町田そのこ 『宙ごはん』 感想

本屋さんに行ったら『52ヘルツのクジラたち』の文庫版が並んでいるのを見て、そういえば町田そのこさんだと『宙ごはん』が凄く良かったな〜ということを思い出して、思い出しながら書いてます。
本屋大賞は流行のお勉強にと最近ちょこちょこと手を出してまして、前回の2023年本屋大賞の中で『宙ごはん』はお気に入りですのひとつです。

それでは、以下ネタバレ注意で。




町田そのこの著作で読んでいる作品は本屋大賞を取った『52ヘルツのクジラたち』、同じく本屋大賞のノミネート作になった『星を掬う』の2作を読んでいる。そして本作、『宙ごはん』。それらの中でも特段に好みだったのが『宙ごはん』だ。

『宙ごはん』を他作品よりも好んでいる理由は<リアリティを持った作品を書こう>という意志が強くみえるからだ。上記の2作の中で『52ヘルツのクジラたち』は重要な人物が死を迎えるという共通性を持つ。『52ヘルツのクジラたち』の<死>からはリアリティが高くないと感じ、あまり好きになれなかった。


『52ヘルツのクジラたち』は主人公を助けるために自己犠牲的な死を迎えた。私は読んでいる際に「亡くならずして助ける方法もあっただろう」と憤慨したことを覚えている。本当に死ぬ必要があったのだろうか?

過剰な装飾は盛り上がりを作り、ドラマチックにしてくれるがリアリティを著しく損なう。『52ヘルツのクジラたち』は辛い人を励ます人の心に寄り添うようなテーマに過剰な装飾を施すことには違和感を覚えた。もっと自然な死の描き方でも良かったのではないか?と思ったのだ。


それでは『宙ごはん』どうだろうか。
物語終盤、重要な役割を持つキャラクター『佐伯』が事故により亡くなる。これは『52ヘルツのクジラたち』と同様にプロットの為に殺されたと読むことができる。<死ぬ必要があったのか>という問題にぶつかることになる。
『52ヘルツのクジラたち』の読者の中にはこのような疑問を抱いた人は少なくないはずだ。
『宙ごはん』はこの問題を解決している。

『宙ごはん』に登場する人物はみな良い部分、と悪い部分の両方が描かれている。
母親の花野は娘の宙を放置して浮気をしている。しかし母親として良い行動をする"こと"もある。宙の彼氏であった鉄太は宙に助けられながらも良い付き合いをしていたはずが呆気なく浮気をしてしまう。

時に欲望に負け、時に行儀よく振る舞うキャラクター達がものすごく人間らしく、リアリティがあるように思えた。そして『佐伯』の事故死もその延長戦にあるように描かれていると私は感じる。

過剰な装飾ではなく、どこにでもある飲酒運転の対向車による事故。
ご飯を食べること、トイレに行くこと、電話をすること。そんな現実における日常のひとつのして"事故死"がある。そしてその死をどこまでも現実的に乗り越えていく親子に私は心惹かれた。

たしかに佐伯は『52ヘルツのクジラたち』同様にプロットに殺されている。だが『宙ごはん』はリアリティラインを高く設定することで、プロットによる死すらも自然なものとして利用しているのだ。

現実的な非情な世の中で、身近なご飯と明るい登場人物で読者の背中を押してくれる、
そんな『宙ごはん』が私は好きだ。

人の人生の中に《死》はある。《恋人の死》だって起こりうる。誰にでもだ。でもそれを書くとき、それがいかに悲しく悔しいかなんてことは僕には興味がなくて、僕が言いたいのは、その悲しみと悔しさの向こうに何があるのか、その悲しみと悔しさと同時にどんなものが並んでいるのか、ということなのだ。

『好き好き大好き超愛してる』/舞城王太郎

私の好きな物の基準としていかにリアリティがあるかという基準がありまして、これは設定がファンタジーだから苦手とかではなく、例えば異世界ファンタジーでも人の心という部分が上手くかけていたのならそれは私の好みになるのです。

友人はフィクションはフィクションなんだからそこを楽しまなきゃという意見を持っていて、そんな風に楽しむ方法をしている人もいることを忘れちゃいけないなとは思ってます。そんなつもりで最近見た『くまクマ熊ベアー』を難しく考えずに見て面白かったです。くまパーンチ

(終わり)





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