𝙷𝚊𝚙𝚙𝚢 𝚅𝚊𝚕𝚎𝚗𝚝𝚒𝚗𝚎。

日が暮れて。
茜色の空が紫へと変わる頃。

ルナは家路を急いでいた。

初めて作った。
チョコレートなんて。

ルナはスズタニの所でお世話になりながら作ったチョコレート。

綺麗に包めた。

ーーあれ？なんか変な感じ。

恐らくそれは緊張と言うシロモノでルナには初めての感情だったのだろう。

アパートの玄関。

ーーあれ？何か……入りにくいな。いやいや。普通に入って渡せばいいだけなのに。なんだこれ。

意を決してドアを開ける。

悟は留守だった。

「また、電気つけっぱだよー」

リビングの灯りで居ると思っていたルナへの肩透かし。

「今日、バイトだったっけ？行ってみるかなー」

バイト先へとチョコレートを持って向かうルナ。

ーー！！
そこに飛び込んでくるヴィジョン。

ーー悟、なに？戦ってんの？なんで？なんか、やな予感がする。

30分ほど前。

裏通り公園。
人気のない其処で、悟は男と対峙していた。
「天王寺、ヤッたんだって？」
「あ？誰だ？そりゃ？」
「大物だねぇ、お前」
殺気を出さず、言葉終わりに踏み込んでくる男！

ーー能力解放、『完全模倣』
『模倣・鐵心』

1度戦って勝った異能をコピー出来るようになった悟は、異常な打たれ強さを手にしていた。

握られた拳からの打撃。ボディを打たれるが、悟にはダメージはない。

ーー軽い、そんな打撃ではオレを……。

そんな思考の刹那。

追撃に違和感。
男の手にはいつの間にかナイフが握られており、悟の腹を刺していた。

「くっ……」

刺されても怯まない悟の眼力に圧され、間合いを開ける男。

ーー確かに手に空だったはず……。

「ちっ、お前どんな身体してんだよ……奥までめり込ませてやろうと思ったのによ」

『鐵心』のお陰で、刃は2cmほど刺さったくらいで済んでいた。

「油断した……」
「自分に自信があるやつは殺りやすいぜ……」

暗器。
己の身体に武器を隠しもち、何時でも取りだして使うことが出来る暗殺用のスキル。

「だがな……」
何かを言い淀む悟。
「なんだ？命乞いでもするつもりか？」
「いや、悪いんだがよ……」

公園の木陰より飛び出してくる人影。

「「2体1なの忘れんな」」

ルナの閃光の様な頸薙ぎ！

声なく沈む男。

「ちょっとぉ……何やられてんのよ」
ルナは不機嫌だ。
「ちと油断しただけだ、大した傷じゃねぇし」
「ったくさー、せっかくチョ……ｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞ！！！！」
悟が襲われてるのを見掛けてチョコレート持っていることも忘れて飛びかかったルナ。

当然チョコレートは落として、箱が歪んでいる。

「せっかく作ったのにな……」
潰れた箱を拾ったルナの肩に手を回し身体を預ける悟。
「傷が痛てぇ……小鳥遊先生んとこ連れてけ」
「大した傷じゃねぇって自分で言ってたろ！！てめぇで歩け！！」
「あと、その落としてグシャッたソレよこせ」
口を開ける悟。
「は？グシャッったんだからやらねーよ！」
「形が崩れたところで味が変わるわけじゃねぇだろ」
口を開けて待つ悟に、チョコレートを放り込むルナ。
「ん、甘い」
「チョコレートだから甘いの当たり前だろ……」
「傷が痛てぇ、お前包帯巻けよな」
「なぁんであたしが！」
「今日はそういう日じゃねぇのか？」
「はぁ？？なんの日だと思ってんだよっ！ムキー！！」

夜の街を女の子の肩に凭れた男とふたり。

その後ろ姿に。

𝙷𝚊𝚙𝚙𝚢 𝚅𝚊𝚕𝚎𝚗𝚝𝚒𝚗𝚎‬。

[完]

この後のお話。
スズムラ氏とコラボスピンオフです。

胸いっぱいのアイと情熱をアナタへ × 𝙷𝚊𝚙𝚙𝚢 𝚅𝚊𝚕𝚎𝚗𝚝𝚒𝚗𝚎‬