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第六十一景 マッチングアプリ大戦記 episode10-5

アパートに彼女を送り届けたら、そのまま帰ろうと思ったが、名残り惜しくまた部屋に入ってしまった。おそらく好きになっていたのだろう。

彼女を後ろから包み込むように、足の中に入ってもらい、野球のアニメを見た。その逆に彼女の膝に頭を乗っけて、「帰りたくないよう」といじけるようなこともした。隙を見つけてはキスをした。

時間が過ぎるのはあっという間だった。これから3時間かけて、家まで帰らなくてはいけない。しぶしぶ、玄関に向かった。

向かい合い、キスをするために膝を折ったが「そんなことしないで」と言われ、彼女は背伸びをした。くちびるが重なった。最後にぎゅっと抱きしめ、ドアの外に出た。閉まるドアの隙間から覗き込んようにしたら、彼女の微笑んだ顔が見えた。

そのあとは、電話を欠かさずした。ビデオ通話もしたりして、近況を報告し合った。福島に移住することも考え始めていた。

彼女は、その中で職場の男たちとの出来事を話した。嫉妬させるような話だったので、とても怒ってしまった。いさめるようなことも言ってしまった。彼氏面で言われたのが気に食わなかったのだろう。そして人とのつながりを大事にしている自分を否定されたと思ったのかもしれない。

少し距離を置かれてしまった。旅行の1ヶ月後にまた会う約束もしていたが、コロナで県をまたいだ移動を規制されたこともあって流れてしまった。そういうところはお互い真面目だった。

距離を置かれてからも、しつこく食い下がったのが良くなかったのかもしれない。

挙句に「離婚歴のある人とは付き合わないと決めているんだよね」とも言われてしまった。そんなこと初めから分かっていたのだから、なぜ僕と会ったりしたのだろうか?

流石に頭にきたので、「どんなことがあっても、あなたの幸せは祈りません」みたいなLineを送ったらブロックされてしまった。

僕とは正反対の性格の持ち主で、とても頼りになった。僕の離婚歴がない場合の彼女との世界線を見てみたかったが、それは現実的ではない。

感情的にひどい言葉を使ってしまった。家も知っているし、謝りたい気持ちもある。でもそれをしてしまったら、ただのストーカーだ。

この人と過ごした時間のことを思い出すと今でも苦しい。それほど彼女に惹かれていたのかもしれない。しかしこの気持ちが風化するのを待つしかないのだろう。忘れるまで。

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