今、好きな詩 ~『詩集 すみわたる夜空のような』

20代の私も、
30代の私も、
40代の今の私も、
やっぱりこの詩が好きだ。

「行く道」

今、好きな場所
好きな花

今、好きな色
好きな匂い

今、好きな声
好きな人

今、好きな本
好きな歌

それらは何を意味するか

それら全部が
今、行く道を教えてくれる
行くべき道を教えてくれる

好きなものは刻々変わる
とるべき道も刻々変わる

『詩集 すみわたる夜空のような』銀色夏生
角川文庫

実家暮らしの大学、社会人時代(今から20年も前の話)。川沿いにある図書館に通った。大きな公団が並び、テニスコートがあって、テニスサークルの大学生とか社会人の笑い声が時折響く。桜並木がトンネルみたいになっていて。…桜の花の記憶はないが、緑の葉の中に赤いさくらんぼが見えた記憶はある。そうやって、図書館にたどり着いた。

茶色いレンガ(風)の建物が図書館で、扉をあけると図書館ならではのにおいがぶわっとする。階段をのぼるとちょっと薄暗い。着いた着いた。ほっとする。でも〈痴漢に注意〉なんて貼り紙があって、その貼り紙をみるたび、あまり人気(ひとけ)のいないコーナーは気をつけた方がいいなと思った。

詩の棚で、銀色夏生さんに出会った(なつきさんだと長らく思っていたけれど、なつをさんという女性の方)。詩集というものをそれまで読んだことがなかった。けれど、銀色さんの詩を手にしてから夢中になって読んだ。私の心が求めていた言葉が連なる詩に出会えると、びびっと電気が走るかのような気持ちになる。心が喜んでいる。そんな瞬間を味わいたくて銀色さんの詩をたくさん読んだ。

仕事帰り、いつもまっすぐ帰らないでふらふらしていた。自分の仕事や生き方に迷いが生じていたから、どこかに答えがないかと探し歩いていたのだ。駅ビルの本屋、自己啓発コーナー。あまりに見過ぎるとばかばかしくなってきたりして(それは読んでも変わらない自分に対しての意でもある)。その近くの文庫本コーナーに、銀色夏生さんはいらっしゃった!

詩集『すみわたる夜空のような』

手にとり、表紙に見とれレジに向かった。うちに帰ってページをめくると、私に必要な言葉がつまっていた。抱きしめたくなるような詩集。中でも「行く道」は私を励ました。

一度古本屋に売ってしまったが、数年前に再び購入した。「行く道」を何度も思い出すから。昔、手にした文庫はカバーが少しざらざらした紙だった気がする。今持っているのはつるつるで、ちょっと残念。手放してしまった自分が、一番残念。

昨日、1ページずつ味わった。久しぶりという感覚と、こんにちはという感覚。不思議。何度も読んだのに。詩集のタイトルにもなっている「すみわたる夜空のような」という最後に掲載されている二行の詩が、静かなのにとても力強いことに気づく。
力がわいてくる。

その二行はこれから読む方のお楽しみだから、引用しないででおこう。



これが私の

今、好きな本
好きな詩