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2018年10月、自分の価値をわかっているから彼女は歌舞伎町で死のうとした

こんにちは。アクセスありがとうございます。
私は歌舞伎町によくいるごく一般的なホスト遊びが好きな女の子です。

このお話は一年前の歌舞伎町、飛び降り自殺が相次いだあの時期に私が実際に体験した話を当時まとめていたものになります。ホス狂の人向けだけではなく、いろんな人に読まれる前提で歌舞伎ワードにできる限り解説をつけているので、煩わしいと思う人はいるかもしれません。

あと数日で、未曽有の10月がやってきます。その前にこのルポタージュを公開したいと思い、古い文章を引っ張り出してきました。皆さんが何を感じるかはわかりませんが、追い詰められる前に、追い詰める前に一度読んでみてくれたらと思います。


「私、生きてる価値あります?」嗚咽交じりに彼女は私たちにこう問いかけた。


歌舞伎話譚 episode01.第六トーアにて


歌舞伎町には、自殺の名所として有名な「第六トーア」というビルがある。ホストクラブやバーが入っている一見普通のビルなのだが、過去に何度も人が死んでいる。歌舞伎町の都市伝説と化しているこの第六トーアだが、最近異様な雰囲気を醸し出している。

普段第六トーア屋上は封鎖されているのだが、どうやら飛び越えれば普通に侵入できるらしい。1人目の自殺者が出た後、それを聞きつけてか、第六トーアをはじめとした歌舞伎町で立て続けに自殺騒動が起きているのだ。警察沙汰になった飛び降り騒動は10月で合計8件、うち死者が出たのは4件。そして、その中のビルの1つとして最も有名なのが「第六トーア」である。

噂によれば、たいていの自殺・自殺未遂の原因はホストと客である女の子の売掛などでのもめごとだという。しかし、飛び降りを試みた者のうち数名は、歌舞伎町に初めて訪れる人だったというのだ。それだけ、「自殺するならあの場所」というイメージが、歌舞伎町及びそのビルに根付いてしまっているということになる。実際、第六トーアは歌舞伎町の「名物スポット」になっていて、私が深夜に第六トーアの前を通ったとき、ギャル2人組がスミノフを持って第六トーアビル前で記念撮影をしていた。実際に人が死んでいるけれど、どこかそれが当たり前としてゆったりと時が流れている街、それが歌舞伎町なのだろう。

しかし人はそういう場所が好きなもの。10月の深夜、火照った身体を冷やすため、私は友人と歌舞伎町を散策していた。「え、第六トーア行こうぜ」という軽いノリでいわくつきのビルへと向かう。時間は朝の4時前。まだ日は昇っていなく、薄暗い。

古びたエレベーターに揺られて最上階につく。屋上へと続く階段にはしっかりと鍵がかかっていて、ドアノブに足をかけてよじ登れば越えられそうだった。しかし、私も友人もそんな体力はなく、「これは無理だね。」とあきらめて帰ろうと振り向いた先に人影が。「うわぁああ!?」と思わず叫んだ私たちだが、よく見ると背の高い、スーツをビシっと着こなしたホストだった。

「お兄さんなにしてるんですか…」と、自分の事を棚に上げて私が問いかけると、「いや、この先に僕の姫がいるらしんですよ。」と言って彼はさっそうとドアノブに足をかけて扉を超えて行った。友人が「お兄さんここ開けて!」と彼に頼み、私たちも屋上に入ることができた。

その先には、月とネオンの光でほのかに明るいビルの屋上で、飛び降りれる距離でしゃがみこんでいる女がいた。まっすぐな長い黒髪で顔はよく見えない。長髪が風に揺れる彼女を一瞬でも「綺麗だ」と感じた自分に若干の後ろめたさを感じた。

「お姉さん何してるの、どうしたのー。」と友人が茶化すように話しかける。彼なりの配慮だろう。ホストの彼は「ほら、帰るよ。」とゆっくり彼女に近づいた。

「いやだ死ぬの!なんで来たの、嫌いって言ってって言ったじゃん!」
と叫ぶ彼女。彼女は部外者である私と友人を見やって、「お姉さんたちは何しに来たの?」と言った。「あー、俺たちもね、死のうかなって思ってね。」ヘラヘラと返す友人に対して、お姉さんは場違いなくらい明るい声で、「えーじゃあいっしょに死にましょうよ!多分今よりその方がずっとずっと生きやすいよ!」と語り掛ける。そんな彼女をホストの彼が軽々しくお姫様だっこで抱え、「とりあえずここから出るぞ」と屋上から連れ出した。

私と友人はしばらくの間屋上で黄昏る。「いやぁ、マジでこんなことってあるんだなぁ。」なんだか現実だと思えなかった。1か月で第六トーアだけで自殺未遂が4件。確率的には1週間に1回はこうしたドラマが繰り広げられていたのだろうが、いざ目の当たりにするとは思わなかった。非現実的だが、これが歌舞伎町の現実なのだ。と改めて実感した私たちは、しばらくこの屋上で繰り広げられた住人たちのドラマに思いをはせてから、屋上を後にした。

ビルの1階の階段に、先ほどのホストと女が座っていた。思わず横に座り、話を聞くことになった。中盤から私がとっさに録音したので序盤は割愛するが、以後ノーカットでお届けする。


私生きてる価値あります?」嗚咽交じりに泣く彼女。


「閑散期?なにどうしたの。」と友人が問いかける。一般的に10月というのは風俗業界が「閑散期」と呼ばれ、客入りが悪く稼ぎが悪い。それゆえこれだけ飛び降り騒動があった。というのが歌舞伎町の住民たちの見解だ。

「もう働きたくない。」
「働かなくていいよっていってるじゃん。」少しけだるそうな表情のホストが、彼女の言葉に答える。
でも使わなかったら一緒にいたくないじゃん。使わなかったら嫌いでしょ?

そんなことないと苦笑するホスト。私も友人も「そうだよ」と同調する。

だって営業じゃん!!!」とひときわ大きな声で彼女が言う。そりゃそうだ、営業だ。だがしかし営業じゃない本心がそれでもある、お金で繋がれた関係の中で、本当の気持ちが生れることを客はたいていの場合期待する。

「こんなに綺麗なんだったら大丈夫、営業だったらここまで来て心配してないよ」私は思ったことを素直に彼女に言う。それくらい彼女は綺麗なのだ。

「今まで使ってきたから、使わなくなったら自分に価値なくなるって不安があるのはわかる。同じ姫として。」この中で彼女と同じ「客」という立場から感情を共有してなだめられるのは私だ。そんな変な使命感から、私は彼女に話を合わせることに徹することにした。彼女の気持ちをひたすら言語化する手伝いをしようと思ったのだ。

「使えば使うほど重くなっちゃうしね。働きたくないよ。この時期。」お金を使えば使うほど、客の期待は大きくなる。「酒を飲んで楽しむ」目的なら、使える金額はある程度上限があるだろう。それより上の数十万、数百万を使うのは「担当の顔を立てる、担当のことを応援したい、これだけ使えば私を大切にしてくれる、お金だとしても好きになってくれる」といった楽しむ以外の感情がないと使えない。そして使えば使うほど、「これだけ使ったのに!」という気持ちが大きくなり見返りを期待するとともに、関係が終わった時に何も残らない恐怖感から意地でもついていくしかなくなるケースも発生していくのだ。

「お姉さん仕事なんですか??風俗??」と彼女が問いかける。「お姉さんはねー…、昼と夜の掛け持ちだよ。」「夜って風俗?」「うん、風俗風俗。」必死に話を合わせる。

「だってさーー、気持ち悪いじゃん。おっさんって。」彼女の心からの言葉だと感じた。嗚l交じりの声に、心臓がキュっと痛む。いったいどれほどの男の人を相手にして、彼のために稼いできたのだろうか。

職種を訪ねると、川崎のソープだという。あそこは単価低いし保障も低いよね。と友人が話を合わせる。

「お姉さんはエースなの?」
「ううん」
「お姉さんがエースじゃないとか売れてんな!」思わずホストの方につっこんでしまった。(エース:ホストの客の中で、一番お金を使う姫(客)のこと)ソープで病むほど出勤する女の子の上を行く姫を抱えているとは、彼はかなりの売れっ子さんなのだろう。

「この時期っていうか、俺明後日バースデーなんですよ。でも使わなくていいっていってるんですけど。俺なんて今、ストレスで全身蕁麻疹っすよ」
(バースデー:ホストのプライドと売り上げがかかったイベント。100万~1000万ほどのシャンパンタワーと、自分の写真が印刷されたオリジナルシャンパンなどを使い祝われる。華やかなイベントの裏には、姫たちが壮絶な思いをして作ったお金がある。)
「お誕生日なんですか!同業行っていいですか!リステルくらい卸すんで!!」思わずふざける私と友人。(同業:同じホスト同士が付き合いでイベントに顔を出し、お祝いすること。リステル:比較的安いシャンパン)

彼女も少し冗談を言うゆとりができたようで、「じゃあアイバン組みましょうよ」と返して笑ってくれた。(相判:女の子が2人で一緒にホストクラブに行くこと。グループデートのような感覚で楽しめる。)

「ソープはマジできもちわるいよね。働かなくていいよ。そもそもこの時期にバースデーの担当が悪いって!」と私は悪ふざけのノリで彼女を励ます。

「最初はやる気満々だったじゃん。」という彼の言葉に、

「嫌になったきっかけがあって…」と彼女が言葉を紡ぎ返す。「滅茶苦茶嫌いな被りがインスタで匂わせてるじゃないけど、シャンパン卸したよ~、使いました!みたいなのをのっけてて、それがホスラブに乗っかる。そういうの見るとさ、冷めるじゃん。それきっかけだよ!やっぱ他人がお金使ってるのって、頭ではわかってるけど目のあたりにするとくるんだよ!だからバースデー使いたくなくなったの。」(ホスラブ:夜職の人達がよく使う掲示板。ホストの客の情報や暴露などがよく飛び交っている。)

「結局インスタにその女の子がのっけてそれをお前が見ちゃって、インスタ投稿を許した俺が悪いわけでしょ。だから使わなくていいよって言ったじゃん。なんでそれが飛び降りようになったの。」

「自分の中で色々あったんだよね?」と私がフォローを入れると彼女はうんうんとうなずいた。

「じゃあ俺が被りの子にインスタ上げるなよって言って、それで小計50が上がらなくなるんだったら、上がった方がよくない??

「じゃあ別に上がったらいいんじゃない??」

「なんでそこで仕事行きたくないになるの?行かなくていいよ。なんならもとから言ってるじゃん辞めてもいいよって。」

ホストがもう「自分のためにお金使わなくていい、辞めていい」とまで言ってくれている。それは、もう嫌な思いをしてまで稼がなくていいという普通の人なら喜べることなのかもしれない。しかし彼女は…

行かなかったら私に価値なくない?」と答える。

「じゃあ行くしかなくない??」とホストの彼は間髪を入れずに返し、彼女はコクリとうなずいた。

「別に俺は思ってないよ。行かなかったら価値がないなんて 自分が思ってるだけじゃん。」

「今まで使ってきたから余計ね…。」「うん。」

そしてしばらく、沈黙が流れる。

「どうしたいの??」と彼が問うと、「死にたい。」と彼女は答えた。

「でも電話かけてくるじゃん。」 「うん。だから死ぬ勇気がないから嫌いって言ってって言ったじゃん!」

「でもさ、考えたらわかるくない?今から死にます嫌いって言ってっていわれたら嫌いなんて言えなくない??」

「じゃあ言わなくていい!ありがとう。」

そうしてまた沈黙が続く。沈黙を破ったのは友人だった。

「変なプライド持つのやめなよもう。何を言おうが、正論だろうが今のお姉さんには届かないみたいだし。これだけ変わらないよって言ってても、信じられないって言われたら俺もさみしい。」

「例えばお金を今回使わなくて、それでも扱いが変わらなかったら信じられる。んじゃない?」と私が言葉を続けると、彼女は再びうなずいた。

自分が可哀想になりたいって自分が言ってるじゃん。じゃあ、そうなってから死んだ方が余計悲しそうじゃない??バースデー終わって、俺からの扱いが雑になってもっと可哀想になってから死になよ。」

そう最後に彼が締めくくり、彼女の手を引いて2人は第六トーアを立ち去って行った。彼女の背中に、「なにかあったら一緒に飲みに行くから。ね。ばいばい!!!」と声をかけると、「お姉さんLINE教えてください」と言われた。ホストの彼がいる手前、LINEを交換するのもなんだかバツが悪かった。

「この街にいればまたいつか会えるよ。その時は声かけて!私の名前はななだから。」

「アヤ。アヤです。」

「じゃあねアヤさん。また会おうね!」

こうして彼らはすこし夜が明け、白んできた空の元歌舞伎町の奥へと消えて行った。

私と友人もすぐに第六トーアを後にした。「あの子、またここに戻ってくるのかな。」「さぁ、どうだろうね。でも多分明日も明後日も、誰かがどこかでこういうことを繰り広げているんだろうね。」「また会えるかな。」「こんな小さな街だ、彼女がまだ彼のそばにいたいと思ってるなら、たぶんどこかでまた会えるよ。」

そんな言葉を交わしながら、私たちは歌舞伎町を後にした。


この文章をかいてもうじき1年がたとうとしている。私はまだ、彼女にも彼女の指名しているホストにも、まだ街ですれ違っていない。

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