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怪談/駅

 悪魔のLさんは、人間に召喚されたついでに旅をするのが好きだ。

 赴くのは人間もなかなか訪れない秘境であったりするし、自然豊かな田舎であったりもする。

 今回も日本の静岡浜松で召喚されたため、遠州鉄道路線を乗り継いで景観を楽しむ。
 途中で温泉にも立ち寄り、行き先も決めずに気の向いた駅で降りる。

 悪魔にしてはのんびりした趣味なのだが、Lさんは何百年もこの趣味でストレスを緩和していた。
 永遠とも感じられる悪魔の時間、暇つぶしは重要なのだ。

 そうこうしている内に、電車の心地よい揺れに身を任せて、Lさんは眠ってしまった。
 しばらくすると夜になり、Lさんはようやく目が覚めた。

 車内には客が誰もいない。
 次に停車した駅で降りるか、と思っていたら電車はなかなか停まる様子がない。

 外は真っ暗でほとんど住宅も見えない。周囲は人家のない草原のようだ。
 やがて電車は、『伊佐貴』と書かれた看板を掲げたトンネルを通った。

 怪訝に思っていると、ようやく電車が停まった。

 駅に降りてみる。無人駅のようだった。

 案内板には、『きさらぎ駅』とあった。

 駅を出て歩きはじめてみるが、誰もいない。
 灯りもほとんどない。

 ――なんなんだ、この駅は。

 普通の人間には感じることもできないだろうが、駅にも、この周辺の土地にも、怪しい瘴気のようなものが立ち込めている。

 するとそこに、一台の軽乗用車が通りかかった。
 中から中年の男が現れた。

「そこのかた、お困りですか?」

 にこやかに、話しかけられる。

「よければ乗せていってあげましょう。近くの町まで……」

 瞬間、Lさんの瞳が妖しく光る。

「!!」

 中年の男の眼から炎の柱が立ち昇ったかと思うと、炎は一瞬にして男の体を覆ってしまった。
 大やけどで即死し、崩れ落ちる男。

 その額には――ねじ曲がった二本の『角』が生えていた。

 人間ではない何者かが、Lさんを連れ去ろうとしていたのだ。

 Lさんは考えを至らせる。
 この周辺は、駅を中心とした『異界』に支配されている。
 住人もまた人ではない。

 その『異界』は、悪魔をも餌食にしようと傲慢に、かつ飢えている。

 ――そこらにいる悪魔ならば。

 他の魔神達であれば、困惑するだろう。

 だが時として『大魔王』と呼ばれるLさんは、まだ見ぬ怪異を前に、興奮していた。

「『きさらぎ駅』とやら。この私を取り込もうというならば、覚悟するといい」

 それは悪魔の王ときさらぎ駅が繰り広げる闘争の、序章にすぎなかった――







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