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第三十七景 マッチングアプリ大戦記 episode4

「4人目 Tさん アラサー 愛子内親王様似」

これは完全にしくじったパターン。このころは思うような人とマッチングしなかったのと2人目の人と付き合うと思っていたので、仕切り直しに焦っていた。趣味から攻めて顔が無くてもいいねを送り付けていた。この人は首から上がなかった人。

当時は気が狂っていたので、会うまで顔が完全に分からない人もいた。顔も性格も重視する僕にとっては、かなりの挑戦的な発想だった。

自分で可愛くないと言っていたので、謙遜だと思って会おうと思った。それでも顔写真を送りたいと言って聞かないので、送ってもらったのが間違いだった。

多分一番盛れていたけど、普通に好みではなかった。愛子様だった。謙遜ではなかった。顔を理由に会うのをキャンセルするのは流石に心が痛んだので、どっちにしろ会うという選択肢しか僕にはなかった。

紅葉を見に行くことになり、有名な公園へ行くことになった。紅葉のピークとぶつかってしまったので、混雑が心配だった。お昼はわっぱ飯を食べることになり、お店の前で待ち合わせることにした。

10分前に着いたので、店の前のベンチでまだかまだかと待っていた。数を重ねても初対面の人と会うのはもの凄く緊張するのだ。愛子様がやってきた。

始めは僕の近くにいた人を僕と勘違いして、その人にあいさつをしていた。違う人だと気づき、僕に近づいてきた。明るく礼儀正しい女性だったが、やはり愛子様であった。

店に入る。対面で向かい合う。この時からだろうか、カウンター情報の嘘に気づき、対面で向かい合うことにしたのは。でもこの時ばかりはカウンターがいいと思ってしまった。

わっぱ飯は、わっぱという器にご飯が盛りつけられ、その上に魚やエビやら海鮮やら鮭やらが乗っているものである。お互いそれぞれの好きな具材を頼んだ。

同じ県出身だと思っていたが、違う県の人で初耳だった。カラオケが好きで、カラオケボックスでレコーディングできる施設?みたいのがあるらしく、そこに行ってよく歌っているということを話してくれた。

歌うことは好きだが、カラオケは苦手だ。僕の好きなグループやバンドの曲が歌えるお店が少ないし、車の中でいつも熱唱しているから、そもそも行く必要がない。

そんな話をしていると料理が運ばれてきた。恐れ多くも愛子様に割り箸を丁寧に渡される。水を注ぎ足してくれたり、おしぼりで拭いてくれたり、とにかく気を遣われた。気を遣われるのは苦手なので、少し素気なく断った。

店を出て別れようとしたが、目的は紅葉を見ることだと思い出した。正直気乗りがしなかったが、仕方がなかった。どこか上の空で紅葉を眺める。盛りなだけあって綺麗だったが、隣には愛子様が控えている。まるで従者だ。

僕は自分のことを従者と言い聞かせ、その後の時間を耐える。ぐるっと回ったところで、今度はその場所で有名なグルメを食べたいと愛子様は言った。パンダの形のお菓子だ。

好きにしてほしかったが、店の前には長い行列が出来ている。僕がこの世で嫌いなもののひとつが行列だ。みんなと同じ行動をするのはとても苦手だ。しかし今日は従者だ。仕方がない。お供しよう。

愛子様とともに並び、パンダ焼きを買う。今日は何の日だったかとぼんやり思い浮かべる。餅の中にあんこが入っていた。意外にボリュームがあり、おやつとしては少し多い。

ベンチに座って、愛子様と共に食べる。もち生地なので、冷めると固くなる。冷える前に食べよう。そして食べ終わったら帰ろう。

そんなことを考えつつ、相手のことを傷つけまいと、保身の気持ちで会うことは今後やめようとぼんやり思った。

手の中のパンダ焼きは固くなっていった。

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