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昨日公園。

〈注意〉
この物語には人が亡くなる表現が含まれています。
その点を留意し、ご注意してお読みください。

this story from 世にも奇妙な物語/昨日公園


♪♪〜〜♫〜、、、、、、

何処からだろう。

大学から帰って来る道の途中で綺麗なサックスの音が聞こえて来た。

以前から私の大好きな音色だ。

おそらく彼女が何処かで演奏しているのだな、、、

そう思い彼女を探してみる。

♪〜、、、♫〜〜、、、

この音はどうやら近くの公園からしているようだ。

私はその音に引き寄せられるかのように公園に入る。

、、、いた。

私の幼馴染である金村美玖だ。

♫〜〜、、、♪♪〜〜、、、

菜緒「やっぱ美玖やったか。」

美玖が私に気付いたようで演奏をやめた。

金村「あれっ、菜緒じゃん!」

手に持っているサックスをケースに戻した美玖。

笑顔で私に駆け寄って来る姿が愛らしく感じる。

菜緒「やっぱり美玖のサックスはええな!
   今まで聞いたやつで一番綺麗!」

美玖「えへへ、、、そんな褒めないでよ〜///」

照れくさそうに少し俯く美玖。

美玖「あっ!菜緒はバレーボール頑張ってる?」

菜緒「もちろんや!
   小さい頃に美玖と約束したからな!」

美玖「うん!私はこのサックスで、菜緒は
   バレーボールで1番になる、、、でしょ!」


美玖はわたしの唯一の親友と言っていい。

小さい頃から一緒にいて、生まれた病院も、学校の登下校も、修学旅行も、、、

大学はお互い別々の場所に行ったから、以前より会うペースは減った。

だけどLINEでのやり取りは毎日するし、今日みたいに美玖のサックスが聞こえてきたら足がその方向に向いてしまう。

まぁとにかく私と美玖は一蓮托生の関係だって事!


美玖「ん〜、、、もう1時間くらい吹いたしなぁ。
   私も帰ろっかな!」

菜緒「そっか!」

それから私たちは他愛もない話をずーっとしてた。

大学でのこと、バレー部の友達のこと、美玖の実家でやってるお寿司屋さんにクレーマーっぽい人が来て大変だったこと、、、

美玖「そうなんだよ〜!もうお父さんもムキに
   なっちゃってさ、、、」

菜緒「それは大変やったなぁ、、、」

美玖「まぁ何とかその場は治まったんだけどね。
   あっ!もう着いちゃった、、、」

菜緒「美玖と話してるとすぐやな笑。」

美玖「うん笑。それじゃあまたねー!」

菜緒「またな〜。」

手を振りながらお家に入っていく美玖。

帰ったら今度遊びにいく約束でもしよっかな。


菜緒「ふぅ、、、ただいま〜。」

私ら家に着いてすぐに美玖にLINEをした。

なお💬 今度のお休みとかあそぼーや!

、、、、、、ん?

いつもだったらすぐ既読がつくんだけどな。

まぁ美玖はお寿司屋さんの手伝いもしてるって言うから忙しいんかな。

私はスマホを置き、大学から出てるレポートを進めた。


1時間後、、、

菜緒「終わったぁ〜!」

長いレポートもようやく終わり、私は一息つこうとした。

しかし次の瞬間。

ドンドンドンドンッ、、、!!

母「菜緒っ!!」

お母さんが血相を変えて私の部屋に飛び込んできた。

菜緒「わっ!どうしたん!!」

母「みっ、、、美玖ちゃんが、、、」

菜緒「美玖?美玖がどうしたん?」

母「交通事故に遭って亡くなったって、、、」

菜緒「、、、え?」


それからの出来事は光のように過ぎていった。

すぐにお通夜、葬儀、告別式、葬式、、、

僧侶の読経も妙にしっくりこない。

誰の葬式かも分からなくなりそうだ。

美玖の両親が棺に抱きつきながら泣いている様子を見て、ようやく実感が湧き始めた。

あぁ、、、本当に美玖は亡くなってもうたんや、、、

私は自分の心が半分なくなってしまったように思えた。


美玖の葬式が終わった直後。

しとしと小雨が降っている。

傷心の私にはこの小雨が槍が降るように痛く、強く突き刺さる。

私は喪服のまま、この前の公園へ向かっていた。

もうあの音色は聞けないんやな、、、

私はあの公園に足を踏み入れた。

菜緒「えっ、、、」

先ほどまで降っていた雨が突然止み、それどころか晴天が広がっている。

私の服も喪服ではなく、あの時着ていたものだ。

私はスマホを取り出し、時刻を確認した。

、、、美玖が事故にあった日だ。

夢かと思って、自分のほっぺたを思いっきり引っ張る。

痛い。

これは、、、現実なの、、、

私が公園の入り口で右往左往していると。

♪♪〜〜、、、♫〜、、、

ある音色が私の耳に届いた。

私が今も昔も大好きだった音色。

もう聞けないと思っていた音色。

菜緒「これって、、、」

私の足は無意識のうちに走り出していた。


菜緒「美玖っ!!」

美玖「あれっ、菜緒じゃん!」

菜緒「美玖、、、ほんとに美玖なん、、、?」

美玖「何言ってるの笑。
   どっからどう見ても金村美玖ですよー!」

菜緒「美玖っ、、、」ギュッ

私は思わず美玖に抱きついてしまった。

涙も次々に溢れてきてしまう。

美玖「わわっ、、、どうしたの?」

私の頭を撫でながら優しく問いかける美玖。

菜緒「実はな、、、」

私はそこで考え直した。

ここで美玖に詳しく話しても『そんなわけないじゃん笑」と一蹴されてしまうだろう。

だから私は美玖には何も言わずに、一緒に帰る事を提案した。

美玖「いいよ〜♫
   楽器片付けるからちょっと待っててね!」


そしてこの前にした会話と同じ内容の会話をし、美玖の家に着いた。

美玖「じゃあね!菜緒!」

笑顔で手を振って別れを告げた。

お寿司屋さんの店舗に入っていく美玖の背中を見つめ、私は今日の事故を防ぐ意思を固めた。

菜緒「、、、私が守ったるからな。」


私は美玖と別れた後、事故現場になる予定の場所にいた。

ここにいれば、美玖を事故から守ることも出来るだろう。

そうして待つこと15分。

自転車に乗った美玖がこちらに向かって走って来る。

私は偶然を装った風にして、、、

菜緒「あれ?また会ったな〜笑。」

美玖「ほんとだ!菜緒って家の方向こっちだっけ?」

菜緒「ちょっとした散歩や!美玖は?」

美玖「私?私はお父さんたちのお手伝いでね!
   このお寿司を、、、」

私はできるだけ会話を長引かせ、事故の発生時刻が過ぎるのを待つ。

、、、よし。

これで美玖が事故に遭うことは無くなったな。

菜緒「あーごめんな!
   ついつい話し込んでしもた、、、」

美玖「えっ、ほんとだ!
   もう20分も話しちゃってたね笑。」

菜緒「じゃあまたな!
   今度は一緒にご飯でも行きたいなぁ。」

美玖「いいねそれ!帰ったらまたLINEするから!」

菜緒「うん!」

本日2度目の別れの挨拶をした私たち。

これで美玖が事故に遭って死んじゃうことはない。

私は一つの大きな仕事を終えたようで、達成感に溢れていた。

あとは美玖からのLINEを待つだけや!


私は自分の部屋で美玖からのLINEを待っていた。

しかし、待てども待てどもLINEが来ない。

そんなにお手伝いに時間が掛かってるのかな?

うーん、、、

まぁ美玖も忙しいんやな。

喉乾いたし、ちょっとお水飲んでこよ。

私はスマホを置き、1階のキッチンへ向かった。


リビングではお母さんがテレビニュースを見てる。

母「最近は物騒なニュースが多いのねぇ、、、」

ため息をつきながら呟いたその言葉は、私の胸にグサリと刺さる。

、、、大丈夫!

美玖は無事に送り届けたし、事故も起こらんやろ!

私は飲んでいたお水を置いて、美玖からの返信を確かめに部屋に戻ろうとした。

しかしその時、テレビから信じられないニュースが飛び込んで来た。

「、、、はい。ここで速報です。工事現場に使用される鉄骨の運搬中、一般女性が巻き込まれるという事故が発生しました。被害者は寿司の配達中、事故に遭遇したようです。」

、、、、、、え?

まさかそんなことがあるわけない!!

私は急いで報道された場所へ向かった。


♪♪〜〜、、、♫〜、、、

あぁ。

もう何度目になるだろうか。

私は聞き慣れたサックスの音の元に行き、美玖に声をかけた。


あれから事態は悪化していくばかりだった。

しまいには、美玖のお父さんやお店まで巻き込まれてしまうようになった。

殺人強盗、放火、トラックの衝突、、、、、、

何度も何度も美玖を助けようとしたが、いずれも失敗に終わってしまった。

もうどうしたらええか分かんないよ、、、


美玖「あれっ、菜緒じゃん!」

何度も見た光景が、また目の前で行われている。

菜緒「、、、、、、美玖はさ。」

美玖「なになに?」

菜緒「私が明日、死んでまうって言ったら、、、」

美玖「えー!!菜緒死んじゃうの、、、、、、」グスッ

いや泣くの早すぎやし、死ぬのは私じゃなくて、、、

菜緒「いやそうやなくてな?もし私が死ぬって
   言ったら美玖は、、、どうする?」

美玖「うぅ、、、もちろん助けに行くよ、、、」グスッ

涙を拭いながらすぐにそう言ってくれる美玖に嬉しさが募る。

菜緒「、、、そっか。ありがとな。」

美玖「どうしたの?急にそんなこと聞くなんて、、、」

菜緒「あともう一個ええ?」

美玖「、、、うん。」

菜緒「美玖はこの世界で一番大切なものって何?」

美玖「私の大切なものかー、、、」

少し考えるようにした美玖。

美玖「やっぱり家族かな!私をここまで育てて
   くれたし、大学にも行かせてくれたし!」

菜緒「、、、そっか。」

美玖「あっ!菜緒は2番目に好きだよ!」

私の返事に、落ち込んだと思ったのかすぐにフォローを入れてくれる美玖。

、、、美玖の一言で覚悟は決まった。

菜緒「美玖!本当にありがとうな!」

美玖「ええっ!」

菜緒「私は美玖のことが大好きや!少し負けず
   嫌いなところもサックスが上手なところも
   優しすぎるところも!
   ぜんぶぜんぶ大好きや!!」

美玖「ちょっと、、、恥ずかしいよ、、、///」

私は美玖への気持ちを包み隠さず放った。

さよならの意味を込めて。

美玖「もぉ、、、
   そろそろお手伝いの時間だから、、、///」

照れながら急いで楽器をしまう美玖の姿を目に焼き付ける。

美玖「じゃあね!また遊び行こーね!!」

いつもだったら追いかけた背中。

菜緒「、、、またな。」

美玖「うん!」

走り去っていく美玖。

その姿が消えた時、私は膝を折って泣いてしまった。

そしてその数時間後、美玖は亡くなった。


7年後。

美玖が世界で一番大切なものを守るため、私は美玖を助けなかった。

あれから私はバレーも続けながら、サックスも初めて見た。

美玖が吹いていた様にはとても吹けず、美玖の凄さを改めて実感する。

今日も7年前、美玖と別れたあの公園でサックスを吹いている。

、、、聞こえとるかな。

「ママー!」

菜緒「あっ!走ると転ぶでー!」

あれから私は大学で出会った宮田〇〇という人と結婚し、1才の子宝にも恵まれた。

〇〇「はぁ、、、はぁ、、、」

あっ、〇〇が走って私のところにやってきた。

最近の〇〇は顔色が悪い。

それに私と話す時、思い詰めた表情をすることが多くなった。

〇〇「なぁ、、、菜緒、、、」

妙に真剣な顔をして話す〇〇。

菜緒「なに?」

〇〇「もしもさ、、、俺が明日死ぬって分かってたら
   菜緒はどうする、、、?」

私はその一言ですぐに確信した。

菜緒「、、、そっか。ありがとな〇〇。」ギュッ

〇〇「菜緒?」

菜緒「この子を頼んだで。
   私は2人のこと愛しとるからな?
   なんかあったら私が空から助けたるわ!」

〇〇「、、、菜緒っ、、、、、、」グスッ

菜緒「泣かんといて。
   最後に見る顔は笑顔がええ。」

美玖、もうそろそろ私もそっちに行くで。

私の下手くそなサックスでも聞いてくれな?

その数時間後、私は死んだ。


昨日公園。

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