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第十五景 友達が出来る話
僕は焦っていた。約束の時間に間に合うかギリギリのところだ。なぜこんなことになってしまったのか?
話は数時間前にさかのぼる。
iPhoneの振動とアラーム音で目が覚めた。ほぼセットした時刻だった。
納豆ご飯の最後の一口を味噌汁で流し込み、麦茶を飲み干す。顔を洗い、歯を磨き、寝癖を整えるために髪を濡らした。
ドライヤーで乾かして、丁寧にセットする。スーツのズボンに足を通し、慣れない手つきでネクタイを結んだ。
上着を着て、カバンの中身を確認し、靴を履く。今日のために少し綺麗にしておいた。
30分。予定通りだ。エレベーターのスイッチを押し、賃貸マンションのエントランスへ向かう。
自転車に飛び乗り、最寄りの駅に向かった。普段、こんな朝の早い時間に電車に乗ることはないから、緊張していた。
案の定、通勤ラッシュにぶつかり、電車は混雑していて、満員といっていい状態だった。空き座席などあるはずもなく、1時間以上先の駅まで、立ったままだと思うとうんざりした。
僕はそんな気持ちを紛らわせようと、耳にイヤホンを着け、音楽を流した。
軽快な音楽が流れ始める。しかし駅に停まるごとに人が減るどころが、どんどん増えていく。
身動きが取れなくなる前にポジションを確保しようと思い、僕は耳からイヤホンを外した。案内表示と音声に頼るためだ。
密着度合いが増し、次第に汗ばんでくる。湿気も高く、居心地が悪い。
目的の駅が近づくにつれて、緊張感が高まってきた。この日のために考えたことを頭の中で復唱する。
ここで異変に気づく。便意だ。
この便意が安全なものなのかどうか、僕は便意の正体を探ろうとする。
我慢すれば引っ込むものなのか、すぐに対処が必要なものなのか。
不幸なことに後者だった。ついさっき前の駅を出たばかりだ。
吊り革に捕まり、不安定な足場で気とケツを引き締め直す。冷や汗が流れ始める。
便意とのせめぎ合いが続くが、次の駅が近づいてきた。戦いに終わりが見えてきたのだ。
停まると同時に、ドアから飛び出す。慌てて駅のトイレを探すが見当たらない。
コンビニくらいあるだろうと思って、駅の外に出た。便意に耐えつつ探すが、なかなか見つからない。
あった。店の扉を壊す勢いで駆け込み、トイレへ突進した。
ドアノブに手を掛ける。
ガチャ!ガチャ!ガチャ?開かない。赤表示だった。
なにかが出る予感がした。
違うコンビニを探すべく、外へ出た。数分右往左往するが、なにもない。
でもなにが出る予感はした。
限界を迎えつつあった。もう一度さっきのコンビニに戻った。
最後の望みだった。開いてなければ間違いなく出てくる。
青マークを確認する余裕すらなく、ドアノブに手を掛け回した。
開いた。ズボンを下ろし、腰をかけると同時に出ていた。
本当に間一髪だった。
ここで僕は気づく。今日の最大の目的はトイレを見つける事ではなく、面接の試験だ。
駅に戻り、次の電車に乗る。ギリギリ間に合うかどうかだった。
僕は焦っていた。いっそのことバックれてしまおうとも思ったが、可能性にかけてみようと試験会場に向かった。
頭はパニックだった。
会場近くの駅に着き、死に物狂いで走った。
1.2分過ぎていた。完全に過ぎるなら電話をし、謝罪をするべきだったが、間に合う瀬戸際だったのと、なによりパニックだった。
社長や採用担当に詰められたが、漏れそうだったとは口が裂けても言えず、お腹が痛くなったとだけ言い訳した。
もちろん面接試験には落ちた。
それ以来、ポーチには赤玉と下痢止めが常備されている。
僕の大切な友達だ。
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