運動会への道のり
今年度の運動会は例年より遅く、10月に行われることになった。昨年は、全く出場する気がなく、保護者観覧席から、子どもたちの運動会を見ていた娘。今年はどうなるかなと、不思議だが不安よりも楽しみな気持ちで、私はその時期を迎えた。
いつもと違う運動会
夕方、担任の先生に会い、その日の学校での出来事や宿題を聞き、簡単な個別指導を受ける日は続いていた。そこで、先生から運動会の話を聞いた。
「今年はね、学年ごとの運動会になるんだ。2年生が運動会をしている時、他の学年は教室で授業。見に来る人も、2年生の時は、2年生の子どもの親だけなんだよ」
「6年生の組体操、見られないの?」
「そうだね、2年生は6年生が運動会やってる時は、教室で授業だから見られないね」
「授業もあるんだ。楽しみ」
「校庭で運動会やってるから、授業になるかしら(笑)」
「2年生は、何やるの?」
「徒競走と、もうひとつ、縄跳びをやるよ。音楽に合わせて、いろんな跳び方をしてみようと思ってるの。これから先生たちで、どんな跳び方にするか決めるから、決まったら教えるね」
「うん」
後日、先生が縄跳びで使う曲と、跳び方を教えてくれた。1年生の時、体育の授業で縄跳びをやっていたが、参加していない娘は、前跳びくらいしか、跳び方を知らないし、縄跳びをする機会も少なくて、跳べるかどうかはわからなかった。
少し跳んでみたら、前跳びは意外とすんなり跳べた。「前振り」という跳び方も、すぐにできるようになった。片足でのけんけん跳びと、駆け足跳びは、上手くいかなかった。
「おうちで、練習してみてね」
そう言われ、帰宅した。
私のイライラ
天気が良い日は、外で縄跳びをするには格好の気候だった。だが娘は、一向に縄跳びの練習をしようとしない。いつか「やろう」という気になるかもしれないなと、私は黙っていたが、時々、いつやるんだろうと、もやもやっとした気持ちが湧いて、勝手にイライラしていた。
夕方の学校で、縄跳びをやってみようと先生に言われ、跳んでみるも、練習をしていないので、できるわけがない。なのに、娘は悔しいと泣き、縄が足に引っかかると痛いと泣き、やりたくないと駄々をこねた。それを見て私はつい、
「練習しないのに、できるようになるわけがないでしょう」
「悔しいなら、練習すればいいの!」
「泣いたって、できるようにはなりません」
ときつい口調で娘を責めた。
そんな姿を見た先生は、優しく
「縄が引っ掛かって、跳べない子もいるよ。引っかかったら、やり直していいの。曲の途中でも、少し休憩してから、跳び直したっていいんだよ」
と励ましてくれた。
先生の言葉の威力は絶大で、娘は涙を拭き、何回も挑戦した。本当は頑張りたいんだなと思った。
帰り道、私は娘に
「ママ、またきついこと言っちゃったね。ごめんね。うまく跳びたかったんだよね。縄が当たると痛いもんね」
と謝った。
「いいよ、いつものことだもん。先生はあぁやって、いつも優しいんだよ。ママも見習いなよ。運動会、出たいな。去年出られなかったから。運動会の前の日の給食、カツカレーだし、絶対食べたい」
娘はそう笑って言った。
パワーフード
この日を境に、娘は縄跳びの練習をするようになった。ただ、練習しているところを、お友達に見られるのは嫌だからと、ベランダで練習した。曲に合わせて跳ぶのは、自分のペースと違い、難しいようだったが、縄が引っ掛かかることを、以前ほど悔しがらなくなった。
そうして迎えた、運動会の週。娘の「運動会に出たい」気持ちはどんどん高まっているのが感じられた。私は、運動会練習に1回も参加しないまま、いきなり当日に出るのだとしたら、相当な勇気だなぁと考えながら、ひたすら見守っていた。
運動会の前々日、その日は来年度1年生になる子どもたちの就学前検診があり、午前中だけの登校日だった。娘は
「今日は、午前中だけだから行く」
と朝から身支度を整え、登校した。
いつものように、教室に入るのに勇気は要ったが、クラスメイトがザワザワしており、校庭に出ていこうとしているところだった。先生に、何があるのかと尋ねると、今から運動会の応援の組に分かれて、全学年で集まるから一緒に行こうと促された。娘はもじもじしながらも
「行ってくるね」と教室に入っていった。
下校後、運動会練習が想像より大変だったと話してくれたが、その表情は明るかった。そして、今まで話したことのなかった、隣の席のクラスメイトに、お友達になってくれる?と声をかけたら、いいよ、と言われたんだと、嬉しそうだった。
そして、運動会前日は『カツカレー』のパワーをいただくため、朝から元気に登校し、2日連続での登校にクラスメイトから
「今日も来た!!」
と驚いて迎えられていた。
この日も、下校後、お友達と一緒に宿題をし、遊んで、楽しそうだった。パワーフード『カツカレー』は、辛かったらしい。そのことは、下校後真っ先に教えてくれた。
私はそれ以外の、学校での様子が気になり、質問した。だが、話す気がない時は忘れちゃった、と言い、ふと思い出すと急に話し出したりして、面白かった。その話を聞いていると、今までは、同じ保育園のお友達の名前ばかりが出てきたのが、そうでないお友達の名前も出てくるようになって、交友関係が少し広がっているようだった。
その夜は、珍しく夫が早く帰宅した。娘が意気揚々と、運動会では〇〇ちゃんと一緒に走るんだ、何番目の何レーンだからここから見やすいとか、縄跳びではこういうことをやるんだ、自分の並び順はこの辺りだと説明したので、夫は本当に嬉しそうに、
「ビデオのバッテリーの充電はできてる?満タンにしておかないと」
「容量に録画できるだけの容量はある?確認した?」
「三脚どこ?」
「レジャーシートで場所取り必要かな?」
など、保育園時代の運動会では私に任せっきりだった、準備に忙しかった。
「明日は、着いてすぐに着替えだから、いつもより早めに行きたいから、ママよろしくね」
そう言って、娘は寝ついた。
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