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知能検査で爆笑した日のこと

療育センターで、発達外来の受診時のことです。
そういえば来月は療育手帳の申請に行くのだったと言うことを思い出し
担当の先生に
「来月療育手帳の申請をするんです。その時に児童相談所で知能検査をするって聞いたんですけど、今までやったことが無くて。どんな検査なんですかね?」
と聞いてみました。

先生は
「あれ?。今までにやったこと無いんでしたっけ?
別に練習がいるものでは無いですよ。でも今現在の指数を把握しておくのも良い事だと思います。」
「次回の言語療法の時間にやれるように手配しておきますよ。」
そう言って下さいました。


かくして2週間後、娘は生まれて初めての知能検査に挑戦することになりました。
その頃にはもう何度か言語療法を受けており、担当の先生にも馴染んでいた娘。
ボキャブラリーはたいしてありませんが、それでも先生相手にごく簡単な日常会話を交わすことがありました。
会話と言ったってその大半は
「もう終わり!」
「帰る!」
「トミカやる!」
などなど。
大半は文句ばかりでしたが…。


そんな娘ですが、先生は
「大丈夫!リラックスしてやってみようね。」
と、いつも通りの楽しい雰囲気を作って下さり
いざ検査が始まりました。
そして私はいつも通り、後方から黙って様子を見守るのみです。

勝手知ったる部屋で、いつもの先生。
だけど今日はいつもに増して
「つまらない…。」
「終わりたい…。」
そんな娘の心の声が聞こえそうな時間がダラダラと過ぎていったのでした。

私も
「これは無理だ…。」
と半ばあきらめかけたその時、娘から目が覚めるような一言が出たのです。

それは、先生が簡単な絵を使った問題について説明してくれた時のこと。
問題用紙には、上下、左右へと伸びる道路が複数描かれており、交差点には信号、道路沿いには街路樹や家が描かれていました。
ちょうど絵本の一場面のようなものでした。

そして先生の手には、ちょうど子供の手のひらサイズの車が数台、小さな犬の人形がありました。
まずはそれらを絵の中の適当な場所に配置して、問題の始まりです。

犬の人形を置いた家を指さして、先生が
「このお家には小さな子犬がいます。」
と説明したその時でした。

間髪入れずに娘が一言

「違うね!そこじゃ無い!」

それは今日1番の大きな声でした。
こんな場面で何故かやる気満々に食いついてきた娘。
犬の人形を手に取ると、全く別の場所に置き直しました。

一瞬の沈黙の後、先生が
「違うかな?今日はここで良いと思うよ。」
と犬を元に戻し、話を進めました。
しかし明らかに納得していない様子の娘でした。

救急車を赤信号の手前に配置した先生が
「救急車はここに止まっているよ。」と説明すると
「救急車どこから来た?どこに行く?ここどこ?何号線だろうね?」
などなど。
気になることが次から次へと溢れて止まらない娘は
妙な集中力を見せ始めてしまいました。

半ば苦笑いをしながら娘の質問に答えて下さる先生と
いけないとは思いつつ、段々面白くなってしまっている私。
そして、先生と目が合った瞬間
あろうことか、私は思わず吹き出して大爆笑してしまったのです。

少し困った顔で笑い出した先生も
「そうだよね。気になるよね。」
「急に出されたって、どこよ?って思うよね。」
と…。
感慨深そうな表情をされていたのを覚えています。
(本当に、今思い出しても申し訳無かったなあと…。やっぱり笑っちゃうのですが。)

当時の娘にとっては何ら悪気があるわけも無く、
ただ「何で?」の連続だったのでしょう。
そして、多分これこそが自閉症児の特性の1つである『こだわり』なのだろうと思っています。

そう言ってしまえば話は終わってしまうのですが
私にとって、娘の疑問はあまりに新鮮で、斬新でした。

問題文を読む時、その設定を疑問に思うなんてこと、私には経験がありません。
だって、問題は問題だから。
それ以上追求するものでも、深い興味が湧くものでも無いです。

そこをサラッと流せず、気になってたまらない娘。
視点が違うんだなあと思います。


そう言えば、娘はいわゆる絵本の読み聞かせには一切興味が湧かず
「少しは聞いてみなさい!」
と羽交い締めにしながら無理矢理読んだ数々の本は、全てお気に入りのトミカを並べる駐車場と化していました。

それなのに
そんな娘が何故か大いに興味を示し、何度でも
「ここを読んで!」
と指さしで頼まれた絵本が一冊だけあったのです。
もちろん、絵本の内容など全く興味はありません。
色鮮やかな絵だって、ちっとも見る気配は無く…。

娘が何度でも読んで欲しがるお気に入りの箇所は…
なんと
『作者の名前』
そして
『出版社名』
でした。
これが相当面白かったらしく
何度読んでも初めて聞いたように
大爆笑するのでした。
それこそ涙を流して笑ってました。

本当に不思議でした。
どこが面白いのか?どこが気に入ったのか?
今でも私にはさっぱりわかりませんが
とにかく娘が笑ってくれるので
何度その絵本の作者名と出版社名を読んだことか…。


私とは大きく違う視点、常識、考え方を持って生まれた娘に
正直困ることは多いし、イライラすることもしばしばです。
けれど時々
「目から鱗が落ちるってこのこと?」
って思うような気付きをくれることがあるのです。
娘の視点を想像して考えると
「あれ?もしかしておかしいのは私の方じゃない?」
って思うことも。

全てを面白がるのは難しいけれど
考えても見なかった新しい目を開いてくれる事もある。
娘と共に生きながら、いつ来るか分からない面白い瞬間を
心待ちにしている私がいるのは間違いないです。
































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