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シティボーイ

プレイリストと少々不規則なタイヤの音を片耳に電車に揺られる午後。人身事故があった故ダイヤが大幅にズレたという。確実に乗り遅れるはずだった電車に乗れたのだからきっと裏を返せばハッピー。電車には飛び込むのに貨物列車には飛び込まない理由はなんだろう。

元彼に会う為に通っていた、田舎の田んぼの景色から都会に向かうこの電車で移ろう景色は何度観ても飽きなかった。降りた新宿駅。人は増え建物は高くなり3分おきに来る山手線を横目に少し濁った空気が鼻を掠める。

仲の良かった友達は歌舞伎町でキャバ嬢に、顔見知り程度の友達は歌舞伎町でホス狂に。昔有り得ないと思ってきた物語は思ったよりも遠いものではなかった。一人一人に色んな物語があるから、肩がぶつかったとしても不平不満を垂らさず何も無かったように、早足で生き急いでいるように、そんな都会は好きな様な気がする。ただ、きっと住んだら窮屈だろうな。

東口を出た広場で3つ前の元彼と待ち合わせる。喧騒の中、久しぶりから始まる他愛もない会話。初めて染めたという彼の少し茶色く染った髪がビルの間の光に反射してキラキラと透けた。
私の趣味に付き合わせいくつかの喫茶店を巡り道中でよく分からない場所にカメラを向ける。この頃何気ない道が日常がカメラのレンズ越し、ノスタルジックで楽しく感じる。だけれど、その景色の中、この狭いようで広い東京の街の中、1つ前の元彼の姿を探してしまっているのは紛れもない事実だった。

新宿から始まり山手線を一周。1つ前の元彼の最寄り駅で会いたいような会いたくないような気持ちを抱いて窓ガラスから見える景色を降りる訳でもないのに無意味に眺め通り過ぎ、彼の自宅の最寄り駅で下車した。

合鍵は持っているけれど持ち歩かないからどうぞと開けてくれた。好きだった人の香りであるから玄関に上がると落ち着いた。お腹すいたよね?とご飯を作ってくれるから、エアコンを付けてもらい私の家だと言わんばかりにベッドに潜り込む。ご飯が出来たよと呼ばれるから飛び起きてハンバーグを咀嚼した。お皿を洗う音と自分のカトラリーの音が響いて妙な気持ちになった。特に何をするでも無く音楽を流しながらうたた寝をした。

寒いと冷たくなる私の手を握った彼が小声で好きだよと呟いて泣いていたから頭を撫でる事しか出来なかった。別れてからもずっと好きな人が新しい人と恋に落ちて幸せなのを見守るのはどんな気持ちなんだろう、どう頑張っても自分にはもう振り向いて貰えないはどのくらい辛いんだろうそんな不必要な同情を向けて悲しくなった。

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