見出し画像

残酷な面影

あいつが逝ってから、どのくらい時が経っただろう。

トロくて、賢いやつではなかったが一緒にいるのは結構楽しかった。

ケンカばかりの日々だったが、仲は悪くなかった。
いわゆるケンカするほど仲が良いというやつだ。

街中を歩いていると、ときどきハッとすることがある。
一瞬あいつに似ていると思うのだが、よく見てみるとそうでもなかった。

おれが露骨に表情を変えて驚くものだから、変な顔で見られることもよくあった。中には血相変えて追いかけてくるやつもいた。

ある日、おれはあいつと瓜二つのやつと会った。

思わず声をかけると彼は黙って話を聞いてくれた。
それどころか深く共感して涙を流してくれた。

それを見ておれも泣いた。

よかったら遊びに来ないかと彼が提案した。

いつもだったらそんな誘いには乗らないのだが、そのときはおれもどうかしていたのだと思う。

油断していた。

たくらみに気づくまでそう時間はかからなかった。
気づいたときには遅かった。

やつは身体がきしむほどの力でおれを押さえつけ、舌なめずりをする。

「いただきます」

あっけない幕切れだ。
薄れゆく意識の中、おれはこいつと同じ青い毛並みのトムのことを思い出していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?