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AIが普及しても別に絵師の仕事は無くならない

最近インターネット上で良く見聞きする『画像生成AI』について考察し、今後『イラストや漫画』業界とその周辺がどのような形に変化していくのか?を考えてみたいと思います。(2022/10/13現在)
文字ばかりなので目次を見て興味ある部分だけ見て頂くのが良いかと思います。

NovelAIDiffusionで出力した初音ミク1

前置き

形を変えて絵師の仕事は残る

結論から言うと私が考える未来としてはタイトルにあるように「イラスト業の仕事は無くならない」です。

予想される未来についてのイメージを最初に話したいと思います。
ビジネス上で使用されるイラストや漫画などについては、作成工程の多くが自動生成に置き換わり効率化されるでしょう。例えば広告漫画、資料用イラスト、Webサイト用素材、商業誌、同人誌、などBtoB、BtoCと言われる企業が行うビジネスにおいて使用するイラストなどです。これらはAIが作成したイラストが用いられるようになるはずです。
そしてCtoCと呼ばれるユーザ間の取引に関しては市場規模が縮小しつつも現在とほぼ似たような形で残ると思います。
なぜそのような形になっていくのか?本記事ではそのあたりを深堀していきます。

なおここでは説明を省きますが、個人的な考えでは新技術や新方法論が社会に浸透し常識として根付くまで大体10-15年位のスパンは必要だと思っています。そのためここで記載する未来は「2035年くらいにはこうなってるのではないか?」という未来の仮定のお話です。
画像生成AIという狭い範囲でガートナーのハイプ・サイクルに当てはめて考えてみると今は「過度な期待」期ではないかと思います。

本記事の筆者の属性について

筆者においてはデザイナー、イラストレーター、漫画家等ではございません。またビジネスにおいてもプライベートにおいても上記の方々と金銭が発生するようなやり取りを行ったことは全くありません。

何故この筆者の属性を述べる必要があったのかというと、今回の話は立ち位置によっては非常にセンシティブで認知バイアスが掛かりやすい話と考えているためです。今回のテーマであるイラストなどを生業としている方々を見ると一種の自己防衛とも言える反応を示す方がわずかながらにもおり、そのため本記事は外側から見た考察という点をご理解おき下さい。


画像生成AIの現状

現在起こっていること

さて未来に対して思いを馳せる前に現状の状況、事実を抑えておくのが良いかと思います。一ヶ月半前にTwitterで下記のようにツイートしました。ここに来て画像作成AIのサービスが同時期に複数リリースされ、インターネット上でもよく議論され始めるようになりました。

そしてこのほんの約一ヶ月後の2022年10月3日にNovelAIというサービスが正式リリースされ界隈をより賑わすことになりました。

NovelAIとは

このNovelAIの機能の一つとしてイラストを自動生成してくれる機能があります。実際「どのような威力を発揮するのか?」は下記の2つのnoteの内容が分かりやすく読めました。「AIに指示する内容」も添えられているため、人間側がどのようにインプットを行い、どのようなイラストがアウトプットされるのか理解できます。基本的には作成したいイラストのキーワードをプロンプトという入力フォームに入れてボタンを押せばそれだけでイラストが出力されます。

これらキーワードやパラメータの設定で可愛い1枚絵のイラストはおろか、三面図まで吐き出すことが出来ることに驚きです。

なおインプット内容などは不明ですが、下記を見ると漫画のようなコマ割りでも一部出力は出来るようです。

また公式Twitterのリツイート内容を眺めるだけでもどのようなイラストが出力されているか理解することが可能です。そしてDiscordには現在42,000近くのユーザが参加しており、英語ベースのコミュニケーションとはなりますが画像生成するために必要なインプット情報の共有なども行われています。
なおこのDiscordサーバ自体には出入り自由なため42,000ユーザという数値には実際の利用者つまり課金ユーザ以外も含まれます。

NovelAIを使用した感想

私も$15のプランで課金して実際にNovelAIを使用しました。今回このページで使用している「初音ミク」のイラストは全てNovelAIによって出力されたイラストです。2,3時間使ってみた感想ですが

  • キーワードやパラメータを変えても絵柄を安定させることが出来なかった

  • 指の形もねじれているようなパターンが多かった

  • 「Twitterフォロワー10万人以上いる特定の絵師」の名前を入力しても画風を真似は出来なかった

  • 自分の描いた女性イラストをインプットとして髪型だけ変えようとしても、絵柄そのものが変わるため差分を作成するなどは出来なかった

このあたりはAIへの指示の仕方を学ぶ必要があるようです。現時点では自分がイメージしたような作品を出力させるためには相当工夫が必要そうです。
ただし圧倒的に作業工程を簡略化にする力、参考画像を出力する力は現時点でも確実に持っています。

また私が画像生成AIを使って出力した初音ミクちゃんのうち上手く出力された3枚を本記事で使用しています。そのうちの1枚が下記のようなものです。ほぼデフォルト設定で「swimsuit」などのキーワードを盛り込んだものです。NovelAI自体は正面絵は得意そうなのですが俯瞰、煽りなど構図指定するのには工夫が必要そうです。なお私は「looking down」などキーワードを指定しても思うような俯瞰イラストは出力は出来ませんでした。

NovelAIDiffusionで出力した初音ミク2

他の芸術分野AIの現状

ここで少し他の芸術分野のAIについても現時点の状況を確認していこうと思います。高品質なわりにイマイチ裾野が広がるのに時間が掛かっている印象を受けます。何故でしょうか?いくつか理由は考えられますが

  • 法規制の問題なのか?

  • 学習コスト、使用コストが大きいのか?

  • 品質が実用レベルに達してないのか?

  • 今回イラストという「視覚的」なものであったため人々に大きなインパクトを与えたが、他の分野に関しては視覚的ではないためインターネット全体に危機意識が広まらなかったのか?

このあたりの現状を少し考えてみたいかと思います。

音楽作成AIについて

東京大学で学術研究されていたOrpheusという自動で作詞作曲してくれるサービスが約10年前に「とある界隈」で大変盛り上がりました。私もリアルタイムでは追っていませんでしたが後から聴いてもその音楽の完成度は素人ながらかなり高品質なものに感じます。なおこちらのサービスは現在も稼働しております。

小説作成AIについて

こちらに関しては全く門外漢ですがGoogleで「小説 自動生成 ai」で検索したところ検索の一番上に『AIのべりすと』というサイトがヒットしました。試しに使ってみたところなんとかなり高品質なものがアウトプットされました。なお下記は実例です。

  • インプット内容(私の1分で作った創作です)

    • 私は前にも同じこと言ったよね!彼女はそういった。ことあるごとに彼女は感情を僕にぶつけてくる。僕はそんな気分屋の彼女に辟易していた。こんな狭い部屋で同棲するなんて到底無理な話だったのだ。もうそれ以上言うなら俺は出ていく。付き合ってられないよ。

  • アウトプット内容(上記に続く内容を自動生成してくれた部分)

    • 「いい加減にしてくれよ!」
      僕は彼女の言葉に耐え切れず、思わず怒鳴ってしまった。
      「ごめんなさい」
      僕の剣幕に驚いてか、急にしおらしくなる彼女。
      「もう嫌なんだ。君といるのは疲れたんだ」

以上の内容から他の分野でもAIがかなり成長しているにもかかわらず、人々の生産活動がAIに完全に置き換えるということは発生していません。これはいったい何故でしょうか?


人がAIに置き換わらない

他の芸術分野でも時間が掛かったり、置き換わらなかったりするのであればイラストや漫画の領域でも似たような現象が起きるのでしょうか?その場合一体何が原因でしょうか?個人的には下記3点だと推測してます。

  • 依頼者がアウトプット(ゴール)をイメージできてないから

  • AIが現時点での100点を出せるとは限らないから

  • 他人にお金を払ってやってもらった方が早いから

つまりどういうことでしょうか?この章ではその点をメインに書いていきます。

原因1: 依頼者がアウトプット(ゴール)をイメージできない

例えば広告用の漫画やプレゼンで使用するイラストを出力したいと思っても、具体的にどのようなアウトプットにすれば良いのか?どうすればより多くの人の目に留まるか?そのことを理解しておかないとぼんやりした構想は頭の中にあれど、AIを使ったところで出力された内容が広く受け入れられるのか判断することが出来ません。
資料に使えるイラストになるのか?多くの人に見てもらえるのか?最終ゴールを理解してないと「なんとなく」の画像が大量生成され、その中から人間が選別するという作業が生じます。

「こういった漫画を描けば良いよね」とぼんやりイメージできても、それを例えば「ネーム」としてストーリー性のある構成や構図にして、より多くの人に見て貰えるようなものが想像できないと、AIを使ったところで結局何度もリテイクすることになります。
ただ自分でリテイクを繰り返し行うことが出来るようになる点は大きな進歩ではあります。AIが出力する圧倒的な物量で押し切ることが出来るようになります。リテイクしていけば自分の想像に近い域に到達出来ます。ただ時間も掛かる上に本当にそのイラストや漫画が人の目を惹くのかどうか?はまた別の話です。

なお上記の件を考えるにあたり下記ツイートの一部が参考になりました。

さて少し別の視点から見てみます。
例えばTwitterなどで漫画やイラストを見た後で「あっこれ良いな!」と思うことはないでしょうか?ゴールを見てから初めてそこがゴールだったことに気付くのです。
具体的なゴールをイメージ出来ないとAIというツールを使ったところで進む方向すら間違えたり、これ良いな!と思うものがアウトプットできなかったりもします。自分でトライアンドエラーを繰り返すことが出来るようになってもある程度発想の方向性を持つ必要があります。
これが芸術分野のAIが完全に置き換わらない一つ目の原因です。

ただ注意点としては、さらに未来になるとゴールを示さなくてもビッグデータから人々のサイト閲覧時間など定量的な行動履歴からより多くの人に見てもらえたり、自身が良いな!となる最適化されたゴールを設定することが可能になると思います。その分析結果を基に漫画やイラストを作り出すことは可能かと思います。

ただしこの本質を考えてみましょう。AIにゴールを設定されるということは人はただAIに従ってゴールに向かうだけに成り下がります。人が「こういうものが欲しい!」と思う感情つまり「人の行動の動機付け」がAIによって定義付けられます。人々はAIに示されたベストと思われる道に従うだけというディストピアな未来が出来上がります。
「人の行動の動機付け」は人生を生きる上で最も大切なエネルギー源であり、ここが「ヒトとAI」を区別するものだと思います。「ゴールはどこか?」をAIに託す未来が来るとは私は思っておりません。少なくとも2035年程度では。

原因2: AIが現時点で100点を出せるとは限らない

さてどういうことでしょうか?何をもって100点とするのかは定義によりますし難しいでしょう。
例えば自分の性癖にヒットするイラストが欲しい場合はどうでしょうか?今までの閲覧履歴から一番最適なイラストをAIが描いてくれても、それが自分が一番興奮するもの、要は100点なのか正直分かりません。
今までの機械学習での傾向でアウトプットしたものなだけであって、その人の人生においてそれは100点のものか?は別問題です。もちろんこれは人間の作業においても同じことが言えますし、機械学習の方が人よりも高い平均点、例えば80点を連発してアウトプット出来ることは間違いないでしょう。
ただ機械学習は今までの傾向から分析した結果のアウトプットでしかありません。現時点の100点, さらに言うと120点を出して前に進むこと(絵の流行りを作り出すこと)はまだ出来ません。
これが芸術分野のAIが完全に置き換わらない二つ目の原因です。

原因3: 他人にお金を払ってやってもらった方が早い

こちらは実は現在でも同じことが言えます。
何かというと究極的に言えば今でも自分自身で欲しいイラスト、漫画を自分で描けば良いだけです。ただイラストや漫画を描く技能を身につけるには膨大なコスト(時間)を支払わないといけません。しかもその上で本当に欲しい技能が身に付くのかすら分かりません。
だからこそイラストや漫画の作成を技能を持った人に金銭で依頼したり購入したりするわけです。その方が効率的なので。

これは実はAIにおいても同じです。圧倒的に作製時間は短縮されますが適切なイラストや漫画をアウトプットするためにはAIというツールを上手く使いこなし、インプットやパラメータなど調整する必要があります。
恐らくですが今後「画像生成AIツールでイラストを作製するための学習コスト」は今までの「CLIP STUDIOなどでイラストを作製するための学習コスト」より費用対効果は圧倒的に改善されるでしょう。
しかしそれでもイラストを依頼する側としては自分でやるより結局金を払ってやってもらった方が早い、と判断する人が大勢います。そのためイラスト、漫画を欲しがる依頼者とAIを仲介する人、つまりインターフェイスの役割は残ります。
これが芸術分野のAIが完全に置き換わらない三つ目の原因です。

既にAIをサポートする作業は発生している

なおそもそもこれらAIに指示を出す作業は既に「プロンプトエンジニアリング」という言葉で表現されている方々がいらっしゃいます。これはAIが適切なアウトプットをしてくれるようにインプットなどを人が調整することを指しています。
このあたりに関しては下記のnote記事が大変分かりやすくまとめられているかと思いますので是非一読ください。

絵師や漫画家は形を変えて残る

ここまでのお話で「AIというツール」が普及してもAIが全てを代替してくれるわけではないという理由が分かっていただけたかと思います。今後は下記のような役割が重視されるようになります。

  1. ディレクター:どのようなアウトプットにするのかゴールを決める役割

  2. エンジニア:ツールを使ってAIに指示を与えてレタッチする役割

今後1と2を兼任する形でイラストレーター、漫画家という職業は形を変えて残るでしょう。また現在2だけ(本当にイラストを描くだけ)をやっている方も役割としては消えないので、AIツールが広まるタイミングを見極めて参入していけば今までの経験を活かせてエンジニアとしてアドバンテージを得られるはずです。

ただし一つ考えなければいけないことは、今までイラストレーターの競合相手はイラストレーターだけだった状況は変化します。
「今までイラストを描けなかったエンジニア(イラストの素人)が同じステージに立って競合相手となる」ということは認識しておくべきです。

ここまで色々書きましたが、アナログ絵がデジタル絵にシフトしていった時も大きな変化でしたでしょうが本質は変わらなかったはずです。
上記の「ディレクター」の役割は何もない0から1を創造する工程(どんな方針にするか)に近く、このワークは今出ているAIサービスではまず代替しにくいでしょう。もう少し新技術や新たな方法論を待つことになり2030年半ばには実現していないでしょう。
今回出ている画像生成AIサービスのポイントは0から1の創造する部分ではなく、1から100にクオリティを引き上げるという工程の労力が驚異的に削られるようになった、または今後削られていく話だと私は理解しています。

今後の展開まとめ

以上のことより、本記事の最初に示した通りBtoBとBtoCにおいては「クリエイト作業自体は自動生成に代替されるようになる」という結論になるわけです。ただ自動生成されようが周辺の役割は依然として残るため、職業も別の形にシフトしていくだろうという考察でした。


AIと人を区別するもう一つのポイント

ここで一気に話を変えますが、AIがいくら普及しても代替できないものがあると思ってます。

絵師(イラストレーター)そのものに価値を見出すパターンが存在する

昔の著名な画家など芸術家にはパトロンという金銭的なサポート、精神的なサポートをする支援者がいたと聞きます。もちろん今でもパトロンは存在し、後援会などもその一種でしょう。
要はクリエーター自身に何かの価値を見出して金銭を払うパターンが存在するのです。これは画像生成AIでは真似できません。

例えばその人が作りだすものに価値を感じ、この人の描く絵は綺麗だな、漫画は面白いな、この人にお金出して依頼したいな、と思うことは多くの人にあると思います。現にSkebというサービスが存在し、これはCtoCの個人間でイラスト作製依頼が行えます。依頼者側が望むイラストをテキストベースで依頼し、イラストレーター側がOKすればその好きな絵師の方にイラストを描いてもらうというサービスです。

このように「その人が描くイラスト」及び「その人そのもの」に価値を感じ金銭面でサポートしてくれるような人物は昔より一定数存在しました。

他にも似たような形で動画配信者、Live配信者に金銭を払う「YouTube」のスーパーチャット(通称スパチャ)や、毎月サブスクライブしてクリエーターに金銭を支払うFANBOXなどのサービスが存在します。これらも何か物を直接的に売買するわけではありませんが、支援の意味も含めてその人に価値を感じて金銭を支払うのです。

人は見返りを求めている

上記のようにその人の活動を支援したい!という価値を感じた時に人はお金を払います。ただし支援する側が何に「価値」を感じるかは人によって異なります。

  • ただ単にその人に今の活動を続けて欲しい

  • Skebの場合は自分が思うイラストを描いて貰い、望んだイラストを鑑賞して癒されたい

  • YouTubeのスパチャの場合はその配信者から認知してもらい承認欲求を満たしたい

  • FANBOXの場合は毎月何らかのR-18の限定公開イラストを見る権利を貰い性欲を満たしたい

など、純粋な支援以外にも価値を感じる場合があります。

クリエーターに価値を感じる「Skeb」「YouTubeのスパチャ」「FANBOXの支援」

ここまでの話を踏まえてもらうと「Skeb」「YouTubeのスパチャ」「FANBOXの支援する」などクリエーターそのものに対する価値を見出しているのでAIでは代替しにくいことに気が付くと思います。

Skebの場合はやはり他人にお金を払ってカスタマイズされたイラストを出力してもらう方が早いという点が大きいでしょう。画像生成AIを自分で使用することは出来ますが、優秀な作品を出すにはやはりAIの使い方と具体的なイメージが揃わなければ他人に依頼する方が早いでしょう。
また自分が依頼することでクリエーターに時間を掛けて作製してもらうことに価値を見出したり、オリジナルイラストの所有感(Skebは全てクリエーター側が権利を保有してますが)を持てるためなくならないと考えています。この場合NFTと紐づけてデジタルの所有権が流行る可能性もあると思います。

YouTubeの場合は上記で話した通り、配信者から認知してもらって繋がっている、他のファンよりも配信者に構ってもらえているという優越感を得ることが出来るのでなくならないと考えています。

FANBOXの場合は少し事情が異なります。
本来クリエーター支援サイトとしてFANBOXは銘打ってますが、イラストレーターを支援する場合は基本的にはイラストを求めてサブスクライブしている支援者が多くいます。Twitterにも月末に「FANBOX」という単語がトレンドに載るのを見れば分かるのですが、イラストレーターはその月に「何らかの成果物」を上げて、サブスクライバーにイラストという成果物を提供しているからです。これは本質的にはイラストを売買する取引と何ら変わらず実際のところ純粋な「支援」ではありません。

となると画像作成AIでイラスト作製の裾野が広がり自分でイラストを作製する人はサブスクライブを止めるでしょう。
ただしSkebの場合と同様に他人にお金を払って購入した方が早いと考える層と、本当の意味でその人自身へ「支援」したいと考える層は残るはずです。
となると現在と比較して規模が若干縮小される可能性はあると思いますが、まず大半は残ると考えて良いと思います。
なおこれはイラストレーター、漫画家に限った話なのでFANBOX自体の全体のパイは増える可能性はあります。

他人の時間はお金を支払って奪うことが出来る

さてここで考えて頂きたいのですが、色々な思惑が裏にあれど上記の通り経済的に支援する本質はクリエーターが創作活動に時間を使って欲しい、という支援者側からの意思表示でもあります。これはお金を払ってその人の時間を買っていることにもなります。もちろんクリエーター本人がやりたいことをやるための活動資金なのですが、支援者側からすると活動を続けて欲しいということは「時間」というリソースをその活動に投入して欲しいという意思表明でもあります。

他にも他人の時間を金銭で売買する例があります。広告業も基本的に「時間」を奪ってます。YouTubeや色々なサイトで広告を強制的に見せられることがあると思いますが、広告を見るということは時間を奪われて脳のリソースも奪われてます。もちろんその広告をきっかけに商品を購入することもあるのでマイナス面のみではありません。
ただしこの広告を見せることつまり「他人の時間を奪う」ことは誰かが広告枠を金銭で購入し、視聴者側の時間を奪っています。他人の時間は金銭で購入することが可能です。

結局何が言いたいかというとイラストそのものではなく「描かせる行為(時間)」そのものを購入する層がいるということです。これはイラストがいくらAIで代替されても他人の時間を奪いたいという人間の考えが無くならない限り、イラストレーターという職業が存在し続ける理由にもなります。

AIと人を区別するポイントのまとめ

上記で説明した内容が「CtoCのイラスト市場は多少縮小しつつもそのままの形で継続する」という理由でした。まとめると下記のようになります。

  • 好きな絵柄でカスタマイズされたイラストはAIが普及してもやはりお金を支払って人に依頼した方が早い

  • 自ら画像生成AIを使用できる人はFANBOXなどのパトロンサービスのサブスクライブを止めていくため市場は多少縮小する

  • 「他人の時間を買う」というAIではなく人独自の特性があるため本当の意味での支援者はお金を出し続ける


著作権について

さて、ここまで考察したものの上記について大事な点が話されていません。著作権です。AIが学習するための基となるデータ『大量のイラスト』の著作権の話です。

基となる学習データは誰のものか?

もちろんAIがイラストを描く際に基となる大量のデータが必要です。この基となるデータ、つまりインターネット上に公開されているイラストや漫画を勝手に学習データとして使って問題ないのでしょうか?

法律の専門家ではありませんがまず事実だけ述べると

  • 基本的に著作権はイラストを描いた時点で作製者に発生している

  • 著作権の中に同一性保持権という権利があり無断で改変することは禁止

  • 機械学習そのものに使うことは禁止されていない

となります。ここまでが事実です。
次からは私の考察なのでお気をつけください。30分程度インターネット上を調べましたが機械学習自体は禁止されてないので著作権的にも問題ないとの記事がありました。そのためNovelAIなど全く問題ないように思われます。

そうなるとクローラーでインターネット上を周遊し自動的にイラストや漫画を収集する、そしてその収集したイラストをデータベースに収めて学習データとして蓄えるまでは問題ないでしょう。ただほんとにそうでしょうか?そのデータを利用してAIがイラストを出力するのは問題ないのでしょうか?

個人的にはアウトだと思ってます。何故かというと今回の画像生成AIに関しての要は「インプット」と「アウトプット」が同じステージに立っているからです。画像から画像を作りだしているからです。
例えば顧客の行動履歴を解析しておすすめ商品を出す、などという機械学習とは別モノだからです。この場合「行動履歴」と「おすすめ商品」はモノとしては別のステージです。

インプットとアウトプットが同じだと何が問題か?

を見る限り機械学習として解析して出力するのは問題ないと書いておりますが下記のような記載があります。

ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

著作権法第30条の4

今回のイラストにおいてはイラストレーター(著作者)の不利益になり得ると考えられます。また同一性保持権の観点から言っても改変して公衆の場に公開するまでは許されてないように見えます。
そのためインターネット上に公開されているイラストでも無断で機械学習のデータとして使用するのはアウトと考えられます。

ここで下手なたとえ話となりますが、日本語で出版された本を翻訳機にかけて勝手に英語版を販売することに問題があるのと同様でイラストでも元データを使用するのであれば元データの著作者とライセンス契約が必要にあるように感じます。翻訳もインプットとアウトプットが同一で「文章」から「文章」への変換なので同じように考えられると思っています。

どのように学習データを用意するか?

では大量の学習データをどのように用意すればよいでしょうか?この問題をクリアする方法が2つあります。

  1. 今の状態を認めるように法改正する

  2. 清廉潔白な画像生成AIプラットフォームを作る

1点目はクリエーターには酷いようですが今の状態を法律に寄せれば解決です。
2点目は今現在mimicが実質行おうとしていることに近いでしょう。クリエーターが機械学習のデータとして使っても良いと許諾を取ったイラストのみを学習データとして使用するイラストプラットフォームを作るということです。下記のツイートにも書いております。

またもう一つ方法があると考えています。
例えばそれは先ほど話した「Skeb」のイラストを学習データとして使うということです。清廉潔白な画像生成AIプラットフォームを作るためのイラストが揃っているからです。(今は二次創作についてはいったん目を瞑ってください。)

当初よりSkebは「クリエイターが直接描いたイラスト、漫画」でなければ納品が認めれておらず、最近では納品時に「AIで作製したものではない」という確認を求められます。こちらのサイトは基本的には手動で描いたもののみが許されており、クリエーター側の許可さえあれば大量の学習データとして使うことが出来るはずです。

「イラスト」ジャンルでイラストや漫画以外の3Dモデルやスクリーンショット、AIが生成したデータの一部または全部を納品することはできません。
また指定ジャンルと異なる形式で納品することも規約違反となります。

https://skeb.jp/creator

学習データを集める今後の流れ

機械学習には学習データが必要です。著作権的に問題がありそうな学習データを使用した画像生成AIプラットフォームを企業側が採用することはコンプライアンス的に難しいと思います。
そのためイラスト投稿プラットフォームに下記のようなチェックボックスが今後追加されるでしょう。

✅学習データとして使用することに同意する

これは昨今の個人情報保護法やEUのGDPR(一般データ保護規則)と同様に「権利は大事に扱うからデータとして収集するのは問題なしとさせて下さい」と同意を得るものです。
チェックされたイラストだけ使用する、またはチェックしないとイラスト投稿させないという清廉潔白な学習データをイラスト投稿プラットフォームが集めて、その学習データを使用した画像生成AIを企業が使うような形になるかと思います。

アウトプットしたイラストの著作権

最後に出力したイラストは誰のものでしょうか?
簡単に言うと恐らくボーカロイドのような棲み分けになるかと思います。ボーカロイドでは楽曲作成者が著作権を持つことになっており、画像生成AIも作製した人に著作権が発生することになるでしょう。
ボーカロイドも画像生成AIもツールの一つという捉え方です。

またはプラットフォーム側に「善意」があればプラットフォーム運用側が著作権を持つという方法もあり得ると思います。
「Orpheus」の作品著作権の考え方が一つ参考になると思います。このOrpheusですがとある一部の悪意を持つ人物が大量に押し寄せてきた時期があったため、プラットフォーム自体が誠意をもって差し止めに掛かりました。個人的には責任ある素晴らしい行動だと思います。

作品の音楽面の著作権は、形式的に本システムの運営者が保持することを謳っています。しかし、実質的に気にする必要はありません。

・基本的には、炎上やいじめなどの悪用への対策です。
・理念的には「コピーレフト」方式に近いですが、もっと緩いです。
・パブリックドメインにしてしまうと悪用に対処できなくなるので、著作権だけは残しておき、実質的に自由に使って頂くという立場です。
・人工知能の生成物の著作権は、裁判では認められない可能性があります。 しかし、裁判で争ってまで本システム作品を悪用したい人は僅少と考えています。

Orpheus よくある質問「作品の著作権はどうなるの?」

最後に

今回はNovelAIの登場で視覚的なインパクトが大きかったため盛り上がりましたが、状況はすぐに変わりません。法律的にも技術的にもすぐに世界が受け入れ、常識が書き換わるなんてことはまずあり得ません。歴史書を見ると一夜にしてひっくり返したように感じる出来事も実際は長い年月が掛かっています。レガシーなものも残ったり、ゆっくり置き換わっていくだけです。

なので10-15年スパンで上述したように世界が変わっていくので、乗り遅れないように今は様子見で大丈夫でしょう。
ただビジネス的に勝ちに行きたい人は乗る必要があると思いますが…

なお今回NovelAIを使用する際に下記を参考にさせて頂きました。ありがとうございます。


Header photo by NovelAI


本記事を読んでくださってありがとうございます。他にもニュースの考察や読書感想などをメインに記事を作成していきます。よろしくおねがいします~