マッチングアプリのシンデレラ 2章【恋愛小説】
2章 キラキラ大学生
「あいのちゃんおはよう! 」
「おはよう! 一限だるいねー」
「そうだね。でも友達に会えるし、私この授業結構好きだよ」
「えーなんか真面目だね」
鮮やかな桜が散る門をくぐり、私は大学生になった。
一年浪人して第一志望、では無かったけどやりたいことができる女子大に入学できた。幼いころからの夢であるキャビンアテンダントになるため。英語を勉強して使えるようになりたい。留学もしたい。そして真っ当に大学を卒業して、真っ当に就職する。完璧な人生計画。臆病者のくせに夢だけは一丁前。いや、臆病だからこそ、レールに敷かれた完璧な人生を、安全に過ごしたかったのだ。脱線した瞬間に終わる。この時はそう信じて疑わなかった。
「あいのちゃん、後で一緒に学食食べない? 」
「いいよ。 私終わるまで図書館で課題してるね」
「わかった。終わったら連絡するね」
図書館へ向かう途中、ショートカットで細身の女の子とすれ違った。ぱっと見は男の子にしか見えない。ジェンダーレスの時代だもんね。にしても格好良かったな。そういえば私、随分長いこと恋愛してないっけ……。
一人で黙々とレポートを進める。静かできれいな図書館。窓の外では、中等部の子たちが体育の授業をしていた。楽しそうにみんなでサッカーをしている。私も久しぶりに体を動かしたい。暑い中頑張ってるんだから、私も早く終わらせないと。
無事に課題を終わらせて、食堂へ向かう。今日は日替わり定食。女性の胃袋に合わせているのか、ボリュームは控えめ。席を取って、対面になるよう座る。
「ねね。最近どう? 恋愛してる? 」
「うーん、出会いないもんね。まったく何もないよ。」
「ええもったいない。共学に進んでたらモテてそうなのに」
「ないない。こんな陰キャに寄って来る男の子なんていないし、モテたことないし……」
高校生の時に恋人がいたことはある。でも、すぐに別れてしまった。価値観が合わないと言われて振られてしまった。自分から告白してきておいて、そんな振り方あるか?と、当時の私は高校生ながら恋愛の理不尽さに戸惑った。それ以降恋愛はしていない。恋愛に積極的にはなれない。
「最近さ、マッチングアプリとか流行ってるじゃん。どうなんだろうね? 」
「ネットの人と会うんでしょ? 怖いかも。ちゃんとしたところで出会いたいな。真面目な人がいいし」
「でも出会いないじゃん。インカレとかチャラい人多そう。諦めモードかな? 」
正直、真面目な男の子との恋愛はしてみたい。大学生らしく男の子とデートもしてみたい。でも出会いがない。女子大の、女子しかいない安心感と、女子しかいない物足りなさ。
それから私は恋愛はなくとも充実した日々を送っていた。授業も、サークルも、バイトも、友達もたくさん……できたわけではないけど、仲の良い子はできた。授業を受けて、ノートを取る。ちょっとうとうとしながら出席することもある。友達も同様。終わったらパウダールームでメイクを直し、控えめに染めた髪の毛をくしでといて原宿へ行く。友達は東京での遊び方をたくさん教えてくれた。消極的な私を連れまわしてくれた。
これって可愛いのか?と思われるプリクラのポーズ。人工着色料をふんだんに使用しているであろう可愛いスイーツ。昼間からキラキラして見える通り。新しい世界。
初めての居酒屋でのバイト。お酒の種類なんて何もわからない。メニューも多すぎる。同世代の子はたくさんいたけど、人見知りでなかなか馴染めない。でも楽しくやっていた。できないことができるようになる快感。これが大学生なのか。これが東京なのか。田舎育ちの私は、新しい環境での青春を謳歌していた。地元とはまるで違う、自由になれた気がしていた。ここでは何をしても親からの干渉がない。好きなだけ稼いで、好きなだけ遊んで、好きなだけ勉強する。人が敷いたレールから逸脱した人がたくさんいる。私はあまり外れたくないけど、そういう人が身近にいて面白い。新しい価値観。大学デビューでもいい。ただただ楽しい日々だった。
このまま楽しい日々が続くと、そう思っていた。
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