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橋本麻里『かざる日本』読書感想文

これはただの日本美術の本じゃなかった。いわゆるヲタクの「推しに課金させてくれ」を叶えてくれる現代人向けガイドブックみたいだった。

よくある美術本は「作品がいかに素晴らしいか」に焦点が当たっていて、消費を楽しむ現代人にとっては「今年注目の展覧会はこれ!」っていう媒体のほうがとっつきやすい。

もちろん叡智という球体に肉付けする系の研究書は未来の自分たちや後世の人にとって必要なマイルストーンだ。でも「人類に必要だから」で興味のない人全員が必要性に気付いたり存続に貢献したりしてくれるわけではない。

だけど、例えばSNS医療のカタチのような専門家が非専門家とのコミュニケーションを絶やさない努力をしているような「デマを排除したわかりやすいツール」も現代には必要だ。情報が氾濫した世界では存在へのアクセスしやすさと一緒に存在の消えやすさも増しているからだ。

さて、話を戻そう。今回読んだ本書の機能は専門書というよりも、前述の「デマを排除したわかりやすいツール」に分類されると思う。なぜなら、「現代の〈かざり〉の作り手」の情報を記載しているからだ。

『かざる日本』では「組紐」「薩摩切子」といった〈かざり〉たちをアイテムごとに章立てされている。そして各章では〈かざり〉の概要やその〈かざり〉がたどってきた歴史を記述し、現在の〈かざり〉の作り手やその人ないし団体の作品を紹介している。

各章後半の作り手/作品へのアクセスは各自でするしかないのだけれど、現代の消費大好きヲタクたちの「推しに課金させてくれ」欲を満たしてくれる構成だなと思った。

『だえん問答』で参考記事への導線をQRコードで示すみたいに「現在にとってのアクセスしやすさ」が整備されているわけではないけれど、何も知らない人間が時間をかけて「これはおそらく正当なはず」っておっかなびっくりアクセスするよりは、本に書いてある店名/作家名を検索する方が安全かつ時短だ。ファンの卵が探す間に興味や欲望が霧散せずにすむ。

また、今〈かざり〉を取り巻く環境がどうなっているのかが分かったほうが読者が内容を「自分ごと」化しやすくなっているような気がする。読者各自がもっているものと〈かざり〉をつなげやすくしてあげることで、各読者への内容浸透率が高まるんじゃないかな。

上記の構成って、Twitterニコ美で非専門家とのコミュニケーションを続けている筆者だからできることなのだろうなって思った。だから読了してみて、アジア美術に明るくない人間にとっては魅力的だった内容以上に、各章の内容よりも構成に感動した。

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