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友だちの友だち

小学生の頃、仲が良かった友だちの惣田くんは、商店の息子だった。学校の帰りにそのまま惣田くんの家に寄った。ちょっと待っててと言って、惣田君は商店の入口からお店の中に入って、冷凍棚からソーダ色のアイスキャンデーを2本取り出し、レジのおばさんに見せてから、そのまま持ってきて、1本を僕にくれた。惣田くんの部屋に行くと、ビールケースをひっくりかえして並べて、その上にふとんを敷いたベッドがあった。

惣田くんの家の道路をはさんだ向かいに大きな古めかしいお屋敷があった。一学年下の男の子が住んでいて、惣田くんと仲が良かった。惣田くんは「ちょんた」とその子のことを呼んでいた。ちょんたはいつも笑顔だった。惣田くんと一緒にいると、ちょんたも合流して3人で遊んだ。

ある日、3人で遊んでいると、ちょんたの家に行こうと惣田くんが言った。ちょんたは別に家があったのだ。3人で自転車に乗り、遠い距離を走った。ブロックの集合アパートに着いて、ちょんたは1軒の入り口の鍵を開けた。玄関の戸についている郵便受けから落ちているチラシや郵便物を拾い上げて、玄関の横の下駄箱の上に置いた。3人で中に入った。

きれいとは言えない居間だった。ほこりが積もっている。家具もほとんどなかった。壁掛け時計がかかっていたが、針が止まっていた。押入れと仏間が並んでいる部屋があり、押し入れの開いている戸の奥にふとんが何組か積まれていた。押し入れの並びの仏間の観音開きの戸が開いていて、中が見えた。位牌があった。転倒していた。ネズミのフンだろうか、黒い粒がたくさん落ちていた。

ちょんたのお母さんは死んでもういなかった。お父さんは船員で年に2回くらいしか帰ってこなかった。ちょんたはおばあさんと惣田くんの近所のお屋敷で普段は暮らしていた。お父さんがたまに帰ってきた時、ちょんたはこの家でお父さんと過ごすらしかった。お父さんは今度いつ帰ってくるのと聞くと、わからない、帰って来たら連絡をくれる、いつも待っている、とちょんたは楽しそうに答えた。

身体が大きかった惣田くんは柔道を習い始めた。自然と遊ぶ機会が減っていった。ソーダ色のアイスキャンデーをもらうこともなくなった。ちょんたとも会わなくなった。ちょんたはニックネームだが、僕は彼の正しい名前を知ることはなかった。

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