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孤独のプラネタリウム

雨が降って、街は霧にかすんでいた。駐車場に車を止めた。こども遊学館という名前の建物があって、ここにはプラネタリウムがある。外から見ると、白くて丸い卵のような形をしている建物だった。午後4時から一般向けの上映が始まることになっている。少年たちが開場を待っている。時間になり、天井がドーム状に盛り上がっている円形の部屋に入った。リクライニングシートに座り、背もたれを倒した。まもなく暗くなり、プラネタリウムの上映が始まった。きれいな星空が広がった。こんなにきれいな星空はプラネタリウムでしか見ることができない。視力が悪く、眼鏡をかけているので、実際の夜空を見上げてもぼやけているのだ。プログラムが進行していった。

子供の頃から一人で過ごすことが多かった。夕方、学校から帰るとすぐ部屋に行きラジオを聴いていた。ちょうどその時間帯はベストテン番組が入り、その時々のヒット歌謡曲が流れてきた。レコーダーにカセットテープをセットして、ラジオ番組から流れる歌を録音して、それを繰り返し聴いた。当時は土曜日も学校で半日授業があった。自由に過ごせるのは日曜日だけだった。

少年の頃、住んでいた街には青少年科学館という建物があった。そこでプラネタリウムと出会った。街の真ん中に大きな池のある公園があり、その敷地内に青少年科学館が建っていた。科学館の一角がドーム状に盛り上がっていた。ドームは銀色だった。

日曜日はよく、自転車に乗って青少年科学館に出かけた。プラネタリウムの上映時間までは展示室を見た。展示室にはテレビ電話があった。テレビ画面と黒電話の受話器のセットが、数メートル離れたところに向かい合って設置され、お互いに画面の顔を見ながら通話ができるようになっていた。ほかにもセンサーで感知して喋りだす人形があった。金色に塗られたがいこつのキャラクターが、センサーに反応して、「わははははは、わははははは、正義の味方、黄金バット」と繰り返し叫んだ。当時のわたしの感覚でも、古い昔のキャラクターだ。かわりばえのしない展示だったが、毎回きちんと飽きずに見て回った。

上映時間になり、切符をちぎられ、半券を持って円形の薄暗い部屋に入った。中央に投影機があり、丸くリクライニングシートが配置されている。プラネタリウムが始まる。いつも日没の空から始まる。だんだん夜が深まり、真っ暗な空に星がまたたき始める。解説が続く。今の時期見ることができる惑星の紹介や、星座とそれにまつわるギリシャ神話や、宇宙開発の話題。木星や土星のアップの写真や、アポロ計画の月への挑戦や、スペースシャトル開発などの話題に心が躍った。徐々に夜明けの景色になり、上映は終わった。

その後は外に出て公園の池のほとりに行き、ボートを漕ぐ家族連れやカップルの様子を見てすごしていた。

雨が降り続いている。こども遊学館からの帰りの車を走らせた。プラネタリウムは楽しかった。昔のことも思い出した。今度また観に行こうと思った。

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