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ポラリス

北極星ポラリス。空で唯一動くことの無い夜空の中心である星。

今から数千年前、 まだ羅針盤やコンパスが存在しなかった時代、 人々は夜空に輝く星の位置を手がかりにして航海をしていたという。これは、星の航海術(Star navigation)という 南太平洋の伝統的な航海技術。
どこにいても、北を指し示してくれるポラリスのおかげで、 旅人は自分たちが進んでいく方向を いつも見誤らないでいられたのであった。


1週間前と同じ景色宛らではあるけれど淀んだ空を眺め東京行きの電車に揺られた。5時間睡眠が身体にこたえたのか少しばかりの頭痛を感じる。
ふと目に付いた自販機のコーンポタージュの誘惑に勝てずに交通系電子マネーをかざしてしまって、座るなり早々に飲みきった空き缶は用済みとなってボックス席の窓際に置くしか術がなかった。

田舎特有の各駅停車の度に押しボタン式。止まる駅々で冷たい風と共に一人二人と乗車し開けては閉めていく。途中微睡んだが、折角だからと本を取り出し少しの晴れ間の光を頼りに文字を読み進めた。

10ページほど捲り一章が終わったところで、もう良いかと本を閉じた。小さい頃は休み時間の度に、放課後の度に読んでいたあれだけ好きだった本も、今となっては苦手なものになってしまった様な気がして胸が傷んだ。

先週と同じく新宿東口で待ち合わせ。久しぶりと高校の文化祭でインスタを交換した男の子と再会し、喫茶店巡りに付き合わせて、談笑をした後、プラネタリウムに行きたいと言い出した彼について行った。

ストーリーに合わせて曲が流れると言うもので、1つ目は友人との話。2つ目は目指す夢の話。3つ目は家族の話。待ち合わせ開幕早々5分少しで進路を変更したいと相談した私に響いたのは2つ目の話だった。色んな人に歌を届けたい、有名になりたいと夢見て路上で弾き語りをしていた彼女ではあったけれど想像を絶する以上に大変なもので、諦めてフェリーに乗り実家に向かいその道中で、ポラリスの話を聞くというストーリー。

空で唯一動くことの無い夜空の中心である星。というが本当は違うのだと言う。今から5000年前、地軸の北極の向きにもっとも近くて明るい星はツバン。そして、今もっとも近いのはこぐま座のアルファ星、現在の北極星であり、今から12000年後には、おりひめ星で有名なこと座の1等星ベガが北極星として北の空に輝くこととなる。だから、夢敗れても、何度だって輝き続け、ポラリスの様に目指すものは消えないという解説だった。

進路について悩んでいたからダイレクトに来たその話で2軒目に寄った喫茶店でこの先の将来を悩みに悩み取り敢えず海に行こうと突拍子もない発言にも快く応じてくれた彼であったけれど数分経つと大雨に見舞われた。傘を持ってる?と問いかけられ、持ってないと答えると、さっき男子トイレに1本置いてあったから取ってきちゃおうかなとおちゃらけたのでデコピンをかました。

雨なのに海に行きたそうにしていたけれど、気持ち的に足まで入る予定だったので雨でそんな気分にはなれず、改札付近でじゃあこれでと淡白な別れを交わした。

湘南新宿ラインと山手線を眺め、気が付いたら渋谷で降りていた。元彼と出会ったのは渋谷にある宮下パークでこんな雨の日だった。スクランブル交差点の信号待ちで声を掛けられ曖昧な返事を返し宮下パークに足を運んだ。傘なんか持ってないから少し早足でハンカチを頭に乗せ歩いた。

よく元彼の地元と煙草を吸った喫煙所で元彼の吸っていた銘柄の煙草の火をつける。池袋で見た喫煙所は満員電車のようで思わずカメラを向けてしまった。
すれ違い後ろから可愛いねー!と大声で声を掛けてくるのが煩わしくて爆音でイヤホンをつけ音楽を聴く。屋上についてここでもよく溜まっていたなと物思いにふける間もなく1人〜?と軽そうな男性2人に声を掛けられ傘入りなよインスタ教えてとずっと付いてこられ渋々捨て垢で交換し承認するわけなんてなくてそそくさと避難した。

一息つきたくて自販機の前に佇むと今度は顔ちっちゃい可愛いお姉さん!!!と声を掛けられ振り向くと高校生くらいの女の子2人であった。インスタ交換しよ!と言われ女の子だから嫌な気はしなくてさっきとは真逆で意気揚々と承認をする。話していると4人くらいの高校生らしき男の子達が俺達ともしようよ〜と声を掛けてきたので怖気づくともーやめてお姉さんいじめないでよ!と仲が良さそうなので友人か尋ねるとさっきナンパしてきた人達だという。よく分からない関係性のまま少しお喋りをしていたと思ったらいきなりまた他の女の子をナンパしに行くもんだから東京のコミュ力の高さに田舎民は呆然とするしかなかった。

終電を言い訳に解散して物思いにもふけることは出来ず21時をすぎても寝る事を知らない渋谷を小走りで駆け抜ける。電車の時間なんか調べてなくて自分の無能さに落胆したが渋谷は危険だと察したので嫌々恵比寿駅へ向かうべく山手線に揺られた。
お馴染み上野東京ラインでボックス席に座りお礼と写真を送信していたのだが頭上からなにか冷たいものが落ちてきて、上を向くのだが前の席の人のリュックだけで何も無い。また数分うとうとしだした時に肩あたりが冷たく感じ上を見上げると明らかに横になったお茶のペットボトルの蓋が空いている。小声で正面のお兄さんに声をかけると慌ててリュックを上から取り出し抱き抱えた。抱き抱えずとも閉めれば良いだけだと思ったけれどそんな事も言えず軽く会釈をして窓の外を眺めた。時間が経つにつれ高い建物も明るい光も人も減っていき見慣れたものになってしまったので目を瞑り今度こそと眠りについた。そんな一日。

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