マッチングアプリのシンデレラ 8章【恋愛小説】
8章 素朴な子
だめだった。もう何もかもダメだった。結果は同じ。酔って。連れ込まれて。抵抗はしない。バカだった。自分を責めた。私はこんなことをするために東京へ来たんじゃない。
隣で男が寝ている。朝の四時。友達から貰った言葉を裏切るような行為。自分が醜い。
傘を持たない私は、昨晩から続く雨に打たれながら歩いていた。ずっと起きていたからなのか、雨が強くなっていることに気が付かなかった。水位の上がった川を、操られたように覗き込む。吸い込まれてゆく。真面目だった頃に戻りたい。どうやって戻るのかわからない。ただの発熱で人生が終わった。本当に終わらせたい。雨たちは私の心を見透かしていたのかもしれない。
「ただいま」
誰もいない一人暮らしの家。日曜日の早朝。灰色の空気を纏った私の家。お風呂に入ってすぐに寝たい。眠くなんかないけど、寝て忘れたい。多分今日も眠れないんだろうけど。
着信音が鳴る。友達からの連絡だといいな。スマホを開く。私に友達などもうほとんど居ない。いや本当はいたのかもしれない。
「あいのちゃん最近大丈夫? 」
友達からの連絡を、ずっと見て見ぬふりをしていた。自分の中の世界の話し相手はアプリを経由した他人、男しかいなかった。
ピロン。また着信音が鳴る。
「仲良くなりたいです」
またこれか。同い年の男の子。顔はうーん、あまり期待できない。この子も大勢いる男の中の一人。みんなと同じように、同じようなことを話す。楽しくない。でも身長高いし髪型マッシュ、いい子そう。連絡先の交換は一応しておく。
「何て呼んだらいい? 」
「ごみちゃんがいい」
「呼びづらいな」
「私はけいた君でいいかな? 」
「いいよ! 」
「最近病んでるって書いてあったけど、今はデートとかには行けん感じなん? 」
男遊びしまくってて、さらに振られて病んでるだなんて言えない。
「連れ出してくれるなら行くよ」
「じゃあ行こ! どこか行きたいところとかある? どこへでも連れ出すよ」
ありきたりな会話。こんなの他の男でもできる。切ろうかな。
「横浜中華街とか、行ったことないから行ってみたいな」
「いつ会いてる? 俺今日たまたま休みなんだよね」
「私も今日暇だよ! でも十六時から予定があるの」
腫れてしまったピアスホールを診てもらうために、前々から病院を予約していたのだ。
「いいね、行こう! 十時に横浜駅集合でい そこから一緒に電車のろっか」
夜じゃなくて午前からでいいんだ。何が目的?
「わかった! 楽しみにしとく」
「そういえばメイク得意なんやろ? 楽しみにしてるね」
さっそく準備を始める。シャワーを浴びてメイクをする、髪の毛も巻く。メイクは期待されてるから少しだけ念入りに。初心な感じするけど、この子女子とあんまり話したことない? 私のこと、楽しませられるのか。遠いな普通に。だるい。間に合うかな。
多摩川を越えて神奈川県へ上陸。あの川の河川敷とかを歩いてみたいな。二人で手を繋いで歩いてみたかったな。そんなことを考えながら電車は進んでゆく。
「まもなく〜横浜」
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