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第二十八景 マッチングアプリ大戦記 episode1

これは僕が離婚したことで味わった喪失感を埋めるために手を出したマッチングアプリでの戦いの記録である。

マッチングアプリとはこういうものである。

僕が初めて使ったのは、「ペアーズ」という恋活にも婚活にも使える使い勝手のいい種類のものだった。男性会員はお金を払わないとメッセージ交換を続けることが出来ない仕様になっている。

いいねというものを送り、相手からもいいねが返ってきて初めてやり取りができ、その逆もありだ。プロフィールは真面目に埋めた。

僕の戦闘力【顔】満面の笑みでちょっと盛れてるやつ【年収】県平均年収にちょっと及ばない【学歴】大卒【身長】平均よりちょっと低い【体型】普通【結婚歴】離婚【酒、たばこ】飲む、吸わない【趣味】クラフトビール、山登り、音楽、飲み歩き、温泉、読書

「1人目 Tさん アラサー 上原浩治似」

この人はアプリを使い始めて、初めてマッチングした人だ。界隈ルールの1日1通の交換を守るタイプの人で、やり取りがなかなか進まず、やきもきした覚えがある。

相手のトップ写真は、目だけ出ていて、鼻と口は手で隠されていたものだった。目だけを見た感じだと及第点だったのと、小説が好きだったので、いいねを送り付けた。

まだ使い方に慣れていなかったため、効果的な自己紹介がうまく書けず、なかなかマッチングしない中でマッチングしたため、なんとか会おうと割と必死だった。

1日1通しかやり取りが進まなかったが、マッチから2週間後に会う約束を取り付けた。色々ネットでリサーチしたところ、カウンターの方が仲を深められるということだったので、揚げたての天ぷらをカウンターで食べることになった。

今考えるとカウンター情報を鵜呑みにした自分が恥ずかしい。本当に何が正解か分からなかったのだ。一度結婚したことがあると言っても、ひとりひとりとの付き合いが長かったため女性経験は少ない。

当日、僕は用意周到で心配性なので、約束の時間の2時間前に下見のため、店を訪れた。流石に早すぎるので、近くの大型書店で時間を潰した。たまたま、よく読む雑誌で人生を狂わす?本100みたいな特集をやっていたので、貪るように読んだ。

読んでいたらアッという間に時間が過ぎ、約束の時間の15分前になり、店に向かう。ドキドキしながら待つ。約束の2分くらい前に、ちょっと遅れるという連絡がきた。

結構人気店で予約時間が開店時間だったため、並んでいた客が続々と入っていく。時間をあらかじめ決めているのに、遅れる理由がよく分からない。

ワンピースを着た女性が駆け足で近づいてくる。たぶんこの人だと思って、ドキドキが最高潮に達する。

目の前に来る。対面する。

...。うん。やっぱね。そうだよね。鼻と口隠しはマスク効果だよね。大丈夫。話せば何とかなるよ。

という心の声を無視し、引きつってないか心配だったが、笑顔で挨拶を済ませ、お店に入る。

ふたり同じものを頼み、揚げたての天ぷらをカウンターで食べる。量、味、値段のクオリティが完璧過ぎて、自分のリサーチ力を褒める。会話はしたけど、緊張しすぎてほとんど覚えてない。

僕は完食し、残してしまった相手の分まで食べて、満足してお店を後にする。緊張してあまり話せなかったので、コーヒーでも飲むことになった。

1軒目は僕が払ったので、今度は相手の好意に甘えることにした。コーヒーを買い、ついに対面する。うん。やっぱダメかもしれない。顔で判断してしまう自分が浅ましい。でもやっぱりダメなのだ。

その後の会話で大学が同市であったことにびっくりしたが、覚えているのはそれだけだ。

性格的には、本当にいい女性だと思ったが、僕には合わなかった。

次からは顔がはっきり分かる人と会おうと決め、そそくさとコーヒー店を後にした。

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