見出し画像

子供には長すぎた寂しさ

私達兄弟は、数ヶ月ほど親戚に面倒を見てもらっていた時期がある。
親が突然家からいなくなったからだ。

親が消えた理由等は割愛するが、当時子供だった私は突然両親が家から消えた事が理解出来ず、不安と寂しさと恐怖で酷く戸惑った記憶がある。

小学校から帰宅して玄関を開けた時、父が見知らぬ人達に囲まれながら旅行カバンを持っていた。
私は父にどこに行くのか聞くと、父は旅行に行ってくるよ。と答えた。
その日から2ヶ月ほど父は家に帰ってこなかった。

父が家に帰らなくなって1ヶ月後、今度は母が帰ってこなくなった。
親戚には「お母さんは入院してるんだよ」と説明されたが、誰もどこの病院で何の病気で入院してるのか教えてくれなかった。

薄々自分の家が、周りの家と少し違う事に気付き出した年齢だったのもあり、家から突然両親が消えた事を周りの同級生などには、言ってはいけないと思った。

この頃、大変だったのは学校のお弁当や持ち物の用意だった。
私が物忘れの激しいタイプだったのもあり、翌日がお弁当だと予定表で知ると、祖母や姉がとても困っていた。
うちは車がないとスーパーなどの買い出しに容易に行けない田舎で、お弁当のおかずの買い出しが出来なかった。
慌てて見よう見まねで冷蔵庫にある物を使い、朝頑張って姉と祖母がお弁当を作ってくれた事を覚えている。

当時の姉は13歳で、両親が帰ってこない理由を姉弟の中で唯一知っていた。
だから、母の代わりに私や兄の世話を祖母と一緒にやってくれていたのだと知ったのは、私が15歳になった時だった。

今思えば、姉は短期間ではあるがヤングケアラーに該当する人物だったと思う。
僅か13歳で両親が突然消えた理由を知りながら、それを私や兄には伝えず、ひたすら面倒を見てくれてたのだ。
あの頃の姉はどんな気持ちだったのか。未だに聞く勇気はない。


父が家に帰ってきた1ヶ月後に、母も帰ってきた。

夜突然車が家の敷地内に入ってきたと思い、窓から外を見たら、車から降りてきたのが母だった事にとても喜んだ記憶がある。

「お母さんだ!!」と声を上げ姉弟全員で玄関まで母を迎えに行った。
その時、私はとても号泣した。そして、私の後ろで顔をクシャクシャにしながら、静かに泣いていた姉を覚えている。

この時、母が帰ってきた安堵と共に、周りの人には言ってはいけない秘密が自分の家にはあるのだと知った。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?