見出し画像

マイヒーロー。(前編)

7/8、快晴、学校の屋上。

山下「ふぅ、、、いい天気。」

そう、今日はとても良い天気。

真上には無限に広がっている様にすら思える青空。

そしてオレンジのインクを1滴垂らした様に明るい太陽。

遠くから聞こえる蝉の鳴き声は、私が既に夏という季節に足を踏み入れたことを騒々しく知らせてくれている。

まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど。

山下「よいしょっと、、、」

この学校の屋上は少し狭い。

それにベンチはおろか、日陰すらもない夏には圧倒的不向きな場所だ。

あるのは緑色のペンキで塗りたくられた網目上のフェンスだけ。

そのペンキすらも剥がれ落ち、汚らしい錆がところどころに見える。

その錆は長い間は手入れがされていないことを訴えているみたいだ。

私は錆の汚れもお構いなしに網目へ指を突っ込み、少しずつ登っていく。

、、、、、、っ。

一昨日に痛めた脇腹がズキズキと悲鳴を上げる。

ちょっとしたアザになってるんだよなー。

でも、私にはもう関係ないことだ。

やっとのことで登り終えたフェンス、そして今度はその反対側へと降りる。

約25cmくらいの幅。

少しでも踏み外せばその瞬間、私の命は終わりを告げる。

あぁ、、、

どこで間違えたんだろう。

山下「本当に綺麗な青空、、、」

最後に見る景色としては申し分ないなぁ。

私は2分間だけ自分の余命を伸ばして絶景を眺めていた。

よし!もう目に焼き付けた!

これで未練なく飛び降りることが出来る!!

私がいつからか身につけた虚構のポジティブ思考は最後まで大活躍だ。


、、、、、、未練か。

無いわけがない。

私はまだ高校一年生だし、アイドルになる夢だって叶えてないし、お母さんにもお父さんにも親孝行できてないし、、、、


好きな人に気持ち伝えれてないし、、、


数ヶ月前、4/2。

春風が吹き始めた頃、私は新しい制服の袖に腕を通した。

山下「ふんふ〜ん♪」

〇〇「今日から高校だってのに何で楽しそう
   なんだよ、、、」


彼は梅澤〇〇、私の幼馴染の男子高校生。

成績優秀、スポーツ万能で顔もカッコいいとんでもない人!!

、、、ちなみに私が小学生の時からずっと好きな人。

だけどフラれる恐ろしさが私の背後に付き纏い続けてもう10何年。

いまだに気持ちを伝えられていないんです。


山下「〇〇くんは若くないね〜。
   高校は人生に一度の青春時代なんだから!!」

〇〇「はいはい、、、」

そう、高校とは人生に一度しかないアオハルの時代!!

小学生の時から燻らせてきた気持ちを爆発させる時がついに来たんですよ!!

そんで付き合ってお泊まりとかしてデートも行って〜♪

あー!もう〇〇とやりたいこと多すぎて困る〜♪

山下「むふふ、、、」

〇〇「何笑ってんの?」

山下「別に〜♪」


高校、1-A

幸運なことに私と〇〇は同じクラス!

しかも黒板に張り出されていた座席表を見ると隣同士ではありませんか!!

これは神様も私に味方してくれてるな〜♪

〇〇「まーたニヤニヤしてる。」

山下「あれ?顔に出ちゃってた?」

〇〇「思いっきり口角上がってたぞ笑。」

そう言って弾ける笑顔を私に見せてくれる〇〇。

今まで何千回と見てきた表情だけど、その度に私の心臓をキュッと締め付ける。

好きすぎて辛いってこんな感情なんだろうな、、、///


山下「あっ!今日の放課後って空いてる?」

今日は入学式が終わったら即解散の日。

帰りが早い日はいつも、わたしは〇〇を連れ出して色んなところでデートをする。

まぁデートって言うのは私の勝手。

〇〇はそんな気じゃない事なんて分かってる。

それでも好きな人とは2人で出かけたいじゃん!


〇〇「今度はどこ行くの?」

山下「うーん、、、じゃあショッピングモール行こ!」

〇〇「おっけー。」

山下「うんうん!」


「、、、、、、チッ。」


入学式。

私たちは入場するまで廊下に整列していて入場の瞬間を待っていた。

会場である体育館には既にクラスメイトの保護者が私たちの入場を待ち望んでいるらしい。

山下「なんか緊張する、、、」

〇〇「なんでだよ笑。」

山下「いやこう言う式典って緊張感あるじゃん!」

〇〇「まぁ気持ちは分からんでもないけど。」

そう言って制服の襟を正す〇〇。

、、、余裕のフリをして実は〇〇も緊張していることを私は知っている。

昔から〇〇も私と同じくらいの緊張しい。

〇〇「あっ、そういや母さんも美月の制服姿を
   楽しみにしてたなー。」

山下「私のお母さんは〇〇の制服姿を楽しみに
   してる笑。格好いいだろうなぁ、、、って笑。」

〇〇「なんだそれ笑。」

ふぅ、、、

〇〇と話してると緊張がほぐれるんだよなぁ♪

さっきまでの緊張を忘れて笑顔になっていた。

すると、まだ名前も知らない先生が少し声を張って話しはじめた。

教師「それじゃあ新入生、入場するよー!」

その声に少し間を置いて体育館に繋がる扉が勢いよく開いた。

体育館に入ると、たくさんの保護者がスマホのカメラを構えはじめた。

〇〇母「あっ!美月ちゃーん!」

少し進むと〇〇のお母さんが見えた。

あっ、隣には私のお母さんも座っている。

2人とも私に向かって手を振りながらスマホで撮影を続けている。

私は満面の笑顔をカメラに向けてピースサイン。

後ろの〇〇は恥ずかしいのか、少し下を向いて足早に前へ進んでいた。

ふふっ。

その姿が可愛くて思わず笑みが溢れた。

後でお母さんに動画もらおーっと!


放課後。

あれから入学式を終えた私たちは解散し、お母さんの所へ行った。

山下母「2人とも大きくなったわねぇ、、、」
〇〇母「ほんとよねぇ、、、」

美月「なにそれ笑。」

山下母「あんなに小さかったのにもう高校生なのよ!
    〇〇くんもカッコよく育って!」

〇〇「そんなことないっすよ笑。」

山下母「いやいや!
    美月なんて帰ってから〇〇くんの」

美月「ちょっとー!お母さんやめてよー!」

〇〇「え?なになに?」

美月「なんでもないの!
   あっ、私たちの写真撮ってよ!」

山下母「はいはい笑。」

私はお母さんが余計なことを口走らない様、話の方向を面舵いっぱい。

昇降口に立てかけられている『祝 入学』の看板をバックに2人で写真を撮る。

山下母「はい、チーズ!」


6/5

入学式から2ヶ月と少し、私は高校生としての生活を謳歌していた。

勉強にも何とか喰らい付いてるし!

〇〇とも今のところ順調だし、親友も出来ました!

賀喜「山下さーん!」

この子はクラスメイトの賀喜遥香ちゃん!

かっきーは出会った頃から私を「可愛いです!」って言ってくれてて、、、

それからずーっと一緒にいるんです!

あっ、ちなみに私が〇〇を好きなの知ってます!

私の恋愛相談にも付き合ってくれる優しい子なんです!


賀喜「あれ?〇〇くんはどうしたんですか?」

山下「今日は部活なんだってー。」

賀喜「なるほど、、、
   通りで山下さんの元気がないわけですね!」

山下「、、、分かっちゃう?」

賀喜「はい!」

私って〇〇がいないだけで元気が無くなるのか、、、


「「キャー!!〇〇くーん!!」」


賀喜「今日も〇〇くんは大人気ですね、、、」

グラウンドではサッカー部の練習が行われている。

そしてその周りには女の子ギャラリーが沢山いる。

目当ては我らが梅澤〇〇。

小学生からサッカーを続けている〇〇は中々の実力者で、練習には毎回の如く女の子達が寄ってくる。

賀喜「やっぱり〇〇くんを狙う子は多そうですね。」

山下「そうなんだよー!
   小学生からずーっとそうなの、、、」

賀喜「でも山下さん"幼馴染"っていう最強の
   アドバンテージがあるじゃないですか!!」

山下「、、、うん!そうだよね!」

危ない危ない!
昔っからのネガティブ山下が出てくるとこだった。

『〇〇に私なんで釣り合わないよね、、、』
『私よりも可愛くて優しい子が良いよね、、、』

昔からこんな考えが頭から離れない時が多々あるんです。

そんな自分が嫌で何とかポジティブになろうとして今に至ります、、、


賀喜「あっ!今からバスケ部のミーティングに顔を
   出さなきゃいけないんだった!!」

山下「え!早く行きなよー!」

賀喜「すみません!失礼しますね!」

そう言ってかっきーは駆け足で去っていった。

私は部活に入ってないからなぁ。

帰ってもやる事ないし、、、

サッカー部の練習でも見に行こうかな?

そう言えば〇〇がサッカーやってる所も最近は見てないし!

そう決めた私は荷物をまとめてグラウンドの方へ行こうとした。

すると次の瞬間、、、

「ちょっとあんた?」

山下「え?」

後ろから誰かに声をかけられた。
振り返ると4人の女子生徒が私を睨みつけていた。

「山下さんだよね?」

山下「そうだけど、、、」

確かうちのクラスに居たような、、、

あいにく私はかっきーと〇〇位しかまともな友人がいないし、人と関わることが得意ではない。

「、、、ぷっ!あはははっ!!」

私に声をかけたクラスメイトが急に笑い声を上げた。

「やっぱりアンタみたいなのは〇〇くんに釣り合わないわね笑。」

「ねー!」

「こんなのに付き纏われてる〇〇くんが可哀想、、、」

山下「、、、えっ。」

次々に浴びせてくるは私に対する罵詈雑言。

「あれ〜?もしかして気づいてないの笑。」

「アンタと話してる時の〇〇くんの顔、めちゃくちゃ迷惑そうなの笑。」

「それなのに楽しそうに話を押し付けちゃって笑」


山下「、、、っ!そんなの!」


「なに口答えしてんの?」
「私たちはアドバイスしてあげてるんだけど。」
「そうそう!身の程もわきまえない勘違い女に!」
「ちょっとそれひどすぎー笑。」


「「「「あはははははっ!!」」」」


私はその場にいることが耐えきれずに走り出した。

私が走り去っていく姿を見てまた一層、笑い声が大きくなった気がした。


山下宅。

コンコンッ

山下母「、、、美月?ご飯できたよ?」

美月「、、、、、、いらない。」

山下母「、、、そっか。冷蔵庫に入れておくからお腹が
    空いたら食べてね!」


お母さんはそれだけ言い残してリビングに戻っていった。

あぁ、、、
お母さんにまで心配かけるなんてダメだなぁ、、、

学校で浴びせられた悪口や嘲笑が頭からこびりついて離れない。

YouTubeで動画を見ようとしても、勉強しようとしても、寝ようとしても、、、

響いてくるのは私を見下している笑い声。

明日からどうしようかな。

またあの人たちと顔を合わせる事を考えたら憂鬱でしょうがない。

ピコンッ

ん?

私のスマホに一通のLINEが来た。

〇〇からだ。



〇〇💬 「今日どうかした?」

〇〇💬 「美月探してたのに全然居ないからさー」

〇〇💬 「先帰るんならLINEくれよなー笑。」


あっ、〇〇に連絡するの忘れてた、、、

毎日一緒に帰ってるのに悪いことしちゃったな。



みづき💬 「ごめーん!」

みづき💬 「用事あるの忘れてて急いで帰ったから
         〇〇のことも忘れちゃってた笑」

〇〇💬 「ひでぇな笑。」

〇〇💬 「まぁ何もなくて良かったわ。
        じゃあまた明日なー。」

みづき💬 「うん!」


よし、これでいい。

〇〇にも心配かける訳にはいかないもん!

私はほっぺたを2回叩いてお母さんの待つリビングへ。

美月「あーお腹すいた!」

山下母「、、、ご飯食べれる?」

美月「うん!お腹ぺこぺこだもん!」

山下母「、、、そっか!いま温めるから!」


6/3。

あの子達は何もなかったかの様に登校していた。

仲良さそうに他のクラスメイトと談笑している姿は、昨日の事は夢だったのではないかと錯覚してしまう、、、、、、が。

「ぶっ。」

何度か私の方を見て吹き出している様子が夢ではないと教える。

、、、絶対に負けるもんか。

山下「ねーねー〇〇!」

〇〇「ん?」


6/20

それから私はなるべく1人で居る時間が無いように気をつけた。

加えてあの4人に合わない様に。

だけどこの日、私はクラスメイトの会話を聞いてしまった。

山下「それでねかっきー!」

賀喜「はい!」

かっきーと一緒に廊下を歩いてる時だ。

教室から男子2人の話し声が聞こえてきた。


「なーなー。うちに山下さんっているだろ?」

『あーめっちゃ可愛い子でしょ。』

「いや実はさ、女子から聞いたらヤバイらしいんだよ!」

『ヤバい?』

「そうそう!男を取っ替え引っ替えしてるとか、Twitterの裏アカで悪口言いまくってるとか!!」

『まじで?!そんなふうには見えなかったけど、、、』

「これがマジらしいんだよ!!」


もちろん、こんなのは根も葉もない話だ。

でもここで私が介入したらまたややこしい事になる気がした。

私は言い返したい気持ちを抑え込んで歩き出そうとした。

山下「、、、、、、行こっか。」

賀喜「、、、ない。」

山下「え?かっきー?」

賀喜「許せないっ!!」

ツカツカと歩き出したかっきーは、その教室の扉を力強く開けた。

バンッ!!

「「えっ!?」」

中にいた男子生徒2人は情けない悲鳴を上げた。

賀喜「ちょっとアンタ達!!」

「なっ、、、なんだよ賀喜!」

賀喜「山下さんがどんな思いか分かんないの?!
   くだらない事で騒いんでんじゃないよ!!」

山下「かっ、、、かっきー!もういいよ!」

賀喜「誰がそんなこと言ってたの!!」

話を聞くと、どうやら私に関する噂を立てていたのは先日の4人らしい。

賀喜「あいつら本当に許せない、、、!!」

山下「いいよいいよ!早く帰ろ!」

賀喜「でもっ!!」

山下「大丈夫だから!じゃあ2人ともまたね!」

私はかっきーの背中を無理やり押して教室を後にした。

それから数日後、最悪の出来事が起きるとも知らずに、、、


6/25

私は次の授業が移動教室だったため、いつもの様にかっきーと一緒に行こうとした。

山下「かっきー、次の教室いこ!」

賀喜「ごめんなさい!
   ちょっと待っててください、、、」ガサゴソ

さっきからカバンの中を何度も探っているかっきー。

山下「どうかしたの?」

賀喜「教科書がなくて、、、」

山下「教科書?」


「ぷっ、バカみたい、、、笑。」


その言葉が聞こえた瞬間、背筋に冷たいものが走った。


山下「あー、、、教科書なら私が見せてあげる!」

賀喜「ごめんなさい、、、」

山下「ううん!そんなの気にしなくて良いよ!」


その日の放課後。

誰もいなくなった教室に1人、私はゴミ箱を漁っていた。

多分だけどここに、、、、、、あった。

名前の欄に『賀喜遥香』と書いた教科書が一冊。

ご丁寧にカッターか何かで切り付けられた跡も見えた。

私だけじゃなくかっきーにまで、、、、、


次の日から、私は1人になった。


後編に続きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?