📓 祈っているのに近い

むかし好きだった人の名前が思い出せない。ショックである。
苗字は出てくるのに、名前がわからない。
なんとなく候補を３つほど絞り出したが、どれもしっくりこない。
信じられない、こんなことがあるのか、人生において割と大切な人だったはずなのに、その人のために泣いたりしたのに。あの頃の私よ、本当にごめん。

しばらく考えたがどうにもわからず諦めて、映画館で映画を見ていたら、急にふと、その三文字を思い出した。暗闇の中で突如閃いた。めちゃくちゃに嬉しいけれど誰にも言えない。あなたの名前を思い出したよと本人に伝えたいけれどもちろんできない。忘れないように心の中で何度か言ってみたりした。

忘れた何かを思い出そうとする時、手掛かりなどから思考するパターンと、思い出しそうだからじっと待つパターンがあると思うが、後者の時の脳の働きがどうなっているのか知りたい。アイデアを考えていると時にも似たようなことがある。
思い出すのを待っているあの時、私の自我は何もしておらず、祈っているのに近い。だけど脳は思い出してくれたりする。ありがたい。

『千と千尋の神隠し』で銭婆が終盤「本当に大切なことは忘れないものさ、思い出せないだけで」とおっしゃる。私はそのセリフが大好きで、好きだった人の名前も忘れていたわけではなかったのだなと都合よく肯定し、これからまた思い出せなくなっても、忘れることはないんだろうと勝手に安心させてもらっている。