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2024年5月に読んだ本+あれこれ

感想は上2作がメイン。他は書けてない。お気に入りは『拳闘士の休息』、『遠の眠りの』オースター2作、映画の『トラペジウム』



あした、裸足でこい。3~5/岬鷺宮

3~5と書いているが『あした、裸足でこい。』全体について触れる。
1巻、2巻はだいぶ前に読んで放置していたところ最終5巻が発売されたということで完結まで読んだ。
著者はセカイ系が好きとのことで、所謂ゼロ年代に拘りを持っている、らしい。今時わざわざセカイ系を書こうとしているのだからよっぽどなんだろう。
ちなみに本作はセカイ系ではない、がどこか懐かしいノベルゲーム的な要素をぼくは勝手に見出している。といってもタイムリープ物でヒロインを選択したり、サブキャラクターを助けることで未来を改変したり、ということはよくあることで、深読みだとは思うけれど、タイムリープという構造自体がゲームの見立てだと言える。
構成はすごく面白いし、良くできていると思う。でもその構成は既に見たことがあるもので、今から感動するにはちと難しい。
人間模様はシナリオに引っ張られてミッションをこなしているようで、どうにも薄い。と散々言ったけれど一人この内容から外れているキャラがいてお気に入りだ。芥川真琴は作中で最も感情を剝き出しにするキャラでどうにも綺麗すぎる他4人より輝いて見える。そんな芥川真琴は雑に物語に吞まれてしまう不憫なキャラだ。
シナリオの制御に負けないでテンポを落としてでも人間模様を泥臭く書いて欲しかった。

永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした/南海遊

タイムリープSFミステリ。カテゴライズするなら特殊設定ミステリといったところ。凄く良くできている。読み終えて振り返ると伏線が繋がって、世界観も違和感がなくて、ワイダニットも秀逸。
が、これまたどこかで見たことがあるからか印象が薄い。ミステリというよりタイムリープ物という印象で、『シュタインズゲート』とか『まどかマギカ』が思い浮かぶ。そして彼らと同じまな板に載せて比べてしまうと物語が弱い。

いや、ミステリなんだからそれはそれ、これはこれで重ねてしまうのはナンセンスでしょ、という意見は頷ける。ナンセンスだよな驕っているなとシュタゲ他人気タイムリープ物を振り返ってみるとどれもこれもスリリングな謎やワイダニット等ミステリの必需品が備わっていて、『永劫館』のような「館」、「密室」「名探偵」といった本格要素が無いだけで優れたミステリだったと気付いた。印象が薄い一番の要因は『永劫館』からアイデンティティを見出せなかったことだろう。

とはいえすっごく綺麗にまとまっていて全然悪いミステリではないので、面白い特殊設定物ないですか?と聞かれたら勧めると思う。王道ですし。

拳闘士の休息/トム・ジョーンズ

Myオールタイムベスト。
難病を持っている、鬱病を患っている。そんな彼ら彼女らはみなパワフルで、生への執着を隠さなくて、ポジティブで、でもナイーブで、そんな人間模様から読み手までエネルギーが伝わってくる。
ドライブ感のある文体がよりパワフルさを助長させている。
お気に入りは表題作『拳闘士の休息』『ブレーク・オン・スルー』『私は生きたい!』

きっかけはお気に入り作家、舞城王太郎がトム・ジョーンズを翻訳をしていて、そのトム・ジョーンズの第一作品集ということで読んだ(本作の翻訳は岸本佐知子)。影響を受けている、取り入れていることが凄く伝わる。分かりやすい所だと『煙か土か食い物』は『蚊』から結構そのまま引っ張ってきている。文体のドライブ感も近い物がある。

トム・ジョーンズのリアルを這いつくばって踏みしめるような小説は圧倒的な説得力があって、自己啓発ポスターからは決して得られない。小説の強さが詰まっている。生きるのは大事だ、自殺は良くない、そんなことは簡単に言える。けれどそれを伝えるということは並大抵なことではない。字面通りをそのまま並べても達成できない。元ボクサーで癲癇などの病気を持っていたという経験も勿論あるだろうけど、その表現が平坦ではない口語調のような荒々しさがより実感を伴って立ち上がってくる。

ガラスの街/ポール・オースター

感想を書くのが難しい。NY三部作の試みは柴田元幸による解説を読んでもらえたらそれで何となく分かる。ぼくは『ガラスの街』単体でははてなを浮かべていて、NY三部作の解説をつなぎ合わせてふんわり理解。書き手と読み手の関係について理解はできるけれど、ぼく自身が実態を伴っていないので、空中に漂わせたままふんわりさせとく。
ドン・キホーテ論が面白かった。そのドン・キホーテ論を作中そのまま実践して物語になっていて、作品を通した試みが面白くて、オースター面白いなぁというのがファーストインプレッション。と言いつつ『幽霊たち』は既に読んでいて、『幽霊たち』より物語のつかみどころが薄くて、難しい。

エンターテインメントにおいてキャラクターはとんでもなく重要で、如何に魅力的で特徴的な個性や容姿をと躍起になっている中、むしろ名前ぐらいしか意味のないキャラクターで物語っているのは、改めて物好き向けで、小説ならではの小説だと思った。

鍵のかかった部屋/ポール・オースター

NY三部作3作目。
『ガラスの街』よりも物語が形を持っており、恋愛や友情描写が富んでいて、素直に読んでいて面白かった。NY三部作他2作への参照もメタメタでてんこ盛り。
なんとなく野﨑まど6部作を思い浮かんだ。

限りなく透明に近いブルー/村上龍

先日三島賞を取っていた『みどりいせき』がLSDの話という噂を聞いて、同じく薬を扱っていて色繋がりの本作を読んでおくことに。

う~ん、最後までピンとこなかった。描写が終始イメージが追いつけなくて字面を追うだけに。村上龍は今後も読んでいく予定なのでそのうち形にならばいいかな。

遠の眠りの/谷崎由依

福井を舞台とした大正末期から終戦までの史実ベースの物語は雰囲気づくりに一役買っていて、閉塞的な田舎で生きる女性たちの力強さが目に浮かぶ。

100年近く前の男尊女卑の価値観に理解を示せることに驚く。奴隷制のような歴史の出来事になっていない。
文庫版だと斎藤美奈子さんの素晴らしい解説も読みどころ。どこまで逃げれば女性蔑視の価値観が改善されるのだろうか。

獄門島/横溝正史

色々な作品で引用されるから知識として持っておこうと読んだ。ついでに初横溝正史。金田一の証モノローグがいちいち良いなと読んでいた。名探偵コナンや金田一少年の事件簿で見たようなヤツで、横溝正史が初なのかは詳しくないから分からないけれど、着々と受け継がれている。面白かった。

トラペジウム(映画)

散々Twitterで話題になっていて、怪しい感想で溢れかえっていて、これは自分の目で見てやらんとなと重い腰を上げて映画館へ。変な時間だったとはいえなんと一人の貸し切り状態。ボソッと漏れる感想とか聞きたかったんだけどな。

自己と他者、経験なんかを描いていて、話題になっていたギスギスやどこまでも打算的な主人公はテーマを成功に導いていたと思う。対話不足や価値観の違いによる失敗はリアリティを高めていて有効に働いている。
Twitterで言われているような胡乱さは最初のアイドル集めぐらいで、極めて真っ当に描いていて、注目の集め方に違和感を覚える。別に尖っていない。王道だ。普通に面白くて、良くできた作品だった。



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