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馬鹿みたいだろ、バレンタイン

バレンタインの日、会えなくて翌日に繰り越した23時半過ぎ。バレンタインをやるのは高校生までだと思い込んでいた私は前日チョコレート販売終了間際急いでチョコレートを厳選した。恋人として受け取って貰えるのだろうか、受け取って欲しい、と淡い期待を抱いた。そんなチョコレートの箱を見つめつつも煙草をつけた。彼の家の近くのコンビニでしゃがんで片手に煙草もう片手にはチョコレート、淀んだ空と対峙していた。案の定会える予定時刻が近付くにつれ雨が降り始めた。

一週間前、酔ったノリなのか、分からなかったけれど付き合うというニュアンスの言葉をバカ真面目に受け取った私は話す為に立ち寄ったはずのラブホテルで身体を重ねた。

次の日、「ちゃんと考えて」と言って解散してしまった。あぁやめときゃ良かったな。馬鹿なんだから強がらないで馬鹿みたいに付き合ったフリをしとけば良かったのに。

待ち合わせに間に合わせるのが苦手なのか彼が40分と指定した時間は15分近く過ぎていた。

無慈悲に足元に行くと度なく打ち付ける雨に染まったアスファルトを見つめる。聞き覚えのある声がした。「お待たせしちゃって…」と彼は着くなり煙草をつけた。バチバチと煙草が鳴る。帰る時に毎回この香りで切なくなる。

「元カノから連絡来たんですよ」

煙草を吸い始めると少し低くなる、その声が好きだった。聞いてみると私と同い歳の女の子らしい。付き合っていた時に、彼の趣味であるカメラを貸した女の子。
恋愛感情が分からないけれど、その子のことが忘れられなかったんだと教えてくれた。本命だと渡そうとしたチョコレートは義理になった。

「年齢は関係ないと思います」

自らに宛てがわれたかった言葉を伝えた。彼の好きな人が同い歳であることが更に残酷。茶化して話をして、「じゃあ義理ってことで」と子供ながらに大人ぶって本命だった義理のチョコレートを手渡した。お願いだから謝らないで欲しかった。髪すら乾かさないで急いで来てくれたその行動にすら期待してしまっていた私がいたから。

いたたまれなくなった私は雨を言い訳に身を翻し「風邪ひかないでよ〜」と彼を置いて車に戻った。大きな溜め息と、強い雨足で涙は隠れた。

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