『環境との協働で災害を生き抜く』 前田昌弘氏レクチャー(後編)
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『環境との協働で災害を生き抜く』 前田昌弘氏レクチャー(後編)

この記事は、京都大学准教授、前田昌弘先生に行なっていただいたレクチャーの内容を構成して公開するものです。
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スリランカ紅茶農園の長屋

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写真1:紅茶プランテーションの長屋

次はスリランカで今も続いている研究の事例です。スリランカはかつて「セイロン」とも呼ばれ、紅茶の産地として有名ですが、僕たちが関わっているのは、山岳地帯の閉鎖された紅茶農園です。ここはスリランカでも最古の紅茶プランテーションで、かつての紅茶農園の施設が今も残っており、15軒ぐらいの長屋が点在して現存しています。

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写真2:長屋の住民:インディアン・タミル

長屋には、19世紀の終わりに、南インドから労働力として海を渡って来た人たちの子孫がいまも住んでいます。スリランカの中でもマイノリティで、最近まで国籍が認められていませんでした。非常に弱い立場に置かれた人たちです。紅茶農園が閉鎖して失業したため、出稼ぎや日雇い労働に従事しつつ、自給自足的な暮らしをしています。

スリランカ政府もこの社会問題に取り組んでいるのですが、その中でこうした長屋は問題の温床かのように扱われています。写真3は政府のホームページに載っているものですが、長屋をいかにも暗くて汚いもののように表現し、戸建ての住宅地に再定住させようというふうに訴えています。このように現地では、紅茶農園の長屋は負の遺産として捉えられています。

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写真3:政府広報物における長屋のイメージ

ただ、僕たちはこの長屋にはさまざまな魅力が詰まっていると考えています。イギリスの建築技術、スリランカの現地で取れる石を使った壁、タミル人の生活文化が反映された住みこなしなど、プランテーションの成立によってハイブリッド化した建築文化が長屋に現れています。こうした特徴を活かしてコミュニティに貢献できないかということで、現地のNPOと一緒に支援活動に取り組んでいます。

長屋から価値を引き出す

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写真4:長屋の改修計画

たまたま長屋のうちの1棟を改修できることになったので、住民や行政と交渉して調査を行い、滞在機能をもった施設にする改修計画を提案しました。写真4は改修計画のプランです。これまでの長屋の歴史や価値を引き出すことを意識しました。工事も現地に行って、村の大工さんと一緒に施工しました。この長屋の屋根のフレームは、100年以上前からある鉄の素材なのですが、活かせるものとして再利用しています。

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写真5:竣工後の様子

写真5の右の空間が、長屋の価値を伝えるうえでのハイライトの部分です。さきほどの鉄のフレームが見えるよう廊下を通しました。両側の壁には、村中から集めてきた石を、100年前と同じように積み上げています。もともと長屋にある要素を再構成し、それを見せるような空間をつくりました。

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写真6:長屋を通じた価値の組み直し

村の女性をここのマネージャーとして雇用し、英語を勉強してもらって、ちょうど4年前にゲストハウスとしてオープンしました。もとの住民の暮らしを尊重しつつ、さまざまな新しい機能を入れています。さきほどの宿泊機能に加えて、NPOが住民にウシを貸し出したり、都会向けの有機野菜を栽培したり。外部から来た人が、長屋を中心に環境に働き掛けることで、それまで住民が感じていなかったような長屋の価値や、周辺環境の意味が現れてくる。それをさらに連鎖させてゆくことを目指して、現在もこのプロジェクトに取り組んでいます。

京都でのまちづくり

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写真7:京都の「両側町」

最後に、京都でのプロジェクトです。京都のまちには「両側町」という基礎的な単位があり、通りを挟んだ両側で一つのコミュニティを作っているという特徴があります。これは中世のころに起源をもつもので、町を防衛するためのコミュニティの仕組みです。京都のまちづくりは、両側町を幾つか集めた学区という単位で行われていることが多いです。

僕は有隣学区という場所にずっと関わっています。京都の中心部の、古くからある市街地です。この学区には「まちづくり委員会」が組織されていて、防災まちづくり計画の策定から空き家の活用まで、さまざまな活動をしています。

2016年ごろから、防災まちづくりの計画の策定に、大学の研究者、専門家として関わってきました。町の環境について調べたり、計画を作るだけではなく、空き家の活用や民泊、ゲストハウス対策などにも取り組んでいます。2019年の終わりに計画が承認されたため、具体的にその計画を実行すべく、仕組み作りにとりかかっている段階です。またこの成果として、様々な冊子や地図をアウトプットとして作るなど、地域に成果をフィードバックできるよう意識してきました。

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写真8:トンネル路地の解消

またここは密集市街地なので、袋小路が非常に多いです。こうした場所を市の災害対策と連動して改善する提案なども行なっています。例えば写真8のような、路地の上に屋根がかかった道、「トンネル路地」が京都にはたくさんあります。この奥には6軒長屋があるのですが、もしこれが地震で崩れたら、奥の方々が逃げられなくなる。いろいろ話し合った結果、補助金を活用して屋根を撤去しました。建物自体にも増改築が重ねられていたのですが、それを剝がしたり、取り換えたりして、賃貸住居として再生しています。住まいとして再生しつつ、路地全体の安全性も高めるというような、小規模な改修だけれど路地全体にとってはすごく大事な介入をした、という事例です。

対立をアクションの連鎖に変える

この活動を通じて思うのは、成果物と同じ、あるいはそれ以上に、プロセスを共有して当事者の居住環境に対する意識を高めることの重要性です。そのために、地域の環境について知見を集める段階から住民の方を巻き込んでいく。それで得た知見は、地域に即座にフィードバックし、計画にも反映する。計画作りと知見収集を同時にやることが必要だし、有効だと感じます。

実際、こういうことをやっていると、対立する意見もでてきます。例えば安全性と文化性の観点では、外から来た人は「路地や町家は京都らしいから残しましょう」と言う。住んでいる方は「危険だからなくしましょう」という。対立が簡単に解消されることはまずないですが、プロセスを共有することで、少なくともお互いの価値観が分かるようになるし、アウトプットにも反映されてゆく、ということが起きます。逆に解決しても、次のステップに進めばまたいろんな対立が生まれます。

ただこうした対立は、町づくりのプロセスではよくあることです。それ自体が問題というよりは、それによって活動がストップしたり、停滞してしまうことのほうが問題です。対立が次のアクションを生む原動力になることもあります。空間との関わりの中で、いろいろな主体や、モノのアクションを連鎖させていくことをいかに続けていけるのかが大事だと思って、活動を行なっています。(了)


構成:中村健太郎(なかむら・けんたろう)
1993年生まれ。東京大学学術専門職員
東大建築の権藤研のアカウントです。建築構法・建築生産。