「行ってらっしゃい」がこんなに温かい言葉だったなんて
マンションのエレベーターに乗り込むと、今日は予期せず途中の階で止まった。シマシマのスウェット上下を着てゴミを持った年配の女性が乗り込んで来た。60代後半か70代と見受けられる。
「おはようございます」
お互いにそう言って10秒ほどの沈黙が訪れた。
何の気なしに私から会話を始めてみた。
「今日は風が強いですねー」と。
そこから朝方は寒かった、だの今週いっぱい寒い、だの
当たり障りのない会話をする。
そしてあっという間にエレベーターは1階についた。
同じ出口から出て、その女性はすぐ左にあるゴミ置場にゴミを置いた。
私がそこを通り過ぎて駐車場にある自転車へ向かおうとした時だった。
「行ってらっしゃい」
その女性が言った。
私も条件反射のように
「行って来ます」
と返した。
たった一瞬の出来事だったのだけれど、
なんともいえない温かい気持ちになったのだった。
たった一言に、しかも他人の一言にちょっと愛情めいたものすら感じてしまった。まるで自分の母親に言われたみたいな。
思い過ごしかもしれないけど、
その年配の女性ももしかして何年か何十年か前に「行ってらっしゃい」と自分の子供を送り出した時の気持ちを思い出していたんじゃないだろうか。
そうだったらいいなって、私はこっそり思っていた。
同棲中のパートナーから言われる「行ってらっしゃい」とは全然違う種類のそれ。
15歳から親元を離れて暮らしていたから、毎朝の「行ってらっしゃい」がどんな感じだったかはもう思い出せないけど。
こんな温かい気持ちを赤の他人とのコミュニケーションで感じられるなんてすごくうれしいし、こんなことの繰り返しで生きていけたらいいのになーと思う。
知らない人に心を込めて言ってみて。
「行ってらっしゃい」