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数学が好きになった理由

私は、自分が文系だと思っている。
理系の科目が得意ではないから、多分そう。

でも、文系と理系、という分け方になんだか違和感を感じている。
数学は好きだし、理科の中でも化学は好きだった。でも物理は嫌いだ。日本史も嫌いで、地理はわりと好き。
というふうに、国語と社会が好きで、数学と理科が嫌い、という分け方ができないのだ。

思い返すと、私の場合どの科目が好きか、というのは、自分の好みだけでなく、教えてくれた先生にも関係しているように思う。
好きだった先生の授業は、今でも思い出せるし、それは大体好きな科目なのだ。
先生が好きだから、その先生の担当する科目が好きになったんだろうか。
こう書くとなんだか誤解が生まれそうだが、もちろん人間性が、という意味だ。

K先生の授業

一番印象に残っているのは数学の授業だ。
中学、高校と数学を担当してくれたK先生の授業はかなり画期的だった。
K先生が説明しているときは、ノートを書いてはいけない。そのかわり、説明後にノートを書く時間をとってくれるのだ。
K先生いわく、説明を聞きながらノートを取ってるから分からなくなるんだ、ということだった。たしかに、説明を聞くことに集中すれば大事なことを聞き逃さない。

もう一つ、特徴的なのは宿題をそれぞれのペースでやっていいこと。
宿題の総量は決まっているけれど、自由なタイミングで提出していいのだ。
ただし、全問正解しないと次には進めない。
間違えたら解き直しをして、全て正解したら次のプリントに進める。当然、ため込むと大変なことになるし、忘れましたでスルーすることもできないので、宿題をやってこない生徒はいなかった。
全員がしっかり理解しながら進んでほしい、というK先生の思いがつまったやり方である。

この独特なノートの取らせ方と宿題の提出方法はかなり効果を発揮していて、K先生の授業を受けた生徒のテストの平均点はめちゃくちゃ高い。数学が全くわかりません、という生徒はいなかった。

先生の行動一つで変わった私の価値観

そんなK先生は、授業が面白いだけでなく、人柄もとても良かった。
生徒との向き合い方も真摯だし、数学が好き、という感情が溢れ出ている。
数学が得意な生徒とこの問題難しいよな、と友達のように楽しそうに話したり、模範解答とは違う解き方をする生徒がいると、なるほどなーと感心したりするのだ。
お金のために仕事をしているというよりは、数学が好きで、教えるのが楽しくて仕事をしている、という印象だった。

私が数学を好きになったのは、K先生がその教えることも数学も好きというスタンスで接してくれたからだと思う。
数学のテストで一次関数の問題を解いていたとき、y=ax+bの公式をど忘れしてしまった。でも幸い、その一次関数のグラフは方眼線上にあったので、角度が分かったのだ。私はその問題を、一次関数ではなく角度の問題として解いてみた。
余った時間で最後の悪あがきをしたのだ。
結果、途中で計算ミスをしてそのまま時間切れとなったので、答えは出せなかった。

次の授業でK先生は、「お前本当は頭良いんだよ」と言いながらテストを返してくれた。
なんのことだか分からず、とりあえず返ってきたテストを見てみた。
K先生は、私がその一次関数の問題の横に書いた計算式に「ここまでは合っている」という意味の赤いカギ括弧をつけてくれていた。
答えも出せていないし、一次関数の公式を使っていない時点でバツになっても良さそうだが、途中まで書かれた私の計算式を見て、何をやろうとしていたか理解してくれたのだ。そしてなんと、それに対しての部分点をくれていた。

数学はおもしろい、とこのとき初めて思えた。
計算式がまるで言葉のように相手に伝わり理解してもらえたこと、そして答えを出すのに皆と同じ考え方をしなくてもいい、ということがわかってなんだか嬉しくなったのだ。

その後の私

それ以来、数学の問題を解くのが楽しくなった。
自分がこうすれば解けるのではないか、と考えたことを式に落として解いていく。
似たような名前を暗記しなければならない日本史よりも、自分で考えて答えを導き出せる数学の方が断然おもしろく感じるようになったのだ。

その経験は、その後の私の選択にも影響した。
大学受験で経済学部を志望した私。今はどうか分からないが、当時の経済学部の受験科目は国語、英語、そして残りの一教科は日本史、世界史、数学の中から選択できた。
私の選択は、もちろん数学だった。
決して得意ではないが、歴史より頑張れそうだったので数学を選んだのだ。周りからはびっくりされた。そりゃあバリバリ文系に見える私が数学を選ぶのだから、無理もない。
結果は合格だった。

もしまたK先生に会えたら、先生のおかげで数学が好きになったこと、私にとってK先生が今まで出会った中で一番の先生だったことを伝えたい。
口下手なので、全部まとめて「ありがとうございました」の一言になってしまうと思うけれど。

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