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宅建士試験合格講座 民法総則 > 制限行為能力者制度 #1

第1節 制限行為能力者制度

いったん自分で結んだ契約(約束)は守らなければなりません。これが民法の考え方です。しかし、なかには契約をすることの責任がわからない人や、契約の意味すら理解できない人もいます。
そこで、これらの人々を自由な取引競争の犠牲から守るために、制限行為能力者として一定の契約は一人でできないことにしておき、一人で契約をしてしまった場合は、それがたとえきちんとした契約であっても後日取り消すことができるようにしているのです。

■ 1 権利能力、意思能力、行為能力

「制限行為能力者制度」について学習する前に、まずは3つの能力について説明しておきます。

(1) 権利能力
権利能力とは、権利をもったり、義務を負ったりすることができる能力です。
人には、生まれてからなくなくなるまでの間、権利能力があり、権利能力のない人はいません。したがって、父母とまだ意思疎通することができない乳児であっても、不動産を所有することができます。
また、人以外に、会社などの法人にも、一定の範囲で権利能力が認められています。
 
(2) 意思能力
意思能力とは、自分がした意思表示の意味を理解することができる能力です。有効に意思表示を行うには、意思能力が備わっている必要があります。意思能力は、子供であれば6~7歳くらいから備わりだすとされます。なお、意思能力の有無は一律に判断されるのではなく、契約の内容や契約時の状況などを総合的に考慮して判断されます。
契約の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その契約は、無効となります。意思無能力者〔=意思能力を有しない者〕がした意思表示は、その意味が理解できないまましたものであって、その意思に基づく意思表示とは言えないからです。
意思能力を有しない幼児や泥酔者、重い精神上の障害がある者などが契約をした場合は、意思能力がないために自分に不利な契約をしてしまったとしても、その契約は無効となり、これらの人は保護されます。

(3) 行為能力
行為能力とは、自分の判断のみで、契約などの法律行為をすることができる能力です。制限行為能力者は、行為能力が制限されているため、一定の契約などは、自分の判断のみで行うことができません。制限行為能力者として、民法は、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の4つを規定しています。

■ 2 制限行為能力者制度

制限行為能力者制度は、判断能力が不十分である者を保護するための制度です。
上記のとおり、意思能力を有しない者(意思無能力者)がした契約は無効となりますが、契約の無効を主張する者は意思表示をした時に自分が意思無能力者であったことを証明しなければならず、これは現実的にはかなり難しいです。また、それが証明されて契約が無効になったとしても、「一見して意思無能力者のようには見えないから契約したが、実は意思無能力者だった」というような場面では、契約の相手方が不測の損害を被る可能性があります。
そこで民法は、「未成年者」と、判断能力の不十分な成年者を判断能力の程度に応じて「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」に分け、この4種類を「制限行為能力者」とし、それぞれに保護者をつけて、単独でした契約は取り消せるという制度をおいたのです。
制限行為能力者制度では、契約をした時に制限行為能力者であったことを証明すれば契約を取り消すことができるので、契約をした時の意思能力の有無を証明する必要はなく、判断能力の不十分な人たちを手厚く保護することができます。また、契約の相手方も、未成年者かどうかは戸籍謄本を見れば分かるし、それ以外の3種類は登記されているため、公的な証明書によってそうであるかないかが判別できます。したがって、相手方も安心して契約できるようになります。

「後見開始の審判」、「保佐開始の審判」は、本人以外の請求により行われても本人の同意は必要としないが、「補助開始の審判」については、本人以外の請求によって行う場合は本人の同意を必要とする。


■ 3 制限行為能力者の保護とその方法

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