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夜の蝶

授業の終了の合図と共に、いつもの友達達と顔を見合わせこの場から逃げ出すように足早にドアへ向かう。愚痴や惚気やたわいも無い会話をしながら階段を駆け下りる。
「ばいばーい」と数人と交わし家へと帰る。

帰ってから休む暇なんか無くて、お風呂に入りメイクも香水も何もかもを落とし、仕事の為だけに全力を注ぐ。夜の照明に映えるような少し濃いめのメイク、ラメを施し、髪を丁寧に巻く。キャバ嬢の事を"夜の蝶"なんかと呼ぶが実際そんなもんではなく、ジャージで出勤ノーメイク、タバコはよく吸うし足は臭かったり更衣室なんかぐちゃぐちゃだったりする。同僚や先輩は頂いたお給料そのままホストに直行。この間はフィリコとか言ってたな。

ハマってる側はいくらでも注ぎ込む。仕掛けている側からは、馬鹿に見える。

軽率だが相当真理だと思う。じゃなきゃキャバ嬢とホストと、お客様は成立しない。キャバ嬢、ホストを本気で好きになった人を否定したい訳じゃない。役職の前にお互い人間であるから恋愛感情を抱くのも無理はない。私も何も言えない。
お客様を馬鹿に見れない私はキャバ嬢としてまだ未熟です。

たまにお客様が自分で「自分は客だ」と線引きしている人がいる。痛客でもなんでもなく普通に良客で、アドバイスしてくれるし、適度に好意を伝えてくれる。こういう人はきっと色んな人生経験をしてきて余裕があるんだろうなぁと疎外感をそこはかとなく感じる。

オーナーから「客は捨て駒、お金として見た方が上手くいくよ」と言われたが納得出来ず、そうには見れないからドリンクの煽りすらままならない。変な所で馬鹿真面目な自分が丸出しである。

お客様にキャバクラは色恋で疑似恋愛だと言われてしまったが恋愛体質メンヘラ野郎には向いていない。絶対に向いてない。夜の蝶になりきれない私は今は蛹であると信じたいが恐らく蛾だと思う。向上心はあるが蛾は蛾なのである。蛾でも推してくれ。

夜の蝶のフリをして今日も出勤します。

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