魔物も、そんなあんたを恐れ、遠ざけていた。だけど、私は違う。なぜなら、怨霊である私は『永遠』」
ドラゴンゾンビ「……」
キズコ「お前を絶対に一人にはしない。私はどこにも逝かない――生きている者が憎いなら、私とどこまでも呪えばいい」
アベル「……アンデッドはアンデッドを見捨てない、か」
キズコがぱちん、と指を鳴らす。
するとドラゴンゾンビを縛っていた影が、すっと闇の中に消える。
キズコ「あんたは、私のもの」
ドラゴンゾンビ「…………」
沈黙していたドラゴンゾンビだが、やがて背中を丸めて。
子犬のように「くぅん」と鳴いて、キズコに頬ずりをする。
キズコ「よしよし」
無表情のままで、ドラゴンゾンビの頭を撫でているキズコ。
メアリーその光景に感激して、「きゃー」と顔を赤らめている。
アベル「戦闘狂な上に『アンデッドたらし』か……属性盛り盛りだな……」
キズコ「ドラゴンゾンビじゃ長いし、味気ない……あんたのことはこれから、『シーザー』と呼ぶ」
ドラゴンゾンビ改めシーザー「あおーん!」
■同・屋上(夕)
古城の頂きにて、夕空に吠えるシーザーの背に乗っているキズコ。
伝説の英雄のようで、ゾンビに乗る怨霊の姿は異様。
N「こうしてキズコは、従順なドラゴンゾンビ『シーザー』と、自分の城――『怨霊城』を手に入れた」
キズコ「……順調」
続く