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第四十一景 マッチングアプリ大戦記 episode5

「5人目 Mさん 20代半ば 片桐はいり似」

4人目の人と会った帰りに会う日が決まった人。この人も同じように顔が分からず、ぼかしてあった。

ただそれ以外の服装の雰囲気と、写真がオシャレに撮れていたので、やり取り中はちょっと期待していた。

写真を見せてくださいとは言えないチキンな性格の僕は、相手が写真を送りつけてくるまで、待つことが多かった。

この頃はマッチングアプリでやり取りが進むと、LINEに移行していたこともあり、大体そのタイミングで自分の本名を名乗った。

まともな人であれば、そこで相手も自分の本名を名乗ってくれる。名乗ってくれない人は、多くの場合、まともな人ではない。

ひょんなことから相手の本名を知った僕は、Googleで相手の名前を入れて検索する。下の名前の漢字が珍しかったりすると、結構ヒットするのだ。写真が載っているときもある。

名前がスタンダードな感じでも、名前と地域を入れたりすると引っかかる場合がある。これは手練れのネトストである僕の執念の結晶だ。

この人の場合は名前を入れただけで特定することができた。運良く写真を見つけた僕は後悔した。見なければ良かった。

予定をキャンセルするのに気が引ける。僕が取った行動は、顔を知らないという体で会うことだ。恐ろしく気乗りがしなかった。

以前から行ってみたかったハンバーグが美味しいと噂のメルヘンチックな喫茶店をヤケクソで予約した。

当日。もうでもよかったので、近くにある商店街をアテもなくふらふら歩いた。

そうやって歩いていると、時間がきた。待ち合わせの店の前に行く。10分くらい待っただろうか。

メルヘンな店内に入る。片側がソファ席、その反対側が椅子席のテーブルでソファ側がL字になっていて3人掛けだった。

メニューの配置的には、ソファのところに2人で座って欲しいようだったが、あえてメニューをどけ、椅子の方に座った。

一刻も早く帰りたい気持ちを抑え、ハンバーグを頼み、他愛のない話を繰り返した。

本当に店内の装飾が凝っていて、12月のクリスマスシーズンが近かったこともあってか、緑と赤がとても華やかだった。

ちょうど飾りのりんごがあったのでそれを手に取ってみた。本物か偽物か分からなかったので、その真偽を賭けた。手に取った感触では本物だと思った。

僕は本物。彼女は偽物。ちょうどハンバーグが運ばれてきた。そのタイミングで僕は店員の人に本物か偽物なのか聞いてみた。

「本物です!」と店員が愛想良く答えた。うおおおおお!勝ったあああ!と心の中で叫んだ。なんと大人気ないことか。

ハンバーグはぎっちりタイプのもので食べ応えがあった。玉ねぎのシャキシャキがいいアクセントになっていて、とてもおいしかった。

彼女の吐く息が次第に玉ねぎ臭くなっていく。ちょっと困る。

無言で食べることの方が多いが、女性と会う時は気を遣ってよく話すようにしている。黙り合う時間はほぼ無く食べ終えた。

そこから30分ほどまた会話をした。特に面白いことはなく、次に会う約束も出そうになったが、やんわりと、でも断固とした気持ちで断った。

やっと店を出ることができる。車の近くまで送った。まだどこか行きたそうにしていたが、ひきつった顔で断った。

自分の好みの顔の人と会った方がいいことを再認識し、苦い思いを噛み締めた。

帰り道を急いだ。

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