見出し画像

(SSBL小説)ある夏の日

 真夏の太陽というのは非常に恐ろしい。人の気力や体力を簡単に奪ってしまう。そして一番厄介なのは、人の思考も狂わせることだ。
 
 大学の講義を終え、ポルトとエルは寮に帰ろうとしているのだが、歩いて30分もかからない距離のはずなのに、まだたどり着かない。
 じわじわと体から流れる汗は衣服に張り付き、それだけでも二人をイラつかせていた。

 そういえば、大学の設置してある暑さ指数を測れるという温度計は、37℃を超えていたような。

「毎年『今年の夏は異常気象』って言葉を聞いているようながするけど、なんで? 異常じゃない年っていつ来るの?」
 じりじりと照り続ける太陽にため息をつき、ポルトは隣で歩いてるエルの方を向く。
 エルはうんざりした表情で空を見上げて、ため息をついた。
「エルニーニョに聞いてくれ」
「だからエルに聞いてるんだけど」
「名前がエルだからって、エルニーニョ現象に詳しいわけじゃないよ」
 軽く笑い、そして言葉を繋げた。
「そもそも地球温暖化とか、人間が生きているうちは良くなるとは思えないけど。人間なんて自己都合しか考えない傲慢な生き物なんだから」
「それは手厳しいね」
「僕だってその一人だよ」
 冷めた口調でそう言い、持っていたペットボトルの水を口に含み飲んだ。
 エルの額から流れれる汗の行方を目で追いながら、
(エルが傲慢な人間というのであれば、むしろ自分は淫蕩だろな、友人に少し欲情しているなんて)
 と、内心苦笑いする。

 エルとポルトは高校からの友人だ。席も隣になることが多く、大学の寮でも同室だ。
 エルは韓国系アイドルのような綺麗な顔をしていて、雰囲気も華やかに見えるため、高校の時から男女ともに人気があった。それに比べポルトは顔は悪くないものの、地味でなんとなく陰気な雰囲気が漂っている。
 だが、エルに言わせれば「ポルトは陰気じゃなく妖艶とか妖美だよ」と、笑いながら言っていた。
  
「なあ、僕らはずっと一緒にいるじゃん」
 突然のエルの言葉に一瞬考えたが、間違ってはないので素直にポルトは頷いた。
「そうだね」
「とても仲が良くみえるよな。実際、仲はいいんだけど」
 エルが何を言いたいのかよくわからなかったが、不意にポルトのいたずら心がくすぐられた。
「そうだね。なんなら一線超えてみる?」
 ポルトの試すような瞳に、エルは一瞬時が止まったように固まるが、すぐに吹き出し笑う。
「もう何言ってんだよ」
「なんで? 僕はエルとならできるけど」
「もう、そういうの好きなんだから」
 半ば呆れたように首を振るエルにポルトは
「エルはそういうの好きじゃないの?」
「嫌いじゃないけど」
「嫌いじゃないって何? 僕がこんなにもエルの事を大好きだというのに酷いよ!」
 可愛らしく、あくまでも可愛らしく、子供のような言い方で口を尖らせてみる。最大限の可愛さアピールに、憐れみを含んだ表情で笑った。 
「うん、わかった。もう夏が暑すぎて変なこと口にしちゃうよな」
「変なことを言っちゃうのは全部この異常気象のせいだよね。マジで頭が湧きそうだよ」
「そうなる前にアイスでも食べに行く?」
「いいね、エルの奢りで」
「条件付きで奢ってやる」
「条件とは?」
「まだ内緒」
 二人はコンビニエンスストアに寄り道をし、アイスを食べた後、また歩き出した。

「ポルト、さっきの話だけど」
「うん」
「ヤるんならお前がしたな」
「拒否権は?」
「無しで。さっきアイス奢ったから」
「交渉にしては安くない?」
「いいから黙って俺に貫かれてくれ」
「なんか急に男らしくなった」
「俺はいつでも男らしい」
 何故か力こぶをつくり笑うエルに、ボディービルダー並みのマッチョになったエルを想像して寒気がした。
「その綺麗な顔でゴリマッチョは勘弁してほしい。エルには適切な筋肉量を求める」
「お前の男らしさはマッチョだけなのか? 偏りすぎだろ。適切な筋肉量ってなんだよ」
「今のままで十分素敵ってことだよ! 僕は細マッチョタイプが好きなんだ! いいか、エルは既にそこを満たしているんだから、そこをわざわざ増やすことも、減らすこともないんだよ。ていうか、僕は一体何を熱く言ってるんだ」
「お前のそういうとこホント好き」
 無邪気に笑うエルを見ながら、こいつには勝てる気がしないと、思うポルトだった。

「なんならもう付き合っちゃう?」
 冗談ぽく笑うポルトに対してエルの表情は一変し、真剣な眼差しでポルトを見る。
「だったらお前、セフレ全部切れよ」
 エルの一言にポルトの体が一瞬固まった。
「え…? セフレ? 何の話?」
(セフレの話なんて一度もしたことないのに、むしろ隠してたのに、何で知ってるの?)
 頭に疑問詞が次々と浮かぶが言葉には出せない。
 エルは一度息をつき、ポルトの襟首を掴み上げ自分の方へと引き寄せる。
大きな目でポルトを睨みつけ、
「必ず切れ、いいな」
 と、低くドスのきいた声に恐怖を感じ、ポルトは顔を引きつらせた。
「ど、独占欲発動早くない?」
 その問いには答えず、その代わり襟首を掴んでいた手を放し、ポルトの腕を掴みにっこりと笑うが、目は笑っていなかった。
「やっと着いた。早く中に入ろ、干上がるよ」
 エルはポルトの腕を引きなが駆け足で寮の中に入っていく。ポルトは転びそうになりながらも一緒に寮の中へと入っていった。

あとがき

終わるタイミングを見失う。こんなに長く書くはずじゃなかった。
これもまた猛暑のせいですよね! と自分に言い訳してます。

私の作品を読んでくださった方々に感謝と愛を!
それではまた次の作品で会いましょう!

よろしければサポートをお願い致します。サポートして頂いたお金はクリエーターとしての活動費に使わせていただきます。宜しくお願い致します。