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人事とは「悩み抜く仕事」である

こんばんは。
地方の中小企業で人事を担当している宮里(ミヤザト)と申します。
前回から少し間が空いてしまいましたので「三日坊主」を疑われたのではないかと思いましたが、そもそも過去の記事を3回とも読んでいる人はいないとすぐに思い直しました。これも成長かと思います。

間が空いてしまった言い訳でもあるのですが、実は次の記事で書くテーマは決めていて「人事は孤独になりがち」という内容にしようと書き進めていました。
もうすぐ書き終わる!というところで、部門から人事にある”問い合わせ”があり、その対応や人事としての考え方について思うところもあり、ホットな内容なのでより詳細に感じたことを書こうと、テーマも内容もそちらに変えることにしました。
その内容というのが人事とは「悩み抜く仕事」です。いってみましょう。

退職の申し出

先日、ある部署の課長からこんな問い合わせがありました。

「〇〇さん(長年勤めるパート社員)が退職届を出してきたんだけど、今月末で辞めたいと言っている(書いてある)。(退職届を受け取ったのは15日ごろ)
うちの就業規則には『退職の申し出は30日前』とあるので、(退職届を)受理せずに来月末で書き直してもらおうと思うけど、日付の訂正だけでいいか?書き直して全部最初から書いてもらった方がいいか?」

ニュアンスが変に伝わって誤解されないように(万が一本人に見られてもわからないように)だいぶ控えめに書いたのですが、
実際の問い合わせをしてきた課長は日付が迫った退職をいきなり申し出されて、困りつつもまぁまぁ怒っている→受理したくない(してやらない!)という気持ちが強い話しぶりでした。

人事としてこのような問い合わせがあった時、どうするでしょうか?
(退職を受理する/しない以外にもいろんな問題をはらんでいる問い合わせですよね。。)

まずは知識として法律(ルール)を

先に言っておきますが、この問題に「正解」はないと個人的には思っています。
もちろん法律や就業規則などルールはありますが、それ以上にこの問題に対して人事としてどう捉えてどう対処するか関係性考え方にもよると思うからです。

とはいえ、事前知識として必要だと思うのでまずは法律(ルール)として「退職の申し出は受理できるのか/できないのか」を見ていきます。

まず、「労働基準法(労基法)」にはパート社員(有期雇用社員)の退職の申し出に関する記載は”ない”とされています。
私自身、労基法を隅々まで見たわけではありませんし、必要な箇所も全部覚えているわけでもないので定かではありませんが、それは間違いないと思います。

パート社員の退職の申し出(受理)については、労基法よりも上位とされる「民法」に記載があり、民法には

「退職の申し入れから2週間が経過すると雇用契約が終了する」

とされています。つまり、
退職を申し出て2週間(14日間)が経ったら、辞められる
というルールになっています。

この民法のルールを就業規則にも反映して
「パート社員の退職の申し出は14日前まで」
としている会社も多いのではないでしょうか?

実は、この民法も私自身最近まで間違って覚えていたのですが、
退職の申し出について「2週間が経過すると雇用契約が終了する」と書かれているのは『雇用期間の定めのない人(無期雇用)』のことなんです。

有期雇用の社員について法律上のルールでは、
期間の定めのある人(有期雇用の人)は期間が満了する前に辞めることは出来ない
とされています。
期間を定めて契約しているので、その期間は(満了までは)働きましょうね(働いてくださいね)という内容です。

また、法律上のルールでは更に以下のことも書いてあります。
期間の定めのある人(有期雇用の人)でも、勤務初日から1年以上経過した人は”やむをえない事情”がある場合、自由に退職をすることができる

「やむをえない事情」にもよりますが、長く務めた(1年以上勤務した)パート社員は即日退職することは法律上は可能
ということです。職業選択の自由ならぬ『退職の自由』というものです。

法律と就業規則

民法、労基法では上記のように定めていても、会社で独自のルール(就業規則)を定めている企業も少なくないと思います。

実際、当社の就業規則でもパート社員の(正社員も)退職の申し出は『30日前』としています。

ただ、就業規則にはそう定めていても、最終的には法律に定められていることが優先される・守られることなので、
「うちの就業規則では30日前になっているから受理しない!」と言っても
「民法では14日前(に申し出れば退職できる)となっています!」と言い返されたら基本的には守らないといけないんですよね。
(「やむを得ない事情」など守るための要件もありますが)

なので、先のような問い合わせがあった時、
まずは就業規則と民法の説明をし、
「やむをえない事情」かどうかを確認、
会社として納得できれば「退職は受理できる」
もしくは、
会社として受理できないとしても(したくないが強めですが)、
退職の申し出から2週間が経過したら退職することができる
というのが〇〇知恵袋だとベストアンサーに選ばれる回答ではないかと思います。

ただ、これってどう思いますか?

問い合わせの内容も、このような回答も、
「間違ってはいない」と思いますが、
「正しいとは思わない」んですよね。。

「知識」と合わせて「使い方」を知る

恐らく基本に立ち返る所としては上記のような民法、労基法、就業規則の知識は必要だと思いますが、それをどう使うか、もっと言うと、なぜそう(いうルールに)なっているかを考えてから使わないといけないと思います。

民法では2週間前に申し出ていれば(上司はOKにしたくなくても)退職することは出来る
と定めているのはそもそもなぜなのか
また、(当社の場合は)民法と違って就業規則で30日前と設定しているのはそもそもなぜなのか
そんな民法と就業規則はあるけど、
そもそもなぜ辞めるのか、
そもそもそのルール・規則・法律を使わないといけないのか、
というところじゃないでしょうか。

新卒の新入社員研修で「就業規則」を教えるとき、次のような話をしてから就業規則の説明をするようにしています。

「自転車」は”軽車両”と位置付けられているので、一部の認められている歩道(自転車専用通路)以外は歩道を走ったら「道路交通法」に違反することになります。
でも、その法律を知っているからと言って、歩道を走っている自転車を見かけるたびに「あー法律違反だー!」と注意するでしょうか?
「知識(ルール)」を得ることも大切ですがそれ以上に「使い方」も知ることが大切です。
歩道を走っている自転車を見かけたら全員に注意をするのではなく、例えば危ない走行をしている人に注意する、自分はなるべく車道を走る(それも時と場合によると思いますが)ということじゃないでしょうか?

新卒に「就業規則」のことを教えるようになってもう10年ほどになりますが、下手に知識を得ると使いたくなるということを知りました。
長く会社にいると就業規則の細部については忘れることも多いので、先輩社員よりも新入社員の方がよく知っていたりするんですよね。
言い方は悪いですがそれをひけらかしたくなってしまう。(そうじゃない人が大半なのに新卒の皆さんごめんなさい。)

でも、ルールや法律は確かに守らなければいけないけど、使い方は会社や組織、個人によって違っていいルールというのが存在すると思っています。
そこで使い方を考えるのですが、考えるときに使ってほしいのが「倫理観」です。
こういう問い合わせを受けると、新卒に限らず「倫理観」を養ってほしいなぁと思います。

そもそも長年勤めているパート社員がそんな退職の仕方をしようとしているので、退職の受理云々よりもなぜ辞めようとしているのか(聞いた上で問い合わせてきている場合もありますが)、翻意する・思いとどまらせることは出来ないのかと考える、そこに自分の力だけでは足りないなら他者の・例えば人事の力を借りる、など他に「やり方」はないのかな、先に「やること」はあるんじゃないかなと思うわけです。

そこには勇気もいると思います。
課長=上司が部下の退職理由で一番聞きたくないのは『自分のせい(で辞める)ということなので、なぜ辞めるのかの察しが付くようならなおさら聞きたくないはずです。

でも、長く務めた社員が辞めるのって簡単なことじゃないと思ってほしいんですよね。
だからこそ人事の力を借りるなどして退職の受理よりももっと前にやることがないか考える、出来ることはないか考えるということが必要なのではないかと。

そして、人事も、課長や退職希望者と同じ悩みを持ち、考え、共有すべきだと思います。
「就業規則ではこうなっているから」と杓子定規に判断するのではなく、
だからと言って知らないことや間違った知識で判断するのでもなく、
正しい知識を持って、様々な使い方を考え、一緒に悩み、判断していくのが人事なのではないかなと思います。

テーマが「退職の受理」だったのでややしんみりとした内容になりましたが、考えること・悩むことは人事のシゴトの本質だと思っているので、決してマイナスではないとだけ最後に言っておきたくなりました。

次回はもっと間隔あけずに記事を書くようにします。

ご覧いただきありがとうございました。

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