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追懐喫茶その1 阿佐ヶ谷 gion(ギオン)

シャワーを浴びる前に感じた数ヶ月ぶりの肌寒さ。最早当たり前と化した真夏のうだるような暑さは何処へやら、秋を半身、チラつかせる様な、心地よい季節がやってきた。まあ、どうせ2週間くらいで終わるんだろうな。気持ちがいい季節なんて、多分そんなもん。

お気に入りのレーヨンのシャツとウールスラックスを履いて今日も出掛けよう。

シャツは紫色。葡萄、というよりは葡萄ジュース。ヴェルチよりはワントーン明るい。あの革靴を併せて履きたい気分だったが生憎の雨。

雨はあまり好きじゃない。とはいえ待てども待てども雨粒の機嫌は良くなる一方なので、雨天決行。鳴り止まない仕事の電話を右から左へ受け流し、ブルーグレーの傘を透き通らせ、握って向かった先はあてもなく、途方に暮れる。

何もしていなくても疲れる時はある。一人は好きだと思い込んでいても、寂しくなるときもある。何も予定が入っていないのに時間だけが過ぎていく様を肌で感じて忙しなく、切なく感じるときもある。

気分転換に買い物でもしようかと彷徨うも、これと言った収穫はなし。散策を重ねた足が辿り着いた先は阿佐ヶ谷。


阿佐ヶ谷 gion(ギオン)

ネオンがお出迎えしつつ、店内に入ると異空間。


異国情緒も、趣深い和の香りも感じられるには感じられるが、留まることなく過ぎ去って、混ざり合う。

辺りを見回すと、北欧建築と煉瓦と佇まい、マーメイドラグーンを彷彿とさせるランプの色合い、所狭しと差し込まれた緑、メイドを想起させる使用人チックな店員さんの服装、アナログとデジタルが混在する時計の数々。本来相席するのも考えられない要素の集合体だが不思議と座ってみると落ち着くもので。

注文は既に決まっている。ソーダ水の青、フロートのせで。

青い。青よりも青い。とっても綺麗。見て満足だけど飲んでも更に嬉しい。しっかりと深く染み込む感じ。氷が溶けてもあっさりとしてそれもまた良い。

アイスも美味しい。モウみたいな白いバニラも好きだけど、個人的には、レディボーデンみたいな、真っ黄色に主張してくる感じのバニラが好き。

こうやって、喫茶店に来て、飲んでいる間、これといって中身のあることを行って過ごしているわけでもない。でも、それって凄く貴重な時間なんじゃないかって、最近思えてきて。

仕事に行って、作業の様にご飯を流し込み、金太郎飴の様な毎日を過ごす。そこには縛るもの一つ無く。なのに閉塞感に塗れている。

その点、喫茶店のこの限られた空間は、とある時代に取り残されて、それ故に目に見えない時間の流れとか、明日のこととか、モヤモヤしたアイツらのこととかを全部忘れて、展示会場の、一杯の作品と世界に浸れる。家じゃあまり目を通さない純文学を眺めてみたり、時には何も考えず、脳を空にして空っぽの時間をそのまま過ごすこともある。この時間は確かに必要だ。

ぶっちゃけ、明日も頑張ろ、とか前向きなことを心の底からは言えないわけで。嫌なものは嫌で行きたくないものは行きたくない。でも、今日ここに来てよかったと思える。

特に何をするでもなく、あまり中身のない時間かもしれないけれども、落ち着いたと実感できて、美味しいと感じることが出来て、来る前より少し幸せな気持ちになって、それが最低限で、最高の
幸福なのかな。

この一輪と女性のイラスト凄く好き。

生きるやる気はあまりないけど、きっとまた、
ここには来ます。

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