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鑑賞note 03:『中国で家を買う』石田周 監督

『中国で家を買う』は、フリーの映像ディレクター 石田周(Meguru Ishida)さんの映像ドキュメンタリー作品(DVD)。伊豆平成さんの『中国で家を買う』を見るというnoteの記事で、この作品のことを知りました。

石田さんはnoterの方ですが、今までまったく存知あげていませんでした。「中国で家を買う」というマガジン内の記事を見ると、2015年8月から中国吉林省延吉市のアパートで暮らし始め、10月に家(マンション)を購入。このDVDは、その家を「住める状態」に仕上げていく過程が記録されています。

中国のマンションは通常、住設機器が備わっておらず、内装もされていないコンクリート打ちっぱなし状態で販売されているのだそうです。キッチンも、トイレも、お風呂もない。床材も、壁紙も、天井も、照明もない。部屋を区切る壁も、ドアもない。要するに、生活するために必要なものが何もない。それを、自分ですべて手配して「住める状態」に仕上げていかなければなりません。

日本ですら大変なことだと思うのですが、それを中国で…。ちなみに、石田さんの奥さんは中国の方なのですが、石田さん自身は中国語が話せないそうです。2015年10月のnoteに「怒濤の日々」とお書きですが、「住める状態」になり、入居できるまで、内装工事に9ヵ月もの期間を費やされています。

石田さんは、ある内装業者と契約されるのですが、その業者が日本のように一括で仕事を引き受けてるのではなく、工事担当の違うさまざまな職人を、ただ手配するだけ。結局、入れ替わり立ち替わりやってくる職人たちの相手を、石田さん本人がすべてこなさなければなりません。

その職人たちの仕事の粗いこと、無茶なこと、稚拙なこと、雑なこと…。また中国では、業者まかせにすると、できるだけ利ざやをかせごうとして粗悪品を使われてしまう恐れがあるので、資材の手配は自分でするのが普通なのだとか。苦労して手に入れた資材が間違って届いたり、壊れていたり…。1時間30分ほどある映像作品は、まさに驚きの連続で、ことのなりゆきに目が釘づけになりました。

石田さんは、ギミックのない映像と、淡々とした女性ナレーションで、10ヵ月におよぶ過程を「報告」するように見せていきます。怒り心頭に達するような事態に次から次へと見舞われるのですが、ナレーションで語られる言葉は、それほど激したりはしません。その抑制のきいた編集のおかげで、目の前で繰り広げられる事態の「リアリティ」がかえって強く感じられるような気がしました。


マガジン内の記事「中国で家を買う・・・追記①」で、石田さんは、「この欠陥住宅を世に知らしめるため「中国で家を買う」の映像ドキュメンタリーの編集に入るのだ!」「あまりにも不合理な事の多い内装事情、これを判って欲しい、ただそれだけ」と書かれています。けれども、僕は「ただそれだけ」の作品だとは思いませんでした。

作品の最後に、石田さんは、「このような不合理なことの多い国で、素晴らしい映画を撮っている監督がいるのだ」と強いリスペクトを表明されます。そして、自分にそのような「監督する力」が備わっていれば、もっとうまく工事を進めることもできたはずだ、と。業者たちを告発するスタンスに留まらない、とてもフェアな視点だと思います。

ナレーションにときおり、「これが、中国なのだ」という、つぶやきのような言葉が差し挟まります。僕には、その言葉のなかに、「これもまた、人間の営みなのだ」という響きが聴き取れるような気がしました。『中国で家を買う』は、中国という国を舞台として「ありうべき人間の営み」を記録した、優れた映像ドキュメンタリー作品だと思います。


中国への出発間際の申し出に応えていただき、DVDを送付してくださった石田周さん、そして、作品を知るきっかけを与えてくれた伊豆平成さん、ありがとうございました。

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