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ヒメオオメカメムシ!畑のネギを守ってる!?

1.はじめに

ヒメオオメカメムシ。少し愛らしい名前を持つこの虫はカメムシ目オオメナガカメムシ科に属する昆虫である。その大きさは凄まじく、なんと!成虫になると3㎜にも達するのである!飼育している著者自身、何度も顕微鏡がほしいと思ったことか!
 そんなヒメオオメカメムシは実は我々の足元に枯草や土にまみれて至って普通に生息している昆虫であるが、実は農業界においては知る人ぞ知るエース昆虫として注目されていることはご存じだろうか?
 本記事においては、ヒメオオメカメムシの魅力、素晴らしさ、愛嬌だけではなく、農業界における役割や有用性について少々冗談も交えながら語って行きたいとおもう。

2.ヒメオオメカメムシの魅力

さて、ヒメオオメカメムシの魅力について語るのが本項であるが果たして書ききれるのであろうか。そんな懸念もあるが、まずは筆を進めてみようと思う。
 本昆虫の絶大なる魅力はまさしくその外見である。2㎜程度の微小昆虫であるが、その見た目のかっこよさは他のカメムシ類には負けてはいない。
 ところで、読者の皆さんはかっこいいカメムシといえば何を思い浮かべるだろうか。例えばサシガメ、例えばキンカメ等浮かんでくると思う。ただし、そのようなカメムシを思い浮かべるのは我々のようなオタクが大半である。もっとも一般的認知度が高く、なおかつかっこいいと思われているカメムシ、それはタガメで間違いないだろう。獲物をつかんで話さない鎌足、瞬時に消化液を注入する針状の口。そして、どことなく地球外生命体感を彷彿とさせる顔つき、目元。それこそがタガメの魅力なのだ。それを認識した上でヒメオオメカメムシの姿を改めて見てほしい。針状の口や地球外生命体を彷彿とさせる目つき、鎌足こそないもののその姿は大人気カメムシであるタガメと遜色ないのである。すなわち、ヒメオオメカメムシは恰好いいのだ。
 また、食性に関しては完全な肉食性であり、自らの体調より小さい獲物はもちろん、大きい獲物に関しても吸汁行為を行うことは確認されている。著者はミルワームの蛹を餌として与えているが、複数匹でミルワーム蛹に吸汁行為を行う姿はまるで、映画ジュラシックパーク2において群れで人間に襲い掛かるコンプソグナトゥスを連想させる程である。

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3.農業における有用性

しかし、自然界においてヒメオオメカメムシが自らより大きすぎる獲物を襲うことはあまり見られていない。なぜなら、ヒメオオメカメムシと同サイズかそれ以下の大きさの獲物が自然界には多く生息しているからである。
 アブラムシ、コナジラミ、アザミウマ。一般的な方には何のことだかわからない言葉かと思われるが、農業従事者においてはこれほど頭を悩ませる言葉はないと思う。すべて害虫の名前である。農業において害虫は数多く存在するが、これらの害虫は微小害虫と呼ばれ、時と場合によっては難防除害虫とされている。なぜ、これらの防除が難しいのだろうか。それは農薬の効かない虫だからである。
 農薬の効かない虫。どういうことかわかるだろうか?話は単純だ。例えば人間においても、薬を飲んだ時に効きやすさを人それぞれあると思う。痛み止めが効く人効かない人。それと同じような特徴、個体差が昆虫にも存在しているのだ。そして、これらの微小害虫の特徴として産卵、孵化、羽化のサイクルが圧倒的に早いという点があるが、それが農薬の効きづらさを助長させているのである。すなわち、農薬をまいたときに数少なく効きづらかった個体が生き残り、その個体同士で交尾、産卵をすることで農薬の効きづらさを遺伝した個体が誕生するのである。そして、持ち前の発生サイクルの速さによって、より多くの農薬に耐性を持った害虫として畑に君臨するのである。
 これらの害虫の恐ろしさは十分に伝わったと思うが(今回は病気の媒介については割愛する)、果たして農薬の効かない虫とヒメオオメカメムシがどう関係しているのか。話は単純である。ヒメオオメカメムシはアブラムシもコナジラミもアザミウマも襲って食べるのだ。ヒメオオメカメムシにしたらこんなに軟らかくて食べやすい獲物はいないだろう。コナジラミ幼虫に関しては移動をしない性質を持つため食べ放題である。もちろん、他の昆虫に関してもかなりの好意的反応を示すことで知られている。このように害虫とされる昆虫を好んで食べることからヒメオオメカメムシは農業界において天敵昆虫と呼ばれ、いわゆる生物農薬というカテゴリに分類されることもある。そして、自然界に多く分布し、畑に勝手に現れ害虫を食べつくすヒメオオメカメムシは土着天敵という分類になるのだ。
 現在、農業界においては天敵利用型農業と呼ばれる作型が提唱されることがある。土着天敵が定着しやすい畑づくりを心がけ、化学農薬の使用を減らし環境負荷を減らす栽培方法だ。例えばネギ栽培の現場においてネギの畝間にムギの栽培を行い、ムギに飛来するアブラムシを増殖させることで(寄種特異性があるためネギにはつかない)、アブラムシを餌としつつムギを住みかとしてヒメオオメカメムシを畑内に定着させてネギにつくアザミウマを捕食させる方法はかなり有名である。もちろん、ヒメオオメカメムシだけでは完全なる防除は難しいため、同じ地域の天敵になりえるコモリグモ類やハサミムシ、ゴミムシなども活用する必要もあるし、場合によっては農薬の使用も必要になるだろう。しかし、農薬の使用回数を減らしつつ、地域の昆虫を使用して農業ができるのであればこんなに素晴らしいことはないのだろうと私は思う。

4.まとめ

 念のため記載しておくが、著者自身も農業生産現場の経験はもちろんある。実際、農薬の使わない栽培が難しいことも重々承知である。そのため、本記事においては、かなり昆虫愛好家としての想いが強い記事になっているだろう。理想論と言われても仕方がない。その上であえて語るのであれば、昆虫好きとして農業に携わる者の中にはこのような想いを持つものもいるし、昆虫の知識は少なくとも畑では活かせるのである。将来、昆虫に携わる職につきたいと思う者がいるならば、農業という道も可能性の一つとして見てみるのも良いのではないだろうか。
 想いが強すぎて少々堅苦しい記事になってしまったかもしれないが、これがヒメオオメカメムシに関する私の思いである。ただの小さい虫ではない。畑のスーパーヒーロー。そんなヒメオオメカメムシは紛れもなく私が心の底から大好きな昆虫である

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