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同性に憧れを抱いた中学時代の話


中学生になった私は、スラムダンクに憧れバスケットボール部に入部した。しかし、私はバスケットボール未経験なので、当然2軍だった。
彼女、Rちゃんは運動神経抜群で、当然1軍で1年生でありながら試合に出ていた。
重たいボールも彼女が持つと軽く見える。女子でありながら、ワンハンドでシュートをうつ姿はすごくかっこよく見えた。

彼女、Rちゃんと私は同じクラス。
彼女は、ボーイッシュな女の子。サバサバしていて、誰とも群れない。けれども、誰とでも仲良くなれる、勝手に人がついてくる、愛嬌がある。
彼女の周りにはいつも人がいた。
きっと私もその1人で、休み時間に眠そうに机に伏せる彼女の近くに行き、少しだけ声をかけてみたりしていた。そんなことをしていたからか、彼女の持っていたものもよく覚えている。筆箱は真っ黒で、中身はシンプルにモノトーンの文房具が多かった、勉強は苦手なようであまり使用感の無いノートだった。

そんな彼女と部活が一緒だったという理由で、一緒に行動を共にしていた。…いや、私が必死について行っていたの方が正しいのかもしれない。
彼女の準備は早い。体育も一緒に行こうとするが、着替えが一瞬。私も急いで着替えた。そうして彼女の金魚のフンをしていたのである。

なぜかすごく彼女のことが気になっていた。

人気者の彼女が羨ましかった。一匹狼のようなのに自然に人が集まってくる。なぜなのだろう、不思議で仕方なかった。だから、彼女と同じ行動をしてみたかった。授業中彼女が寝ていたら、私も寝てみた。彼女になりたくて必死について行った。

いつものように休み時間に彼女の机を訪ねていたある日、彼女の小学校からの友人であるクラスメイトが近づいてきた。クラスメイトも一緒になって話していた。すると、彼女は「おなかすいたー美味しそうだな〜」といって、机に体を支えるように置いていたクラスメイトの腕に、口を近づけ、少し、歯をたてたのだ。
時間が止まった気がした。
「食べんなよ〜」と友人同士のただのじゃれあいである。ただ、私にはただのじゃれあいで済まされない、何とも言えない気持ちが残った。

春。彼女は部活でも慕われる。2年になって後輩ができても、ファンのように引っ付く後輩も現れたのだ。ダイレクトに「先輩!すごいですね!」「先輩好きです〜!」「先輩かっこいい!」と言葉と態度で尊敬を示す後輩の、Rちゃん語りを聞かされるのは、私だった。最初こそ、「わかるよ」「かっこいいよね」と共感し合えると話していたが、そのうちに彼女にベタベタする後輩に、嫌悪感を抱き始めるまでそう時間はかからなかった。

『触らないで』

単純にそう思った。

2年になると彼女は当然スタメン。
2軍の私にはスタメンの領域には入れない。
同じくスタメンだった、Aちゃん。リーダー格の子だ。Aちゃんもサバサバしているが、愛嬌もあって、尚且つ感情表現が豊かで可愛かった。
スタメンにしか分からわない気持ちもあるのだろう、ある日Aちゃんが試合後に泣いたのを見た。すると、そばにいた彼女はAちゃんを慰めるように頭を撫でたのである。近くでそれを一緒に見ていた先輩が「恋人同士みたいだよね」と言った。
「お似合いですよね」と答えた私の声はいつも通りだっただろうか。
いつからか私は『彼女みたいになりたい』から『彼女の特別になりたい』と思うようになっていってたのだと思う。


夏。遠征試合の日、空き時間にたまたま体育館裏で、彼女と2人にきりになることがあった。
そこで、昨日は緊張して寝れなかったことや、試合前は不安で泣いて眠れないこともある、とポツポツと話す彼女に、初めて人間味を感じた。
ただ、それより2人だけで話せる空間が嬉しくてたまらなかった。大分話をした後、「あ!これ誰にも言わないでね!幼馴染にも言ったことないんだから!!」と焦ったように私に言った。
誰にも言ったことない、幼馴染でも知らない、私だけが知っている『特別』が嬉しすぎた。「うん!内緒ね。」と言ったその時の私は史上最強に顔が緩んでいたと思う。

3年。
部活最後の夏だ。彼女はもちろんスタメン、気合がはいってる。私もベンチなりに応援した。『白、タイムアウトです。』いつものようにベンチへと戻ってくるスタメンに水筒を渡しに行く。すると、彼女の水筒の中が空になったのだ。私はほぼ試合に出ないので、水筒には沢山お茶が入っている。だから彼女に自分の水筒を渡した。 女子同士だし、ただの回し飲み、いつもやってること、しかしその瞬間、やたらとスローモーションで見えた。

その時、『あ、気持ち悪いな。自分。』

心の奥にある気持ちとは裏腹に、そう思った。


その後、部活は引退。3年でクラスも離れたため彼女と関わりを持つことが無くなった。『気持ち悪いな』と思ってから意図的に彼女のことを考えるのをやめた。ただ、卒業式の日。やっぱりなにか欲しくて、ほとんど白い卒業アルバムの後ろにみんなのノリにのって「ねぇなんか書いてよ」と、まるで何も考えていませんみたいな顔をして、書いてもらった。




あれから十数年たった今。
たまに彼女のことを思い出しては、あれは彼女が羨ましかったのだと、ただの『憧れ』だったと言い聞かせてきた。

いまだ連絡が続いている、中学時代の友達と昔話に花を咲かせていた時、「あ!そう言えば…」と彼女の噂を聞いた。
「Rちゃん今、女の子と付き合ってるらしいよ」


「へぇ、そうなんだ。
てか、Rちゃんなんて超久しぶりに思い出したわ」


そう言った私の声はいつも通りだっただろうか。




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