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YOASOBI アイドル(2) 夜に歩く


20.なんで生きられないんだろう


なんで生きられないんだろう。

みんなの前で、笑いたかった。

なんで生きられないんだろう。

たとえばあの楽器を、貯金で強引に買うくらいの、
清く正しい良い子ではできないような


なんで生きられないんだろう。

真夜中に出歩いて。
それで、ほんのちょっとだけ心配されても、
眠たい目をして、友達と朝、談笑のネタにできるような。



なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。殴りあってみたりさ
なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。買い食いとかしてみたり
なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで笑ってみたりさ。生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。宿題とか忘れてなんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。罵って、苛立ち紛れにコーラの缶を屑籠に投げてみたりして。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。 なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。お酒とか、進められてみたり。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。 なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。 なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。 なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。 なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。 なんで生きられないんだろう。なんで生きられないんだろう。


21.夜に歩く




「夜中に、歩いてみたかった、だけなの」

花は、しばらく黙ったあと、いつもの笑顔らしい声で、僕に言った。
 じゃらじゃらと、メダルがこぼれる音がする。プリクラ機が、やたらと誰かを急かしている。後ろの人にかわってあげてね、誰も居なくとも、それは常にそうやってプログラムされている。
なにも言えずに気圧される僕に。

「夜中に、歩いてみたかった、だけなの」


彼女は、とても嬉しそうなのに、なんだか、なにかが間違っているような、笑顔で、言った。
だから。
僕は泣くことができなかった。
「生きよう」

僕は、だから、そう言った。

「夜中に歩いてみたり、買い食いしてみたり、お酒を飲んでみたり、あと、なんだっけ、貯金は学校バイト禁止だし無理そうだけど……えっと――――」


ただ、笑ってほしかったんだ。


「夜中に、歩こう」




 岸崎花と、一度家に帰った。

夜は少し冷えるし、制服でうろつくと補導されやすいというより、制服が汚れると洗うのが面倒だ。
この場合洗うのはクリーニング屋だけど、代金はこの家からになるわけだし。

部屋でタンスを開ける。


「着替えるから、見るなよ」

花に忠告すると、そいつは一人ケラケラ笑った。

「えー、じゅっちゃんの背後にいるおじいさんだって、ガン見してるよ??」

「……マジで?」

背後霊が居るとしても、僕は花以外の霊は見えも感じもしないみたいだ。
というか、本当に居るのか。

「幽霊が言うんだから間違いない」
「いっそ間違えてくれ」

「おじいさんとね、ちっちゃい女の子、妹さん? かーわいいー! いつも、ひょこひょこ後ろにやって来てるね」

「知らん……でも、え、そんなぞろぞろ付いてくるの?」

「ふっふっふ~実はね、私も、最近見え出したんだ。身体がそっちに近くなってきたのかもね」

「……そうか」

時間は迫ってるのか。

「じいちゃんも『今さら気にしなさんな! あんなことこんなこと、後ろからいつも見とるで!』ってさ」

「やめてー!」
2019.6/3012:24



22.ウエストサイド


「あ!」

と花の興味は雑誌へと移る。

「screenだ! 図書館にあった」
 友達が置いていった映画雑誌類。
そのまま床に置いていたんだっけ。いや、花が部屋を探したとき出てきたのだろうか。
「ハリウッド特集じゃん」
きゃあきゃあと、よくわからないはしゃぎ様を見せている
「セレブはいいなぁ……すごいなぁ」


  目線が逸れている隙に僕は制服を脱ぎ、着替えをする。
何を着よう。
適当に、それなりに無難な服に袖を通していると、花は視線をそちらにやったまま(たぶん)ねえねえ! と呼び掛けてくる。

「なに」
「ウエスト・サイド物語 だって!」
それがどうした。
何か懐かしむものでもあるんだろうか?

「ほら、ここ、広告があるの!」
雑誌のひとつを指差して(たぶん)彼女はなんか得意気?に言う。
「知ってる?」

「昔のミュージカルだろ」
「DVDかなんか宣伝だってー」

ニューヨークの下町、ウエストサイド。
アメリカ人の少年グループ『ジェット団』と、プエルトリコからの移民少年グループ『シャーク団』が縄張りを競っていた。ジェット団元リーダーのトニー、シャーク団リーダーの妹マリアが恋に落ちて問題は複雑に。
……書いてある紹介文を簡単にまとめたのを言ってみただけである。観たことはなかった。

「ミュージカルの原型は18世紀にフランスでオペラ・コミックが演じられていたことなんだって」
「物知りだね」
「ふっふーん、趣味は、広く! 浅く!」
「交遊関係みたいに言うな」


2019.7.5 11:08




「映画といえば小さい頃、すごく小さい頃。
映画を見に行ったんだ。
なんのだったか忘れたけど」


「ふうん……」

「家族と行ったのよ。帰るのが夜中になってね。私、地球が終わるんじゃないかって心配した。私の身体が夜に歩いてる、異常な光景に、もう明日なんか来ないと思った」

「終わらなかったね」

「終わらなかったね……でも、やっぱり、学生になると、忙しくて夜帰らざるを得ないんだよね。
夜が近くなる」


『夜が近くなる』

『終わらなかった』


信じてしまった。
信じたから間違えてしまった。終わらないと知ってると思ってしまった。

「罰があたったんだ。全部。私が夜中に歩いたから」

そうだろうか。
そんな話があるだろうか。
夜中に歩いただけで、周りに取り囲まれて、周りに迫害されて、そんな話があるだろうか。

「だから、生きる資格を剥奪された。籠から出たら死んでしまうんだって誰かが教えててくれたらよかったのにね。そしたら、そんなこと望まなかったのに」

何か言おうと思った。
けれど言えなかった。
言っていいかわからなかった。
「でもさ、もう、幽霊だから、大丈夫だよ。
夜中に歩き放題だよ。

初めて生きるこの日を、これから私、誕生日にするよ」


幽霊は、何よりも生きていた。誰よりも生きているのが幽霊だった。
彼女は死に、生まれた。
初めて生きても良い道を、がんじがらめでもう手遅れだった自分が生きる道を、死ぬことで、周りの手を逃れて、やっとの想いで手に入れた。
彼女は、とても幸せになった。
そしてこう言った。


「Iam not there,I did not die」


――生きてるとき?

まるで死んでるみたいだったよ。

意思を持ちたくなかった

言葉を持ちたくなかった

感覚を持ちたくなかった

主張したくなかった

肯定したくなかった

否定できなかった

存在したくなかった

存在の意味がわからない

理解したくなかった

見たくなかった

聞きたくなかった

痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった

痛かった苦しくて痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった何が痛かった

痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった悲しくて痛かった痛かった現実ってなに痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった叫んでもなんの役にもたたない痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった音を立ててるの痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かったキリキリ痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった私はなぜまだ死なないかって痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かったもう嫌だって何度も痛かった痛かった痛かった痛かった私は誰痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かったどこにいる?痛かった痛かった痛かった痛かった痛かったホッとはしてるかな痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった見えてる?痛かった私生きてる?痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった痛かった

痛い



23.夜を駆ける

「私、肉体なんか持ってたっけ?って感じ。 うふふふ!
今、誰も触って来ないしさ、誰も関わって来ない、信じられる?
こんな、平然と歩けるなんてびっくり! 休日の芸能人も羨ましがるだろうな」

 隣を歩く女の子は、とても愉快そうな、幸せそうな幽霊だ。誰よりも生きているのが楽しい幽霊だ。そろそろ星が見えはじめるような時間帯に僕らは歩いている。まずは先に夕飯をとることにした。

「夜中に外で買い食い! わーい!」
「嬉しそうだね……」

わりかし放任主義家庭の僕には別にこんなの珍しくもない。
連絡を入れたりすればそれなりに出歩くことが出来る。

「デートって感じだね!」
「そうか? 色気は無さそうだね」
「あっ、ひどい」
「でも、きみが羨ましがれたって、僕ははたから見たらただの暇人だよ」



「そうだね」

花は、クスクス笑った。

「でも私からしたら幸せな、誕生日の私に充祢が付き合ってくれて、嬉しいよ、幸せだよ、私は生きて良かったよ」

姿の見えない彼女は、抱き締めることすらない彼女は、死んで、生まれた。

「孤独じゃなくなったんだ。身体がなくなったら、好きなとき好きな人のそばに居られる。身体があったら出来なかったことだよ。夜中に歩くこともできない、一人で歩くこともできない、言葉を選んで会話することしかできない身体なんか、死んでるようなものだからね」

死んだら孤独じゃなくなった。そこに私はいない。

「私は幸せ、幸せいっぱいです」
今、生きているから。
と彼女は言い、どんな弁当が食べたいか提案を始めた。
生きていて、大人や周りが誰一人、本当の意味で彼女を見ない世界は自分の意思ではもうどうにもならないくらいに周りの意思が強すぎる。
肉体をなくすくらいでないと好きなように笑ったり出歩いたりさえ出来なかった。彼女は今生まれ、死ぬことが誕生だったと言う。

だとしたら、僕は、これを祝福すべきだろうか。

「じゅっちゃんもさ、早く、此処まで上がってきなよー?」

花は、フッと小バカにするように笑って見たりする。
僕は、それもいいかもねと言いながらコンビニへ向かった。

7/60:44
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24.夜のコンビニ



 夜のコンビニは空いていた。はしゃぐ彼女をつれて中に入るが入ってすぐ見知った顔を見つけてしまった。
あの眼鏡、あのスポーツがりみたいな髪型。あの体型。

「タバコ、ほしいんだけど」
そう言いながらもレジに並ぶ男は間違いなくあの人。
花は気づいてないのかのほほんと棚を見て回っている。



「ちょっと、いいか」

と、ある日の放課後、課題を出しに進路指導室のそばまで行ったら彼は僕を手招きした。
聞かされたのは『お願い』だった。優秀な生徒であるいじめの犯人たちを見逃して欲しいというもの。

「推薦を降りなきゃならなくなるなんて残酷だろ?」

学校の宣伝にもなるし、がついているのは、言わなくてもわかっていた。

「友達を売るなんて、残酷な真似はやめて欲しい」

果たして友達とはどういう意味だっただろうか。

「この通り!」

両手を頭の上で重ねた彼は、小さく頭を下げた。どの通りで、何が通るのかわからなかった。
「……先生は、それで、いいんですか」

彼は黙り、少し目を泳がせた。聞かなくてもあまり揉め事にしたくないということが見て取れる。

「お前がしっかり、支えてやれよ」

挙げ句、熱血っぽいことを言い出した。こういうときにそういう台詞は逆効果だ。別に、僕に彼らを庇う義理はなかった。特に世話になったわけでもないし、勝手に自業自得で沈むなら愉快だとすら思う。
エリートなら尚更見世物になるという危険思想さえ生徒にはあるというのに。

「じゃ、もう、失礼します」

呆れ、何も答えられずに足早にその場から離れる。
別の生徒とすれ違う。
彼らは、すぐに何かで大爆笑し始めていた。
僕など、あいつなど気にも止めずに。

16:53



 そんなことを思いだし、僕はどうしていいか、わからず、棚の奥に極力隠れていた。のだが……

「あ、ガム。ちょい待ってください」

と、清算前になって彼は棚の方に、歩いてきた。
なんで今気づくんだよ、と思っても遅い。
足跡がこちらに近づいてきて――

「うわぁっ! 充祢」

彼は、大袈裟な声とともに、僕を見つけた。

「取り憑かないで!!」

と言い、なにやらポケットに入れていた札を、投げつけてきた。
「な、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

なにやらぶつぶつと熱心に唱える。顔は蒼白でかなりの怯えがにじんでいる。

「早く消えてくれ頼むから、俺の悪口を言うのはやっ、やめてくれ! お前、教員生命が断たれたら責任とってくれんのか、言うとくけど、世間は俺の味方だからな」

「あの」

僕は、何か言おうとした。

「あのな、夜中も頑張ってる、しめきりに追い詰められ、成績に押し潰されそうな個人にはな、生徒が一人死んだくらいの責任追わせるのは酷だからな、わかってるか、俺は、忙しいから悪くないんだ、わかってくれよ、なっ? 俺はなギリギリの中、頑張って来たんだ!
早く結果を出さなきゃ、早く周りに追い付かなきゃヤバイってときだったんだよ。
スケジュールがぎっちり詰まってるから、一人一人なんか気にしていられないってことくらいわかるよな、わかるだろ?
俺がどれだけ正義か、わかってくれよぉ……頼むから、な、買い物終わったら、待ってるから、まず話そう? な、それがいい」

「あ、あの……」


圧される。そんなことしてたら、花との、デートが……
ちらりと背後をうかがうと、花は、消えていた。

「あれ……」



先生の前では、姿を表したくないとばかりに。



25.二人分



 二日ぶんだと偽り、弁当やお菓子を買った。
彼は、駐車場で待っていた。
おっさんと夜に二人きりなんて吐き気がすると思った。
僕はそんな趣味じゃないし、第一、父親ともさほど会話しないで育ったせいで、なんだ異生物と遭遇したような奇妙な気持ちになる。


 まず彼が語るのは個人に責任をおわせるのが、いかに酷なのか、だった。

自分には抱えるべき生徒がいること、死んだ花は仕方ないが、他の生徒たちの未来は自分にかかっていること、生徒たちだって別に悪気があってやったわけじゃなくて、あいつらも切羽詰まってたんだよということ、なによりも、忙しいスケジュールのなかで、個人個人に構っている場合ではないのだ。
会議だなんだと、仕事を山積みにしているのは、俺ではない、ということ。
大人になれば、このことの大変さが、俺の立場がどれだけかがよくわかるはずだということ。

「な、わかるだろ?
俺がこんなに追い詰められてさえいなければ、良かったんだってことだ。俺も被害者なんだよ」

僕は、よく、わかった。
理解した。とても、納得した。腕に張り付いた、お札みたいなのをぺらりと剥がして、ぐしゃっと潰す。

「追い詰められてそうな先生に関わるときは、生徒は気を付けなくちゃなりませんね。

何するかわかったもんじゃない。
生徒は、あなたからみたら暇でしょうし」


親の離婚や転勤、家族の揉め事にに否応なく巻き込まれたり、幼いからと発言権や抵抗権がなかったり、部活や、休まず勉強をしていたり、それこそ、将来のための時間が、暇だけだとも限らない。花もそうだっただろう。追い詰められ、追い込まれ、居場所がないなかでギリギリのなかで登校してきていたとは、彼はまるっきり思ってないのだ。



「校長に言っても、無駄だぞ」

ぞくりと、背筋が粟立つ。

「場合によっちゃ内申もいじれるし、事を荒立てれば退学にも出来るかもしれない」

彼はそう言って、車に乗った。そして去っていく。

「じゃ、早く帰りなさいよ!」

「……はい」

俯いたまま、車を見送る。
見送って、言葉を、噛み締める。そう、嫌なら退学もできる。学校側は。

先生という職業については、僕は、どちらかというと尊敬している。知り合いも教師で、大変さも、わかるから。

 中学のとき、毎日のように試験勉強して望んで入った学校で、教師からまさか、こんなことを言われるなんて。とは、思わない。

何処だって結局『嫌ならやめろ』の世界だ。それが理解できないほどのガキじゃない。

「花……」

僕は、うわごとのように、愛しい名前を呼ぶ。

「花、もう、いいだろ。
まさか、あんな気休めみたいな玩具で、消えたりしないよな?」
「あったりまえじゃん!」


背後で、気配。

「……あぁ、びっくりした、センセとまさか会うとはねー」


やはりどこかに隠れてたらしい、少し、安堵する。
その存在が、まだ、在ることに。

「高校は出た方がいいよ! ね?」
花は罪悪感を覚えてるのか、少し焦ったように、僕に話しかけてくる。

「退学に出来るってのは本当なんだし……それにさ、荒立てなきゃ、変な自己主張しないで、
もくもくと勉学に励めば、じゅっちゃんならフツーに卒業できるんだから」



7/2315:13 2019.7/23



 その通りだ。
歯向かう、なんて言ったって、正義を貫いたつもりになったって、結局学校も、会社組織だ。入ったくらいで将来を保証しちゃくれない。
自分自身で学び、将来を見据える力を試すのが試験でもあるという人も居るくらいに、義務教育とは、ちがう。

自分を保証するものは、自分だ。脆くても、壊れそうでも、どうにもならなくても、もうお父さんお母さんとはいってられない。

「学校を責めても、やめさせられるだけだよ」

花は、ひどく冷静だった。


「悪いのは校長じゃない。
あいつら、だから……」

あいつら、という花の声を、
はじめて聞いた気がした。

「……でも、悲しいよ」

僕は、顔をあげて夜空を、見る。真っ暗な闇。少し冷たい空気が肌にまとわりつく。
「悲しいよ」
花は、何も言わなかった。何か、考えていたのかもしれない。しばらく、沈黙が続いた。
「さて、お弁当食べようか」
やがて、花が、そう言ってから、僕たちはまた、会話を再開する。

15:24


26.腫物

 花は、幽霊だから、食べられない。でも、近くに置いたミニ弁当を楽しそうに眺めている。横で、公園のベンチに座り、僕は寂しく弁当を食べる。

「わー! さくらでんぶ! わー! たまごやき、ふわっふわ、いいなー」
花は、横でうろちょろしていた。
「食べたいよぉ!」
「ん」
僕は卵焼きを箸でつまんで、空間に向ける。
もぐもぐ、と食べようとする気配。しかし、卵焼きが欠けることはない。
「あーん」
ひょいぱく、と僕は口に入れた。
「ああっ! いじわる!」
花が嘆いた。あいつら、のことが脳裏に過る。黙っていてくれと言った先生が過る。
「黙る黙らないに関わらずさ、じゅっちゃんだけは、優しかったね」
「え?」

心を見透かすようなことを言われ、一瞬箸を止めた。

「黙る黙らないは、センセが言ったことに過ぎないけど、

でもなんかこう、全身で申し訳なさそうにしてくれるっていうか、態度がさ、明らかにノリ気じゃなさそうっていうか、
それで、充分伝わるんだよ。

他の子はセンセをいいわけにして、なんだかんだノリノリだったもん。結局自分でやってたようなもんでしょ。でも、だからね、感謝してるんだ。
目では、こっそり、逃げろって言ってたの知ってるから」

だからね、と花は言った。

「その、明らかにイヤイヤやってた、明らかに、ノリ気じゃなさそうだった」

「死んだら、許すもなにも、ないじゃないか……」
悔しいのか、悲しいのか。わからない気分だった。

「そう、かもしれないね。取り返しがつかないとは思う。
でも、学校がやれっていったから、先生が黙れっていったから、なんてのは結局、言い訳なんだよ。
そんなふうに、なってほしく、ないよ。



27.言い訳

確かに、いいわけだ。
先生は、先生だ。
僕は、僕だ。
そんなのわかりきってるじゃないか。

「ごめん……花」

僕は、涙でぼやけてくる目を隠すように、また俯いた。
声が、震えた。

「僕、なにもできない、従うしかない自分の、弱さから、逃げてるだけなんだ……弱いんだよ、卑怯なんだ、見てる、だけだった」

先生が忙しいとか、校長がどうとかそんなの、先生が悩めばいいことだ。

「手を繋ぐことも、抱き締めることも、笑って話を聞くことも、一緒に泣くことだって、ほんとは出来たのに! なんで、わからなかったんだろう、なんで……なんで、それくらい、僕にできたじゃないか」


「……うぁ……」

誰かの、嗚咽が聞こえた気がした。
誰もいない空間だった。

女の子が、震えている気がした。

「わああああああああん」

女の子が、泣いていた、気がした。


―――うわああああああん、わあああ






「花、花……?」





「私、なんで、

生きられないんだろう?」



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