燃え殻『これはただの夏』読書感想文
※この感想文はネタバレを含みます
久々に電子書籍ギャンブルに負けた。読了後の胸をぎゅっと掴まれる感覚が心地よくて、この本は紙で手元に持っておきたい本だった…って後悔した。
別れと優先順位
幸せで温かくて「これがこのまま続けばいいのいな」って思うものほど、終わりは突然に、あっけなくやってくる。ほんの些細な別れの予兆はあったかもしれないけれど、それはこの作品で描かれるように俯瞰しないかぎり見えないものだったと思う。
筆者の『ボクたちはみんな大人になれなかった』ともし地続きの話なのであれば、ボク(=主人公)にとってこの別れは「傘の人」との別れと同じくらいよくあることなのかもしれない。
優香や明菜が突然離れることになったのはボクといることよりも優先する事項があって、切られた側の「自分の優先順位ってその程度だったのか」って思わされる瞬間に身に覚えがありすぎて苦しくなった。
きれいな終わりの希少性
大関さんとの最後は描写されるかぎりではきれいな終わり=終わりを見据えて悔いの内容準備された終わり、って感じだったし、優香と明菜との別れは彼女らにとっては準備された終わりだったけどボクにとっては突然だったな、という印象を受けた。
映画『花束みたいな恋をした』で麦くんと絹ちゃんの終わらせ方がよかった、ああやって終われるのっていいな、って評を読んだことがあるのだけど、確かにそうだなってのをこの本の読了後に思い出した。
喧嘩のあるなしは関係なく、「終わらせよう」って双方合意した終わりはすべての終わりの何割になるのだろうか。合意なき強制終了や終わらせない自然消滅のほうがはるかに多くて、優香や明菜との関係終了はこの多数側のひとつにすぎないのだろう。
ただの夏にしてくれないものたち
タイトル『これはただの夏』のとおり、この話にでてくるエピソードはあまたの出会い~別れの一部で、それが発生する夏なんて人生のうちに何度でも来るものかもしれない。
でも毎夏に見かけるチャーハン、スカイツリー、オリンピック、おにぎり、モスバーガー等々は、優香・明菜・大関との夏の記憶を「ただの夏」にしてくれなくなるのだろう。思い出し優先順位は低くなるかもしれないけれど、この「ただの夏」はきっと記憶の中で「ただの夏」じゃなくなると思う。
思い出も過去を想起させるものも増えていくのって、しんどいけど人生だなー。人間だなー。
今夏が「ただの夏」でありますように
だれかにとってこの夏は本当にただの夏かもしれないし、ボクにとっての「ただの夏」みたいなものかもしれないし、ただごとではない夏かもしれない。
もう残暑で暦上はもう秋だろって時期だけど、暑さがやわらぐまでを夏とするならば、『これはただの夏』を読んで人生やってるこの夏が私にとっての「ただの夏」になればいいな。
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