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今日が雨なら。【青豆ノノ氏cover小説】

青豆氏がトライしている『カバー小説』が非常に勉強になるという事で、企画に参加する度胸も文才もない故に無理を言って青豆ノノ氏の承諾を得て『練習』させてもらうことに。(笑)

下記、原作をまくらがcoverする。
おいおい、正気か?
わたし如きが青豆氏のあの空気感をcover?とちゃんちゃらおかしいが、やってみたい気持ちの方が強くなってしまった。


青豆氏から背中を押して頂いて企画に参加してみることに致しました。





BGMの音量って決まりがあるのだろうか?ほんのりと聴こえてくる音量の度合いを知りたくなった。
『Let it be』が流れるCafe。
わたしの好きな歌。
メロディに身を委ねていると、Beatlesが歌っているものでは無いのにやっと気付いた。

好きな歌のクセに、散々聴いていたはずなのに、この変化に気付けないわたし。
そういえば、音楽なんてちゃんと聴くことすら忘れていたと思い知る。
家から程なく近い場所のCafe。
近いからこそ入ったことのなかった此処でいろいろ気付かされる自分が可笑しかった。

車通りはなく、BGMはロードノイズに邪魔されない。
店内は上手に遮光されてて、寛ぎを邪魔されない。
座る席も、他のお客さんとの距離感は絶妙で視線が合わないように計算されていて、物思いを邪魔されない。
このCafeを作った人は計算高い。

珈琲と一緒に注文したピーナツバタートーストが運ばれて来た。
大きい体の店員さんの声と表情は優しくマイルドだ。体は大きくてワイルドなのに。見事なギャップに好感がもてる。大きい体なのにエプロンが少し小さいようで、ちょっと窮屈そうな感じも、また愛らしい。

ピーナツバターは自分で塗るスタイルで別盛りでトーストに添えてある。
バターナイフで塊を取ってトーストにポンと乗せて、珈琲をひと口。

いつの間にか誰が歌ってるのかわからない『Let it be』は姿を消して、『OASIS』の『Don't look back in anger』が流れていた。
『Don't look back in anger』まるでわたしの事を歌っている様だった。
自分の事に当てはめることが出来るから失恋ソングは売れるってことで。
決してわたしは間違えていない。

ーーこんなに晴れた日なのに。

ここから程なく近い家では恋人が荷造りをしている。

ーーこんなに晴れた日なのに。

晴れの日なんて指定できないのだけれど……。
Coccoの『Raining』を思い出す。
『今日みたく雨ならきっと泣けてた』
晴れの日って泣くの難しいのかもしれない。

「あれ?この曲」
思考中にBGMは変わっていた。恋人がよく運転しながら口ずさんでいた曲だ。
本人みたいに上手に歌いこなす人だからわたしに釣り合わかったなんて、何で気付かなかったのだろう。
優しい目で見つめてくれる恋人を思い出す。
それが……。
『誰とも関わりたくない』
ーー何故?独りって辛いよ?
『ひとりにさせて』
ーーわたしが邪魔?
「冷たい人……だったのかな」
考えたくもないことを考えるのもいい。いつもいつも自分の考えを押し殺す必要なんてないんだ。

「あ」
ピーナツバタートーストの存在をすっかり忘れていた。トーストの上のピーナツバターの塊はじんわりと溶けて、トーストの上を覆っていた。

「わたしもこうなりたかったな」

トーストを齧る。
家で食べるピーナツバタートーストと変わらない感じがした。
でも、悪くない。
これから先、家でひとりで食べるくらいなら此処で食べよう。

今日は快晴。とても暖かい。
きっと恋人が居なくなった部屋だって、差し込んでくる陽射しが暖かくしてくれている筈だ。
恋人以外の温もりで暖かい筈だ。
きっと……きっと、ホッとできる筈だ。

スマートフォンには恋人からのメッセージ。
トーストを食べたら開こう。
ゆっくり食べようと思っていたが、急いでしまう。
味わう間もなく食べ終えた。

レジでは体の大きいマイルドでワイルドな店員さんがバイトの女の子と話し込んでいる。
誰もわたしの存在を気になどしていないようだった。

『荷造り終わったよ。鍵はいつものポストに入れとくね。お世話になりました。じゃあね、おつかれ』

『おつかれ』

おつかれ?

最近の小学生は『おつかれ』を『終わってんなw』と云う意味合いで使うらしい。

「はいはい、おっつー」
わたしの何かが壊れる音がした。
うん。これでいい。
壊れるなら派手に壊れてしまった方がいい。中途半端は良くない。
自分に言い聞かせて席を立った。

Cafeの珈琲はテイクアウト用の容器に入っているので、珈琲を手にして歩き出す。
後ろから店員さんに声を掛けられる。
「あのう、一応セルフなんで、食器は返却口へお願いします」
ぶっきらぼうな言い方。
マイルドはどうした?
わたしはぶっ壊れているから見ず知らずのマイルド抜きワイルドなあんたの言うことなんか、真っ先に切り捨てだ。

「断る」

わたしは店を出た。

偽物の『Let it be』を平気で流すこの店にもはや、用はない。
わたしを麁雑そざつに扱う様な恋人も居ない。
わたしもこの街を出よう。
珈琲を片手に公園通りを歩く。
木々が吐き出してくれる空気をめいっぱい吸い込んでやった。

「おつかれ、わたし」

やっぱり晴れの日に泣くなんて無理な話だ。

『Don't look back in anger』の最後の一節が頭の中を流れる。

At least not today少なくとも今日だけはね


[完]



#カバー小説

こちらの企画に参加させていただきます!
よろしくお願い致します🙏

サポートなんてしていただいた日には 小躍り𝑫𝒂𝒏𝒄𝒊𝒏𝒈です。