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「ルバイヤート」:本を読む生活

本屋さんをのぞくと、そこかしこに「役に立つ」ことをうたった本が並んでいる。

ビジネスで役に立つ、お金や将来設計で役に立つ、スキルアップで役に立つ。
あらゆる角度から「ご利益」を説くような本があふれる時代だけど、根がへそ曲がりなせいか、僕はそういう即物的な内容がどうも好きになれない。

それよりも、日々の暮らしにはさほど役立たなさそうな内容だったり、はたまた現代のことなど想像だにしない歴史上の人々が残した言葉に心を惹かれる。

この本は、11世紀ごろのペルシャ(イラン)の詩人、オマル・ハイヤームによって書かれた詩集だ。

人生を賛美し、ひたすらに酒のすばらしさをたたえ、過去や未来に心惑わされることなく「今」を楽しむ素晴らしさを高らかにうたう。
たしかペルシャってイスラム教の国だったよなと思い返すも、その内容は禁酒を説く宗教上の戒律などどこ吹く風で、ひたすらに酒をたたえ、現世での楽しみに重きをおいているところがおもしろい。

「いつまで一生をうぬぼれておれよう、
有る無しの論議になどふけっておれよう?
酒をのめ、こう悲しみの多い人生は
眠るか酔うかしてすごしたがよかろう!」

オマル・ハイヤーム(著)、小川 亮作(訳)「ルバイヤート」(岩波文庫)

この一節を読んだとき、いろんなことがどうでもよくなったというか、少し気が楽になった気がした。

先のことをくよくよ考えず、いまこの一瞬を味わい心を向けよといういにしえの詩人の教えは、SNSや本屋さんでもよく見かける「マインドフルネス」という言葉からさほど離れたものではない。耳馴染みのないいくつかの固有名詞は別として、その内容は現代の日本人にだってあまり違和感なく受け入れられるはずだ。

とある酒好きの友人に向けて本を贈ることになり、かつてどこかで出会ったこの一冊のことをふと思い出した。改めて読み返すと、未来の自分に向けて残したい言葉がたくさん見つかった。ぱらぱらとページをめくりながら、ワイングラスでも片手にあれば、読書体験としてはさらに上出来なのかもしれない。

あいにくぼくは酒を受け付けない下戸なので、せめて温かいお茶でも淹れながらにしようと思う。

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