笑わない人
笑うことはいいことです。
嫌な気分を吹き飛ばしたり、場が和やかな雰囲気になったりします。
私はよく笑う方だと思います。
むしろ、「笑い上戸」と分類されても否定はしません。
人とは、少しずれたところで笑ったりすることはしょっちゅうあります。
よく笑う人がいる反面、めったなことでは笑わない人も世の中にはいます。
めったに笑わない人が笑うとき。
それは、よほど面白いことがあったのでしょう。
私がアルバイトをしていたお蕎麦屋さんにも、笑わない人がいました。
その人は男の人です。ここでは、「Mさん」と呼ぶことにしましょう。
Mさんは、正確に言えば気難しい人で、笑うときは笑います。
しかし、声をあげて笑ったところを見たことがありません。
ニコリとすることはあれど、すぐに普通の顔に戻ってしまいます。
しかし、Mさんも人の子でした。
ある日、Mさんが5分ほど笑っていた時がありました。
声をあげて笑っていました。
普段笑わない人が5分間も笑っていることは、すごいことです。
驚きです。
びっくりしました。
その日は、町のイベントで私がアルバイトをしていた蕎麦屋さんも大忙しでした。
正直、笑う要素はありません。
みんな、自分の仕事に手いっぱいです。
笑っている余裕はありません。
しかし、Mさんは笑っていました。
何でだろうと疑問に思いながらも、その時はMさんが笑っている理由について考えもしませんでした。
体感的に数十分経ったころ、お客さんも少し落ち着いたので、Mさんに何で笑っていたのか聞いてみました。
私
「さっきは、何で笑っていたんですか?」
Mさん
「ああそれね。だって、蕎麦がすごい太かったから。もう、真四角。(笑)」
私
「どうゆうことですか?」
Mさん
「いやね、Tさんに今日の蕎麦は太めに打ってくださいってお願いしたら、想像を超えた、太さの蕎麦が出てきたから、面白くて。」
どういうことか、少し説明します。
私がアルバイトをしていたお蕎麦屋さんは、「手打ちそば」を提供する店です。
いつもは、Mさんが店の蕎麦を打っています。
しかし、その日は町全体でイベントを実施していて、お客さんの入りが非常に多かったのです。
Mさんは厨房へヘルプに行き、蕎麦はTさんという別の方に助っ人でそばを打ってもらっていました。
その時にMさんはTさんに、ゆで時間を考慮して「蕎麦を太めに打ってくれ(作って)」とお願いしたわけです。
MさんとTさんが同じそばを作れるのかと言ったら、結構難しいのが現状です。
蕎麦打ちは、打つ人によって癖も出てきます。
よって、極太の蕎麦(麺)ができたというわけです。
Mさんは自分の想像していた面の太さよりも、はるかに太い麺が出来上がっていたことに笑っていたのです。
Mさんはとても可笑しそうに笑っていました。
説明しているときも、可笑しそうに笑っています。
私はというと、忙しいことを忘れて、関心していました。
そして、Mさんにつられて笑っていました。
笑い上戸はつらいです。
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